幕間二 決闘
僕たちは基本的に従順だったが、全員がもの分かりのいいサルだったわけではない。長い時間が経つと、恐怖にも慣れる。最初のサルたちは、猫に石が届かなかったことも、声が喉の奥でつぶれたことも覚えていた。けれど、その後の猫たちは、あまりにもなにもしなかった。
寝て、腹を出し、魚を食い、火のそばの暖かい場所を占領する。王のように居座るくせに、王らしい仕事はしない。サルたちが喧嘩をしても仲裁せず、弱いサルが寝床を追われても岩の上から見ているだけで、自分に媚びへつらい、勝手にいい場所へ座るサルを咎めもしなかった。
それが長くつづくと、サルたちはすこしずつ失望を募らせた。王のくせになにもしない。なにもしないくせに、いちばんいい場所にはいる。そう見えはじめると、怖かったはずの毛玉どもが、ただ偉そうなだけの毛玉に見えてきた。
サルたちは、すこしずつ猫を見くびりはじめた。強いのではなく、ただ変なだけなのではないか。王ではなく、居心地のいい場所を選ぶだけの毛玉なのではないか。猫であって、虎ではないのではないか。
そういう考えは、たいへん見覚えのある形で、群れのなかへ広がった。
サルの王はサルであるべきだ、と叫ぶ者たちが現れた。毛玉にひれ伏すくらいなら死んだ方がましだと石を握る者がいて、猫の居場所に火を放とうとした者もいた。石は飛んだが、猫には届かなかった。枝は折れたが、だいたいサル同士の頭に当たった。
激しい闘争が起こった。
猫たちは言った。
「多くの血が流れる必要はない」
サルたちもウホウホと答えた。
「確かに三匹とも死ぬ必要はない。決闘で決めようぜ」
こうして、のちに宇宙侵略まがいと呼ばれる支配の決着は、サシでの喧嘩に持ち込まれた。
サルたちは沸き立った。ようやくこのときが来た。王座を取り戻すときが来た。毛玉どもから、取られたなにかを取り返すときが来た。この戦いに、誇り高きサルたちはプライドと未来を丸ごと賭けた。
代わりとして、サルたちは猫たちが所有していた王座と縄張り、所有物のように扱われてきた自分たち、それから、よく分からないがすごく快適な住まいを指さした。勝手に食べ物を出す装置、甘いもの、酔えるもの、煙の出るもの、空を飛ぶもの、地面を速く走るもの、光る板、音の出る箱も、ついでに指さした。
猫サイドは、それをすべて承諾した。
このとき、サルたちの瞳は自信に満ちあふれ、勝利を確信していたという。油断ならない相手ではある。超常的な猫であり、不思議な力も使う。しかし所詮は、まじない師のたぐいであって戦士ではない。猫であって、虎じゃない。
おまけに決闘といえば、肉体と肉体のぶつかり合いと古来より相場が決まっている。それは絶対的な宇宙の真理であり、武器が使えないという暗黙のルールでもあった。これにより猫たちは、決闘の場で摩訶不思議な力を行使することができなくなる。よって必然的に、スデゴロの勝負となる。
だが猫パンチの、いったいなにを恐れればいいというのか。そもそもタイマンで、猫ごときに自分たちが遅れをとるはずがない。そういう理屈で、サルたちは勝利を確信していた。
一方で、サル側のブレーンが、ひとつだけ冷静なことを言った。
「いや、ちょっと待て……」
その声に、浮かれていたサルたちが振り向いた。
「もし猫たちが決闘の場に立たなかったとしたら?」
風が、木々のあいだをざわざわと走り抜けた。
「……それは猫たちが逃げ出すということか?」
「そうなれば、私たちの勝利ではないのか?」
ブレーンは首を振って答えた。
「そうではない。猫サイドの戦士が猫であるとは限らないということだ」
意味分からん。
まわりくどい言い方をするな。
サルたちは、こいつのことを小突き回した。
彼が言いたかったのは、つまりこういうことだった。決闘に出るのはボスと決まっている。これは、子ザルにでも分かる当然の理屈である。しかしボスが怪我をしていたら、あるいは体調が悪かったら、二番目に強い者が戦う。それも駄目なら、三番目が出る。
では猫たちが、三匹とも体調不良を申し出た場合はどうだろう。決闘の相手は、必ずしも猫ではないかもしれない。卑劣な猫たちは、従えている大きめのサルを、しれっと決闘の場に立たせるのではないか。これは、サル対サルの戦いかもしれない。
しかし、サルたちはほくそ笑んだ。
「それならそれで構わない」
条件はイーブンになったが、その自信が揺らぐことはなかった。場合によっては、猫サイドの軍門に降った“日の出側の首長”や“岩みたいな男”、“大きくて速い奴”といった、名前のある強いサルたちが、自分たちの未来に立ちふさがることになる。それでも構わなかった。
「それこそ、虎が相手でも構わんよ」
誇り高きサルたちは言った。
「――私たちには、ザ・プレデターがいる」




