超級編―国家を転覆させよう11
その提案に、シルビアは怒りをあらわにした。相手はこの国の大臣、イメリア・フォンティーヌ。
「あの娘を人質とし、黒い鬼を我が国の兵力にいたそう」
他の役人たちもそれは良いと言う。シルビアは会議のテーブルをたたいた。
「ならぬ!そんな非人道的なこと許せるか!」
「先代が鬼を追放してしまってから、我が国の兵力は落ちるばかり」
「我が国が国土を失ったのは先代よりずっと昔の王の時だ!ここ200年、国土は維持できている!兵力など必要ない!」
そうだろうとシルビアはアストラスを見た。軍の代表として会議に出ていたアストラスは首肯した。
「現在、これと言って兵力のひっ迫は見られない。軍のことに干渉しようと言うのなら、それはお門違いだ」
「そうでしょうか。そもそも、国境に鬼の兵がいればあの二人も侵入できなかったのではないかな」
「それは要らぬ仮定だ」
「そもそもアストラス殿は、あのふたりの処刑を望んでいるとか。そちらのほうがよほど非人道的だと思いますぞ」
イメリアも負けてはいない。アストラスは肩眉を器用に持ち上げた。
「当然だ。我が国の秩序は、鬼を入れないことによって成り立っている」
「貴殿は鬼なのになぁ」
「私は―」
「耳を切り落としたから鬼ではないと?」
「そこまでは言わぬ」
「ええい!ごちゃごちゃと!即刻国外退去させ、二度とこの国に立ち寄らぬよう言えばよいだけではないか!」
シルビアはそれで片を付けてしまいたかった。殺すことも、利用させることも嫌だった。
「それでは甘いのです」
「ええ、そこは私も賛同いたします」
イメリアはにっこりと笑った。胡散臭い笑顔だとシルビアは常に思っている。シルビアは憮然と椅子に座った。
「ならどうしろというのだ」
「だから処刑するのです」
「もったいない、我らが兵力として使いましょうぞ」
シルビアは頭痛がして、今すぐこの部屋から逃げ出したかった。
※
「すまぬ、すぐにこの国から出してやりたいのだが」
「いや、アストラスに捕まったのは私たちの落ち度だ」
なあ、とリリアはテラスでのお茶にもついてきたアストラスに顔を向ける。アストラスは答えなかった。
「しかし、処刑かこの国に仕えるかとはまた両極端に割れたな」
「まったくだ。イメリアは何かあるごとに鬼を入れたがっている」
「そんな奴がいるのか」
「ああ、戦力が足りないとか何とか言ってな」
「まあ、不安と言えば不安かもな」
リリアは見事な庭を見た。色とりどりの花が咲き誇り、雄大な木々が茂っている。
(そうだな。鬼がいなくなると言うことは他国に軍事的に後れを取る。そんな危険を冒してまで、どうして先代は鬼を追い出したんだ?)
リリアは視線をシルビアに戻した。シルビアは疲れたかのようにため息を吐いた。
(あの瞳の黒は、何か関係があるのだろうか)
『忌々しい、黒い鬼めが』
確かに馬車の中でアストラスはそう言った。アストラスは黒い鬼が憎いようだ。それも関係しているのか気になるところだった。
「アストラス、十六夜はおとなしくしているか」
「お前の鬼なら、食っては寝を繰り返しているよ」
「暇しているだろうな」
「見張りに構えとうるさいと報告があった」
「あいつらしい」
リリアはくすりと笑った。目が穏やかに細められる。それを見て、シルビアはまた申し訳なさそうに眉を下げた。
「その十六夜とやらとも会わせてやれぬ」
「問題ない。お互いを人質にされていたほうが、理にかなっている」
「お前は冷静だなー」
「外見年齢よりは長く生きているからな」
「そうだったな」
シルビアはやっと笑った。
「それに、シルビアはよくやっているように思う。古今東西、傀儡にされた王はいくらでもいるからな」
「―お前のほうがよほど甘い」
シルビアはそう言ってティーカップを口元に運ぶ。表情は少しだが柔らかいものに変わっていた。
「まあ、私たちは無事にこの国から出られるよう、うまく取り計らってもらいたいがな」
「善処しよう」
少女二人は顔を見合わせて笑った。
※
十六夜は眠っていた。することもないからだ。リリアには呼ばれないし、外の景色を見るのにも飽きた。十六夜はゆっくりと目を開いた。
「ここから出たくはないか?」
小さな声が、天井から聞こえてきた。十六夜は驚かない。人の気配は感じ取っていた。
「このままではお前たちは殺されるだけだ」
十六夜は答えない。
「仲間のことも心配だろう?」
天井裏にいる誰かは一方的に話し続ける。
「今日の夜、皆が寝静まった頃に牢の鍵を開けてやる。出たら東の尖塔に来い」
それだけ言うと、気配は去っていった。
「来いって言われても。出たらリリア殺されちゃうしな」
アストラスは強い。
でも
「暇だしな」
(ちょっと出るくらいならいいかな)
少し出て、話だけ聞いて帰ってこよう。そう決めると、十六夜は再び目を閉じた。




