罵り嘲るは弱者ではなく獣であった
ベティーは腰の携えた剣を構えずにオーガの下へ進んだ。
「さぁ、やれよ」
彼は挑発するかの様に手を広げる。
「グアアァァァ!!」
オーガはベティーの行動を挑発と受け取ったのか、雄叫びを上げ強靭な肉体を駆使して彼を襲う。
その巨体からは想像もできない速度でベティーの前まで近付き、腕を用いて凪ぎ払う。
「がぁっ!」
オーガの強靭な肉体から放たれる一撃は重く、闘牛に当たったかのようにベティーは宙を舞い、ぶっ飛んでいく。
オーガの攻撃によってぶっ飛ばされたベティーはやがて岩肌が露出している壁に衝突し、崩れ落ちる。
「ぐっ!」
ぶっ飛ばされ壁に強く激突したせいか背中に強い痛みが走る。
(折れてるのかな……)
強い衝撃があったにも関わらず彼の意識はまだ残っており、命は絶っていなかった。
「はぁ……はぁ……ぐっ!」
オーガの凄まじい攻撃を喰らって生きているとはいえ、彼の体は一撃で隅々まで破壊され、ボロボロになっていた。
体を少し動かすだけで口から大量に吐血し、骨も軋む。
肺は潰れたのか、上手く呼吸ができず過呼吸になる。
呼吸を何度も何度もする事に上半身が動き体が悲鳴を上げた。
「ははは……なんだよ、一撃で殺してくれないなんて……それは酷ってもんじゃないのかな」
口から血を流しながら皮肉げに笑みを浮かべる。
彼にもう何もできる力はない。
オーガを殺そうと体を動かそうにも少し力むだけで悶絶するほどの激痛が走る。
もし、この地獄の痛みに耐え逃げる事ができても、上手く呼吸ができず酸欠になり倒れるだろう。
いいや、酸欠で倒れる前にオーガに追い付かれ今度こそ叩き潰されるのが先だろう。
そんな絶望の中、彼の瞳に希望は
灯っているはずなどなかった。
表情には出ていないが瞳からは諦めを感じとれ絶望が漂う。
光の灯らないガラス玉の様な瞳はオーガを見つめる。
その瞳からは
「早く殺してくれ」
と言っているかの様に全てを諦めていた。
その意思を感じているかどうか分からないが、オーガは一歩、二歩と大地を踏み締め確実にベティーを仕留めようと近付いてくる。
「グオオオオオオオ!!」
やがてベティーの目の前に立つと腕を大きく振り上げ、叩き潰す為に振り下ろす。
「ぐちゃあ」
肉がミンチになった音が森に響く。
オーガの手は赤く染まっており、腕を振り下ろした場所には血が沢山飛び散っていた。
邪魔者を排除した事を確認するとオーガは後ろに振り向き住処へ帰ろうとする。
帰ろうとするオーガだが違和感を感じた。
奴の……あの白髪の人間の死体は
「ドコダ」
「へぇ……喋れたんだ、頭ん中、全部筋肉のオーガが……珍し……」
後ろから先程、殺した人間の声が聞こえ急いで振り返る。
だが、声が聞こえた方向には誰もいず困惑する。
「いつまでバカな面出して自慢気に歩いてんだよ……オーガ如きが……」
先程と同じように人間の声が聞こえた。
それは驚いた声ではなく、オーガを罵り嘲る声であった。
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