終わったと思ったらロケ回だった件
「言葉にならなくても、伝わるものはあるもの。」
◆
はいどーも、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!
最終回だったと思うじゃん?
思ったよね。
私も思った。
論文読んで。
偽史読んで。
法の記録読んで。
帝国の布告まで読んで。
はい解散、って感じだったじゃん。
でもね。
終わらなかった。
だって、ミスリルちゃんが言うんだもん。
それで終わるなら、ジャンヌの武器が何だったか、まだ見ていないでしょう、って。
うわ、また始まる。
しかも今回は、読むだけじゃないらしい。
ロケ回です。
わーぱちぱちー。
異世界の創作を鑑賞してみた~!!
って、急に文化番組みたいになったな。
でも、いいんだよ。
だって今回のテーマ、めちゃくちゃ好きだから。
ジャンヌの武器は、描くことだった。
はい、もう強い。
剣でもない。
魔法でもない。
描くこと。
しかも、描く場所がまた強いんだよね。
辺境伯領の孤児院跡地。
はい、来ました。
重い場所です。
重いのに、そこで創作を見る。
いや、たぶん逆なんだよね。
重い場所だからこそ、そこで描くことに意味が出る。
というわけで今回は、
記憶と贖罪の場になった孤児院跡地で、
絵と亡骸とはく製を見ていきます。
怖いねえ。
でも、こういうの、見ないと終われないんだよね。
◆
「こんにちは、チーム・ミスリルのミスリルです。」
「はい、来ました。」
「来たわね。」
「というわけで、今日は鑑賞回です。」
「ええ。」
「まさかのロケ回です。」
「ロケって何かしら。」
「現地に行って見るやつ。」
「なるほど。では、現地で見ましょう。」
「軽いな。」
私は目の前の板を見上げた。
板。
といっても、ただの板じゃない。
孤児院の壁材だったもの。
背比べの傷が残っている。
子どもたちが生きていた痕が、そのまま支持体になっている。
「うわあ。」
「今日は早いわね。」
「いや、だって、ここでまず来るでしょ。」
「そうね。」
「紙じゃないんだ。」
「ええ。」
「描くものが先に意味を持ってる。」
「そういうこと。」
ミスリルは、板に残る細い傷を指先でなぞった。
「ジャンヌの絵ってね。」
「うん。」
「上手い、だけではないの。」
「ほう。」
「残ってしまったものに描いてるのよ。」
「……ああ。」
「残したかったものを、残ってしまったものの上に描く。」
「うわ。」
「なによ。」
「いや、それ。」
「ええ。」
「だいぶ最初から重いな。」
「重いわよ。」
私は板に描かれた顔を見た。
笑っている。
たぶん、水に流される前には、ここで笑っていた子どもたちだ。
「これ、たぶんさ。」
「うん。」
「普通の絵の感想と、順番が逆なんだよね。」
「逆。」
「うん。上手いとか、構図がどうとか、その前に。」
「うん。」
「ここに描くのか、が先に来る。」
「そう。」
「支持体が先に喋ってる。」
「ええ。」
「で、その上から、ジャンヌが続きを描く。」
「そういうこと。」
ミスリルは静かに頷いた。
「ジャンヌは、帝都でも描いたわ。」
「魔王と怒れる兎、だっけ。」
「ええ。」
「でも、ここでは違う。」
「違うわね。」
「ここで描いてるのは、見世物になる強さじゃない。」
「ええ。」
「消えたものを、消えたままにしないための絵。」
「そう。」
「だから、武器なんだ。」
「そういうこと。」
私は、そこで少しだけ息を吐いた。
「ジャンヌの武器は、描くことだった。」
「ええ。」
「これ、ようやく実感できたかも。」
「どういうふうに。」
「剣みたいに敵を倒す武器じゃない。」
「ええ。」
「でも、消されるはずのものを残す。」
「ええ。」
「嘘で塗り固められそうなものに、別の像を置く。」
「ええ。」
「それって、めちゃくちゃ強い。」
「強いのよ。」
私は、少しだけ視線をずらした。
そこには、別の絵があった。
精密で、冷たくて、でも逃げていない。
「これ、バルカ?」
「ええ。」
「うわ、ぜんぜん違う。」
「違うわね。」
「ジャンヌが、いなくなったものを呼び戻す感じなら。」
「ええ。」
「こっちは、自分たちが何をしたかを逃がさない感じ。」
「そう。」
「水源の間。」
「ええ。」
「護岸工事。」
「ええ。」
「破壊される前の孤児院。」
「ええ。」
「全部、反乱の作戦で使った場所。」
「そういうこと。」
ミスリルは、まっすぐ絵を見たまま言った。
「芸術性より精密さ、って言われるのは。」
「うん。」
「たぶん褒め言葉でもあり、罰でもあるわ。」
「罰。」
「ええ。」
「曖昧に美しく描いて逃げることを、自分に許していない。」
「……ああ。」
「だから、細かく描く。」
「そう。」
「自分の業を、ぼかさないために。」
「そういうこと。」
私は、ちょっと黙った。
「この場所。」
「うん。」
「絵があるだけじゃないんだよね。」
「ええ。」
私は、建物の奥を見る。
置かれている。
傷だらけの母の獣人と、傷ひとつない毛並みの子の獣人。
抱き合ったままのはく製。
「うわあ。」
「今日はよく出るわね。」
「出るよ、これは。」
「そうね。」
しばらく、私はうまく喋れなかった。
「これさ。」
「うん。」
「水攻めの傷じゃないんだよね。」
「ええ。」
「古い鞭打ちの痕。」
「そう。」
「そこがもう、だいぶきつい。」
「きついわね。」
「だって、悲劇の日だけの話じゃなくなるじゃん。」
「そう。」
「この母は、それより前から、ずっと傷つけられてた。」
「ええ。」
「で、その歴史ごと、ここに置かれてる。」
「そういうこと。」
ミスリルは、少しだけ声を落とした。
「亡骸も、はく製も、ここでは見世物じゃないの。」
「うん。」
「買い戻されたもの。」
「うん。」
「戻ってきたもの。」
「うん。」
「だから、見るってこと自体が、少し違う。」
「どう違うの。」
「鑑賞というより、立ち会う、に近いわ。」
「……。」
「ただ綺麗とか、怖いとかで済ませるには、こちらの態度も問われる。」
「うわ。」
「なによ。」
「いや、それ。」
「ええ。」
「ロケ回、急に重すぎない?」
「最初から重かったでしょう。」
「それはそう。」
私は苦笑した。
「でもさ。」
「うん。」
「ここで、ネロが子どもたちにいただきますとご馳走様を教えてるって話。」
「ええ。」
「これ、すごくない?」
「すごいわね。」
「命への感謝を教える場所が。」
「うん。」
「ただの慰霊施設じゃない。」
「ええ。」
「教育の場所にもなってる。」
「そう。」
「しかも、むやみに生き物を虐げることを禁ず、って一行だけが掲げられてる。」
「ええ。」
「鳥獣憐みの令が、やっと人間の言葉になった感じがする。」
「……ええ。」
「長かったね。」
「長かったわね。」
私は、そこでようやく、この場所の意味が少し見えた気がした。
「記憶と贖罪の場、ってさ。」
「うん。」
「過去を保存してるだけじゃないんだ。」
「ええ。」
「人間が、自分たちの残虐さを見て。」
「うん。」
「それでも、次の言葉を覚え直す場所なんだ。」
「そういうこと。」
ミスリルは、少しだけ笑った。
「ジャンヌの絵も。」
「うん。」
「バルカの絵も。」
「うん。」
「亡骸も、はく製も。」
「うん。」
「全部、消えたものをそのままにしないためにある。」
「うん。」
「でも同時に、綺麗に忘れないためにもある。」
「うわ。」
「また減ったわね。」
「いや、今日はだって、ずっとそういう回でしょ。」
私は、深く息を吐いた。
「じゃあ、まとめます。」
「どうぞ。」
「ジャンヌの武器は、描くことだった。」
「はい。」
「それは、上手く描くこと、だけじゃない。」
「はい。」
「消されそうなものを残すこと。」
「はい。」
「嘘で固められた像の横に、別の像を置くこと。」
「はい。」
「バルカは、逆に精密さで逃げない。」
「はい。」
「自分の業と向き合うために描く。」
「はい。」
「そして、亡骸とはく製も、この場所では見世物じゃない。」
「はい。」
「買い戻され、戻ってきたものとして、記憶と贖罪の中に置かれている。」
「はい。」
「つまり。」
「つまり?」
「これは、異世界の創作を鑑賞してみた~!!って顔してるけど。」
「うん。」
「実際には、創作が何を残せるかを見せつけられる回だった。」
「ええ。」
「うわあ。」
「最後までそれで行くのね。」
「行くねえ。」
ミスリルは、そこでほんの少しだけ笑った。
「でも、それでいいと思うわ。」
「お。」
「言葉にならなくても、伝わるものはあるもの。」
「……。」
「だから描くのでしょう。」
「うん。」
「だから、見るのでしょう。」
「うん。」
私は、静かに頷いた。
「はい。」
「はい。」
「というわけで。」
「ええ。」
「終わったと思ったらロケ回だった件。」
「ええ。」
「かなり良い回でした。」
「そうね。」
「じゃあ、また次回。」
「また次回。」
「あるの?」
「女の勘ってやつが、ぴこんと来たら。」
「便利すぎる。」
「便利よ。」
異世界ネットは来てないけど。
描くことって、思っていたよりずっと、武器で、供養で、記録なのかもしれません。




