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アオハル転生! ~告白直後にTS転生。フラれた相手を天下人にする話~  作者: 香坂くら
サニー行政官

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10/21

010話 多角化戦略


「……シリル。悪いが、今日からオレのことは『天才美少女醸造ギルド長』って呼んでくれないか?」


 オレは湯気が立ち込める実験室のような厨房で、妹に真剣に提案した。


「姉さん……ドワーフの里で鉄砲の話をしていたかと思えば、今度はお酒造りですか?  働きすぎて、ついに脳が発酵し始めたんじゃないでしょうね」

「失礼な。これは『発酵』じゃなくて『科学』だよ」


 オレは、黄金色に輝く液体の入ったグラスを掲げた。

 天下統一という巨大事業を動かすには、天文学的な軍資金が必要だ。その新しいエンジンとなるのは、ノヴァンさまが仕掛け、オレが磨き上げた二つの「金を生む魔法」だった。


◆◆


 ノヴァンさまが、オレと再会する前から目を付けていた「塩」。この世界において、塩は保存食を作るための生命線であり、文字通りの「白い金」だ。


「ノヴァンさま。塩の精製釜を、オレが考案したセメントと石炭仕様に替えましょう。加熱効率を最適化すれば、他国の数倍の純度の塩を、これまでの半分のコストで量産できます」


 オレの知識を注ぎ込んだ「高効率塩精製所」は、オルドー家所有の岩塩鉱をフル稼働させた。

 結果、市場に流れる安価で高品質な「オルドーの塩」は、近隣諸侯傘下の塩ギルドを震撼させ、莫大な富をオルドー家へ流出させた。これがその後の街道整備の第一歩になった。


◆◆


 そしてもう一つ。オレが今取り組んでいるのが、この「ビール」だ。

 きっかけは、以前オルドー家に储け話を持ち込んできた「名もなき旅の男(のちにヒューゴ・ラウレルと知れるが……)」が残したメモだった。そこには、およそこの世界の住人が知り得ない技術が記されていた。


「いいかシリル。酒が腐るのは悪魔の呪いじゃない。目に見えない『菌』の仕業だ」


 さすらいの賢者・ヒューゴさんの知識を頼りに、オレは二つの革命を導入した。  


 まず、パスツール法。これは低温殺菌する手法らしい。

 沸騰させず、60度から80度の熱でじっくり加熱することで、風味を損なわずに雑菌だけを殺す製法となる。

 さらにホップの選別。 苦味を出す「オス」を排除し、香りと殺菌作用を持つ「メスのホップ(=毬花)」だけを厳選する。


「……信じられない。三ヶ月経っても、搾りたてみたいに透き通っているなんて」


 シリルが驚愕する。

 この「腐らない、黄金色のビール」は、遠征軍の飲料としても、貴族への献上品としても、オルドー家に外貨を呼び込む最強の商品となった。


 そんな折、半年前の同盟交渉で意気投合したミカーヴァ子爵領のイリアス卿から、豪華な木箱が届いた。


「……『以前の心尽くしの接待へのお礼として、この度手に入った東方の珍品を贈る』。へぇ、あの少年領主様、律儀なところがあるんだな」


 箱を開けると、そこには見たこともないほど白く滑らかな「石鹸」と、芳醇な香りを放つ「香油」が詰められていた。


「姉さん、これは……シュール・ガルド大公国の特産品ですよ!  王都の貴族たちの間で、金と同じ重さで取引されるという……」


 その石鹸を手に取り、オレはニヤリと笑った。


「イリアス卿、いいセンスをしてるな。……これをただ使うのは勿体ない。オルドーの独占輸入品として流通させよう。……でもその前に、一番の『出資者』に顔を見せに行かないとな」


 その夜。オレは完成したばかりの「黄金のビール」と、イリアス卿から届いた「石鹸」を抱え、ノヴァンさまの私室を訪れた。


「……入れ」


 重厚な扉が侍従によって開かれる。

 ノヴァンさまは山のような書類を前に、相変わらずの冷徹な顔で執務に励んでいる。


「ご領主さま、お疲れ様です。新製品のビールと、イリアス卿から届いた土産をお届けしました」


 そう告げ、執務机に、ドワーフの工房で作らせた透明なガラス瓶入りのビールをコトリと置いた。


「……透明、か。サニーの瞳のようだな」

「っ……!?」


 何気ない唐突な言葉に、心臓が跳ね上がる。

 ノヴァンさまは静かに瓶を手に取り、夕日に透かして眺めだした。


「……サニーがもたらすものは、どれもこの世界の濁りを暴いていく。……だが、これを作るために、またどれだけの労苦を費やしたのだ?」


 彼の視線が、オレの前髪に落ちた。ラ・ソルシエール・オ・シュヴー・ドール。オレの自慢の金髪に混じる、数本の白い筋。主さまは知らないが、実は時を戻すたびに増えていく代償だ。


「……いえ。これは純粋に、ヒューゴという男が残した詳細なメモ書きと、ドワーフたちの腕で作り上げたものです。心配……してくださってるんですか?」

「うるさい。キミに倒れられては、私の覇道が遅れるだけだからだ」


 彼は突き放すように言ったが、その指先は持参した石鹸の香りにわずかに反応し、優しくその瓶の口を撫でた。


「……イリアス卿からの贈り物、か。……サニー。シュール・ガルドの贅沢品をオルドー家が支配する。それは経済による宣戦布告だ。……やってくれるか?」

「はい、お任せください。店長としての腕の見せ所です」


◆◆


 石鹸の香りが漂うオルドー領内で、黄金のビールが市民の喉を潤す。

 塩で稼ぎ、酒で富を蓄え、敵国の贅沢品を自領の特権に変える。

 ノヴァンさまの資金力は、もはや一辺境伯の枠を大きく超えつつあった。


「……ヒューゴさん。あんたがどこにいても、あんたの知識はちゃんとここで生きてるよ」


 オレは、窓の外に広がる、完成間近の「灰の道(アッシュ・ロード)」を眺めた。

 富が動き、道が繋がり、鉄砲が揃う。いよいよ、王都への道が開き始めたぞ。

 けれどもまだまだ障害は多い。立ち止まる事の許されないオレとノヴァンさまの歩みはさらに前進を続けていく。


「未成年がお酒を飲むのはどうかと思うよ、兄さん」

「飲んでねーよ。感慨にふけってるだけだ、黙っててくれ」


 前途は続く。


次回予告

【ナレーション:シルヴィア・フォレスト(=サニー)&シリル・フォレスト】


サニー:「初キッス。それは甘くて切なくて、一生の宝物になる想い出……」

シリル:「姉さん。大事な時ですから、もっと自分の身体を大切にしてくださいよ?」

サニー:「だーかーらー。オレはやましい事なーんもしてないんだってば!」

シリル:「あんまり励むと翌日に影響が……」

サニー:「だーかーらー! このお話は良い子にも公開してるの、いい? 紛らわしい表現はダメ!」


(サニー・シリル:声を揃えて)

『次回、アオハル転生!

第11話 サニーの愛は夜に開く! 空の彼方まで届けて、キッスを』

サニー:「あなたに本当の魔法を届けたいの。ぜったい見てね!」

シリル:「今回はフルスロットルしないんだ……?」

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