報告書95枚目 台本は基本アドリブで
盛大に溜息をついていつものように椅子の背もたれに深く腰掛け眼前の二将に目をやる、ゆっくりできる限り声を抑え二人に語り掛けながらうなずく。すると眼前で平伏して声がかかるのを待っていたローフルとディア局長がそろって目の前で儀礼をおこない深々と頭を下げて静止する、どこか芝居がかった行動に不安を覚えすぐに顔をあげるように促すと二人とも此方をうかがうように頭を上げて真っすぐに目を向けてきた。
「さて、わが主、本日のご用件を承るのですな」
「アース王に置かれましてはご機嫌宜しいかと愚考しますのですのぉ」
二人そろってわざとらしくいつも通りのあいさつを行ないこちらから少しでも情報を聞き出そうとこちらをうかがっている。呼び出された状況的に考えればおそらく二人とも何を聞かれるのかも解っているのだろうし、呼ばれた理由もすでに考え付いているはずである。背後で構えているマリスもメイファも苦笑している気配がうかがえた。
「今回の面接について少し聞いておきたくてな・・・・・・・・」
どうせ回りくどく言ったところでローフルの報告は意図的に横道にそれて驀進していく状況を作り出す事が多い、ディアに至っては煙に巻くように永遠と訳の分からない賛歌をなぜか自信満々に心からされるのが目に見えているので、それらの無駄な時間を考えると素直に直球で二人に問いただすほうが早い。
「そのことでありますな?わが主の意にそぐわない愚か者はしっかり排除いたしましたのでありますな」
「ご安心ください、身元も背後もしっかりしているものを選んでいるのですなぁ、しかもご子息に対しての忠誠は疑うべくも無いのですなぁ」
二人とも自信をもって断言してくる。おそらくではあるが既に彼らの中での台本は決まっておりその台本の内容を私に説明すれば大丈夫と感じているのがうかがえる。もっともその台本がどこまで決まっているかは目の前の二人に関しては全く謎であり信用ができない、基本的にディアもローフルもアドリブだらけの台本を平然と演じてくるので台本自体が無意味になる時が往々にしてよくある光景だ。
「秘書に関してはわかるのだが・・・・そっちは少し早くないかな?」
「何を言われるのですな、わが主の血を途絶えさせるということは損益なのですな?いいですかな?そもそも・・・」
スイッチが入りツラツラと賛歌を始めたディアを放置しローフルに向き直るり手に持った扇子を振って意見を言うように促す。
「まぁ、時期的に早すぎる傾向ではあるのでしょうが・・・・・時間がございませんのぉ」
「・・・・・・・ふむ」
「現状我が軍はじりじりと戦線を押し返しておりますが・・・アース王が健在のうちに決着がつくかという疑問においては首をかしげる可能性があるのですなぁ」
扇子を首にあて考えをまとめる、ローフル的には子を生させ次の時代のバトンを用意したいというのが本音のようだ、最も年齢に関しては間違いなく早すぎるし、そう言った事を教えるにしてもやっぱり早いと思わざる得ない。そういった考えが表情に出ていたのか此方が口を開く前にローフルが意見をかぶせてくる。
「アース王・・・ご懸念はごもっともでありますが何度も言うように時間も手も資源も圧倒的に敵に劣っている我が軍において柱石たる王の血が消えるということはほぼ負けに等しい事になるのですなぁ」
「それにしても年齢を考えれば早くないか?」
「失礼ながら私に言わせればもっと王は子を生すべきですのぉ」
ローフルが真正面からぴしゃりと意見を述べてくる、この話題に関しては譲らないという意思表示だというのは察するに余りあるので扇子を閉じて背もたれに体を沈める、隣に目をやると相変わらずディアはツラツラともはや呪文のような勢いで目を閉じて自己陶酔しながら賛歌を続けている。
「フォルナスの話はとりあえず両名の言い分は理解した、だがメルティアに関してはどうする?」
「釣り合う方がおられないかと・・・・・・残念ながら統一の弊害と言えるでしょうなぁ」
「わが主の血に釣り合う方がおられないのですな!」
二人そろってこれに関しては相手がいませんと明言に等しい答えを瞬間で言い放った。気付くといつの間にかディアは賛歌をやめているのでこれ以上話を聞いても恐らく堂々巡りに落ちいる頃合いだ。これ以上二人に聞いてものらりくろりと言葉を濁して時間を消費するだけだろう。
「解った・・・・・・下がっていいぞ?」
「王のご賢察まさに海のごとしですのぉ」
「主の意向を我らがさらに伝えるために奔走するのですな!」
言ってることは狂信者一歩手前な二人は頭を下げると再び大げさに儀礼を行うと堂々と退出していく、そんな二人を見送りながら自分の考えをまとめる為、椅子の背もたれに体重をかけ寄りかかると目をつぶりゆっくり扇子を開け閉めするのであった。
「で?今回の話はどこまで計画通りですな?」
「さぁ?アドリブのぶっつけ本番だったからのぉ」
堂々とアース王の部屋から退出し、二人揃って与えられているローフルの執務室に戻ると、お互いにいつものように顔を突き合わせどちらからともなく苦笑する。
「そもそも台本も何も・・・書く時間も考えを練る時間も準備をする前に速やかに呼び出されたからねぇ」
「そうなると良く言えば臨機応変・・・悪く言えば行き当たりばったりですな」
「今回の出来事に関しては秘書を用意しフォルナス閣下に当面の味方を作るのが目的ですからのぉ」
「子飼い、もしくは信者ですな!」
何時ものアース王賛歌のディアの言い回しにも慣れたものである。ローフルの秘書二人が何も言わずにお互いのいつも飲んでいる飲み物とお茶請けを用意する。それを合図に二人に差し出されたお茶と珈琲を二人ほぼ同時に口をつける飲んで気を落ち着ける。しばらくの間お茶を飲んで同時に置かれたクッキーに手を伸ばし考えを纏めるかのように食べ続けた。
「結局今回の本題は?」
「圧倒的な各方面の人材不足でしょう」
スッと目を細めるとお互いに何時もの口調を改め、それぞれが手に持っている飲み物に口をつける。
「王やマーリン元帥のような指導者もその配下の将軍も現在はまだ現役ですがね・・・・・・・」
「不老不死でない限り引退はあり得るし戦死も視野に入ってくる・・か」
「激化する戦線で将軍死亡率は現在はほぼゼロに等しい、フォンブルク伯の一軒以来は存在しない」
「良くも悪くも・・・・・・・ですか」
ローフルが渋い顔をして眼鏡を拭き始めるのを合図のように、ディアは自分の白衣の裾を弄りながら考えをまとめるために暫くじっと目をつぶる。そんな状態は時間にしては数分なのだろうが傍にいる人間達には無限の時間にも感じられるような部屋の緊迫した空気がゆっくりと漂い始める。
「・・・・クローン」
「それは激怒か死罪でしょう」
「ならどうしろと?」
「将軍一人につき二人まで子を生すようにしてもらわないと不可能ですね」
「その将軍はほぼ王の妻・・・・・・」
「・・・・・・・・・はっはっはっは」
「ふっふっふっふ」
諦めたようにお互いがどちらかともなく笑いだす。ただし、笑っている二人はどう見ても眉間を抑えたり頭を抱えたりして楽しい雰囲気ではない。どちらかといえば殺伐とした空気で無理にでもお互いに笑っているのが一目見てわかる状況である。
「アルゲイン閣下が頼りとなっても・・・・」
「一人じゃ限度ありますものね」
「・・・・・私と貴方も子を生す計算でも」
「ローフルは2×2で4人、私が2人としても6人」
「その計算にいささか異議がありますがそれと考えても将官が不足しすぎだ・・・・・・」
頭を抱え二人して黙り込む。
「う~ん、私が頑張っても2人だよねぇ」
「ええ、それとしても8人」
「最低軍を維持したいならその三倍は・・・・・・・って」
怪しげな格好をした自称『黒幕仮面』、別名マオ皇帝陛下がクッキーをかじりながらいつの間にか話に参加している。ぎょっとしながら慌てて話をどう逃がすかを計算し始めるとニッコリと笑われて一言先に釘を刺された。
「じゃ、続けようか」
「・・・・・はい」
お代わりの紅茶とクッキーが補充され先ほどの二者会議から三者会議に移行する、ただし先ほどまでの空気とは打って変わって最大の上官が来たためお互い発言が鈍くなる。
「ほら、ローフル、ディア、意見を言いなよ」
「は・・・はぁ」
「そ・・・そうですね」
どこか空々しい空気が流れただひたすらクッキーとお茶を飲む音が部屋に響く、何を言っても恐らく地雷となるであろう現状況でそれを避けるために必死に二人は頭を働かせるのであった。
ある意味今回の騒動の中心といえる二人組が頭を抱えている時に、場所は変わってメルティアの執務室では部屋に置かれたベットの上で普段は見せない膨れた顔をした部屋の主が寝転がっていた。
「お兄様に秘書・・・・・・メルティアはいらない子ですかね・・・・」
ガジガジと親指の爪を甘噛みしながら今日起こったことを反芻する、フォルナスお兄様に秘書が三人も宛がわれた、これはお兄様親派であるディアとローフルの差配するところであったと聞いている。二人の差配で兄様も面談して選んだという秘書三人、それがメルティアの不機嫌の原因となっていた。
「あの二人がお兄様の不利になることをするとは思えませんが・・何か面白くありません」
自分の兄が取られた状況で自分でも理解できない感情で機嫌が悪いのだ、周りの付き人も普段はおとなしいメルティアが機嫌が悪いですと全身で表しているのではれ物に触るかのように遠巻きで対応していた。
「今後も考えてとローフルは言っていましたけど・・・・む~」
現状メルティアの機嫌を損ねているであろうその二人を追い詰めている黒幕仮面(自称)が見れば少し前の自分と全く同じように不機嫌そうにベットで派手にゴロゴロと転がっているメルティアの様を見て心から忠告したであろう、落ちるぞ・・・と。
「メルティアは~~~~~~あっ!」
ひと際大きな声を上げて転がった表紙に当然のように落ちた、それはもう見事に転がり落ちていつかの皇帝のようにわき腹を抑えてうずくまるのであった。彼女が今の心境を正しく理解するにはもう少し時間がかかるし、年齢を重ねる必要があったのである。




