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ふたりで味わう

「それだ。」

「それ?」

「しっくり来た。」


 ◆


「はい、というわけでね、今回もお待ちかね!来てもらいまっしょう!ミスリルちゃ~んっ!」

「は~い!こ~んに~ちは~っ!チーム・ミスリルの看板娘!ミスリルよっ!」

「おお、どした。」

「ごめんなさい。キャラ間違えたわ。でも、ラヴィでしょ。アガるわよね。」

「マヂあげぽよ!……もうギャル語もどきしか出てこないんだが。」

「このノリで続けるのは諦めましょう。」

「そだね。」


 いやぁ、寄る年波には勝てんわい。


 ごほごほ。


 よっこら、どっこい、しょのしょのしょ、っとくらぁ。


 ふぅ、やれやれ。


「というわけで、今回はラヴィです。」

「ええ。」

「しかも、いきなり二本立て。」

「一本目が帝国版。」

「うん。」

「二本目が虹の架け橋。」

「そう。」

「感想から言っていい?」

「どうぞ。」

「だれやねん。」

「でしょうね。」

「いや、マヂで。」

「でも、かっこいいでしょう?」

「そこなんだよ! だれやねんなんだけど、マヂかっけぇんだよ!」


 私は、貼ったばかりの帝国英雄譚をぺしぺし叩いた。


「まず、こっち。」

「ええ。」

「帝国の守護者。怒れる兎の聖戦記。」

「盛ってるわね。」

「盛ってる。」

「かなり。」

「かなり。」

「でも、嫌いではないのでしょう?」

「嫌いじゃないねえ。」


 私は、少しだけ身を乗り出した。


「だってさ。」

「うん。」

「焦熱の砂漠と大蠍の処刑、だよ?」

「ええ。」

「火山の竜を従えし焔の舞、だよ?」

「ええ。」

「蒼海を征く海の主の騎行、だよ?」

「ええ。」

「語感が、もう強い。」

「そこなのね。」

「そこだよ。」

「内容じゃなくて?」

「いや、内容も強いんだけど、まず語感で殴ってくる。」


 ミスリルは少し笑った。


「帝国は、そういうの好きそうだものね。」

「うん。好きそう。」

「怒れる兎、って呼び方も、だいぶ好き。」

「わかる。」

「怒りを、ちゃんと怖いものとして見ている。」

「うん。」

「でも、その怖さを、自分たちの正義の側へ置いて安心している。」

「……ああ。」

「帝国の怒れる兎殿の怒りは、帝国の正義そのものだ。」

「そこね。」

「そこよ。」


 私は、そこでちょっとだけ笑った。


「いやあ。」

「なにかしら。」

「欲張り。」

「帝国が?」

「帝国が。」

「そうね。」

「ラヴィの怒りは欲しい。」

「ええ。」

「でも、ラヴィそのものは怖い。」

「ええ。」

「だから、怒りだけ帝国の正義にして、飼い慣らしたい。」

「そういうこと。」

「うわ、急に嫌な読みになった。」

「嫌な読みというより、帝国読みね。」

「それ、だいぶ嫌な読みでは。」


 ミスリルは肩をすくめた。


「でも、英雄譚ってだいたいそういうものでしょう。」

「まあ、そうか。」

「見たものをそのまま書くんじゃない。」

「うん。」

「見たものを、自分たちに都合よく大きくする。」

「うん。」

「帝国にとって、ラヴィは。」

「うん。」

「討つ者であってほしい。」

「うん。」

「従わせる者であってほしい。」

「うん。」

「魔王を屠る鉄槌であってほしい。」

「うわ。」

「なによ。」

「いや、こっちのラヴィ、あまりにも帝国が欲しすぎる。」


 私は、そこで二本目へ視線を落とした。


「で、こっち。」

「ええ。」

「虹の架け橋。」

「ええ。」

「急に、柔らかい。」

「柔らかいわね。」

「いや、蠍は倒してるんだけど。」

「倒してるわね。」

「でも、倒して終わりじゃない。」

「そう。」

「ドラゴンに乗って戻って来る。」

「ええ。」

「蠍の殻が火山へ行く。」

「ええ。」

「火山の国にタナが生まれる。」

「ええ。」

「人はようやく気づいたのです。イシュの民は隣人だと。」

「ええ。」

「……全然違う。」


 ミスリルは、静かに頷いた。


「一本目は、怒りを戦力にしたい話。」

「うん。」

「二本目は、怒りが縁を結んだ話。」

「うわ。」

「なによ。」

「それだ。」

「それ?」

「しっくり来た。」

「そう。」


 私は、紙束を持ち替えた。


「帝国版は、怒れる兎なんだよね。」

「ええ。」

「虹の架け橋も、怒れる兎ではある。」

「ええ。」

「でも。」

「でも?」

「帝国版では、怒りが前に出てる。」

「ええ。」

「虹の架け橋の方では。」

「うん。」

「怒りだけじゃない。」

「そう。」

「傷つきながらも立ち、立ちながらも笑い、笑いながらも飛んだ。」

「ええ。」

「これ、すごくない?」

「すごいわね。」

「ラヴィを、怒りだけで終わらせてない。」

「そういうこと。」


 ミスリルは、そこで少しだけ目を細めた。


「だから、橋なのよ。」

「橋。」

「ええ。」

「帝国の英雄譚だと、ラヴィは討つ者。」

「うん。」

「でも、虹の架け橋では、つなぐ者。」

「うん。」

「そこが、たぶんいちばん大きい差。」

「うわあ。」

「今日もよく減るわね。」

「だって、減るよ。ここは。」


 私は、少しだけ笑った。


「しかもさ。」

「うん。」

「どっちも、盛ってるんだよね。」

「ええ。」

「帝国版は、もちろん盛ってる。」

「かなり。」

「かなり。」

「でも、虹の架け橋だって。」

「うん。」

「別に、はい事実だけ述べました、じゃない。」

「そうね。」

「ちゃんと、橋にしてる。」

「そう。」

「つまり。」

「うん。」

「どっちも創作なんだよ。」

「ええ。」

「でも、盛る方向が違う。」

「そういうこと。」


 私は、そこで指を折った。


「帝国版は。」

「うん。」

「怒りを、軍事に変える。」

「ええ。」

「虹の架け橋は。」

「うん。」

「怒りを、縁に変える。」

「ええ。」

「うわ、好き。」

「好きでしょうね。」

「好きだねえ。」


 ミスリルは、小さく笑った。


「ラヴィを見てるようで。」

「うん。」

「結局、人がラヴィをどう見たいか、を見てるのよ。」

「……ああ。」

「帝国は、怒れる兎を欲しがる。」

「うん。」

「タナたちは、橋だったと語る。」

「うん。」

「ラヴィ本人そのもの、ではない。」

「うん。」

「でも、まったく嘘でもない。」

「そう。」

「そこが、おもしろい。」

「うわあ。」

「また。」

「いや、でもそうじゃん。」


 私は、二本を並べて見た。


「マヂかっけぇ。」

「ええ。」

「うはは、だれやねん。」

「ええ。」

「この二つが、同じラヴィから生えてる。」

「ええ。」

「それ、だいぶおいしいね。」

「おいしいわね。」


 少しの沈黙が落ちた。


「ねえ、ミスリル。」

「なにかしら。」

「私、こっちの方が好きかも。」

「どっち。」

「虹の架け橋。」

「そうでしょうね。」

「わかる?」

「わかるわ。」

「だって、ラヴィが怒れるのは、わかるんだよ。」

「ええ。」

「でも、ラヴィって、怒りだけじゃないじゃん。」

「ええ。」

「だから、橋なんだよね。」

「そう。」

「しかも、家へと帰す橋。」

「ええ。」

「そこが、すごくいい。」

「そうね。」


 ミスリルは、そこで少しだけやわらかく笑った。


「前回まで。」

「うん。」

「帰りたい、の方が強い、ってやっていたでしょう。」

「うん。」

「たぶん、その続きなのよ。」

「……あ。」

「怒りで討つ英雄、で終わらせるんじゃなくて。」

「うん。」

「怒りと優しさで、帰るための橋を架ける。」

「うん。」

「それが、こっちのラヴィ。」

「うわ。」

「なによ。」

「いや、それ、かなり好き。」

「でしょうね。」


 私は、深く頷いた。


「じゃあ、まとめます。」

「どうぞ。」

「帝国版のラヴィは、怒りを帝国の正義へ回収された英雄。」

「はい。」

「強くて、怖くて、でもその怖さは帝国の側にある。」

「はい。」

「虹の架け橋のラヴィは、怒りだけじゃなく、傷つき、笑い、飛んで、人と人を結ぶ橋。」

「はい。」

「どっちも盛ってる。」

「はい。」

「でも、盛る方向が違う。」

「はい。」

「帝国は、怒りを戦力にしたい。」

「はい。」

「タナたちは、怒りを縁にしたい。」

「はい。」

「だから。」

「だから?」

「一本目は、マヂかっけぇ。」

「はい。」

「二本目は、だれやねん。」

「はい。」

「でも、その二つを並べると。」

「うん。」

「ラヴィって、怒りだけでは全然足りないってわかる。」

「そういうこと。」


 ミスリルは、そこでこくりと頷いた。


「今回の感想。」

「うん。」

「マヂかっけぇ。」

「うん。」

「でも、橋なんだよね。」

「ええ。」

「そこが、たぶんいちばん良かった。」

「そうね。」


 私は、最後にもう一度、二つの写しを見た。


「いやあ。」

「なにかしら。」

「愛でたい欲が、だいぶ満たされた。」

「それはなにより。」

「でも、まだ見たい。」

「欲張りね。」

「ラヴィだからね。」

「そういうことにしておきましょう。」


 異世界ネットは来てないけど。

 英雄譚って、同じ人を見ていても、怒りを見たり、橋を見たりするみたいです。

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