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67.到達




張り付く喉に痛みが走った。

閉じている瞼の外から陽を感じて毛布を被る。

あまりの温かさと毛布の重みに、ゆっくりと意識が沈みかけ抗うように無意識に手を探る。

小さなベッドの中、もうひとつの温もり。



「……ぅ、?」



だが、探していたものに触れることなく指先は壁にあたった。思わず心臓がはねる。



「……えりあ?」



いない。


隣で寝ているはずの彼女。

がばりと起き上がり部屋を見渡す。


いない。


驚くほど静かな部屋に自分の荒い呼吸が響いた。

エリアが寝ていた場所は少しぬるい。


どこに行った?こんな朝に。

緊急招集がかかったのか。

それなら、俺を起こさないわけにはいかないだろう。


部屋は何かを動かした跡も形跡もなく、ただエリアだけがぽつりと消えたよう。それが俺の体にも、そっくりそのまま移ったように脳が冷える。


分かっている。

エリアはもう、勝手にいなくなったりしないはず。

頭では分かろうとしているのに、勢いよく剥いだ毛布は床に落ちた。立ち上がった足がそれにもつれる。



「……っ」



抜け出そうと足だけを動かすが、さらに絡まるだけでついに体までよろめく。

あーもう、最悪だ。頭が痛い。どうでもいいことで時間を取られていることが、妙に苛立つ。


息を吐きながら諦めるように体を屈めた。



「なにしてるの?」



やけに大きく響いた声。

心臓が、さっきよりも強く跳ねた。

驚いて顔をあげる。

不格好な体制。



「……ぁ、足が、もつれて」



身なりを整えた、エリアの姿。

眉を下げ困ったように笑った。

心臓が跳ねる。



「あはっ寝ぼけてるんだ」



大きな白い紙袋を持ったエリアが肘にそれを持ち直し、重そうな音を響かせて両手を俺に近づけた。

誘われるようにその手を握ると、柔らかな温度が広がって体が起き上がる。



「もう、そんなんじゃこれからが心配だよ」

「……ありがとう」



どういたしまして!と笑う彼女の手を借りて、ようやく抜け出した足が冷たい床に触れた。

一瞬だけ彼女の言葉が喉に引っかかって固まったが、すぐに飲み込む。温もりを離して落ちた毛布を元の位置に戻しながら彼女の立てる音の重みに耳を傾け、口を開いた。



「どこ行ってたんだ?」

「カマエル指揮官のところ」

「なんで?」

「これを受け取りに」



またガサリと音を立てた紙袋。

エリアはそれを綺麗にしたばかりのベッドの上に構わず置いた。彼女の後頭部と手元を見ながら、紙袋の中を取り出す様子を伺う。

重そうにしていたそれはどうやら衣服のようだ。



「服?」

「そう、トオルの」

「俺の?」



綺麗に畳まれた白い布。

ベッドのシーツよりも白い。

エリアが身を包む色と似ている色。


いや、全く、同じような。


エリアの指先がそれを広げていく。

徐々に形が見えていくそれに、小さく、声が漏れた。



「……これって」



全てを弾いてしまうほどの純白。

目立った装飾は付いていない、整いすぎたその形。

いつの間にか見慣れたそれ。

眼球が乾き、全身の毛穴が開く。



「お揃いだね」



弾んだ声とともに服を俺の体に合わせるエリア。


顔下で朝日を反射するただの布は、いつかの俺が憧れた純白。彼女と、ようやく同じ場所に立てる。



「ねえねえ、着てみてよ」

「…あぁ、そうだな」



自分の声が普段より高い位置で揺れて咳払いをす。

背中を向けたエリアを見つめながら、俺はついに待ちわびた重みに袖を通す。ボタンを閉めた。まるで彼女の羽根に包まれているかのように胸に火が灯る。



「エリア」



彼女が振り返る。

顔周りだけ不自然に伸ばされた彼女の髪がふわりと広がり、俺を捉えた。

朝日が彼女に向かい差し込んだ。

小さく、息を飲む音。



「……やっぱり、黒には白が映えるね」



いつかと同じ言葉。


目を細めるエリアの瞳にしばらく閉じ込められたくて、同じように笑ったが彼女は目を逸らしてしまう。

そしてベッドに置かれた軍帽を手に取ると、唾をゆっくりと撫で俺に向き合った。

ほんの少しの身長差。

目線を僅かに下げるだけでエリアと目が合う。

一歩、エリアは俺に近ずいた。

綺麗な顔が、俺の顔へとゆっくりと寄る。



「っ、」



朝日が俺の足元まで差し込む。

じわりと伝わる温かさと距離の近さに、思わず目をつぶった。



「……ばーか」



ぐいっと、首が思いっきり下がる。



「っ、ちょっと…!」



頭をきつく締め付けた感覚に、軍帽を深く被らされたのだと気づいて目を開ける。

軍帽の唾が視界を多いエリアの足元しか見えない。

慌てる俺とは裏腹に彼女の楽しそうな笑い声が聞こえた。軍帽をあげようと手を動かすが、エリアは唾に手をかけたままでそれが叶わない。



「仕返し」



その声が不自然に浮く。



「俺なんかした?」

「……僕は意外に根に持つタイプだからね」

「は?なんの話し?」



まだ彼女は笑う。


俺は意味がわからなくて彼女の手を掴んだ。



「トオルが好きってはなし」



唾を飲み込んだ。



「……そうですか」



軍帽で顔が見えないことに少しだけ感謝した。





お久しぶりです。

そして、ここまで読んでいただきありがとうございます。2人の物語はもう少し続きます。


社会人って凄いですね。

トオルの気持ちが、少しだけ分かります。


また次の回で会いましょう。

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