二人の恋
屋上での咲希との激しい対峙の後、舞桜は拓斗に会った。
拓斗もまた、舞桜が真実を知ったことを察し、すべてを話す覚悟を決めていた。
彼は舞桜に、自分が幼い頃に記憶喪失になったこと、そして、舞桜が傷つくことを恐れて、咲希に口止めされていたことを正直に話した。
咲希が舞桜を思って、どれほど苦悩していたか、また、舞桜の純粋な恋心を誰よりも大切に思っていたかということも、拓斗は舞桜に伝えた。
拓斗の言葉を聞き、舞桜は改めて、咲希の深い愛情を知った。
同時に、自分の気持ちが、初恋の幻影に重ねられたものではないかと悩み、苦しんでいた、拓斗自身の葛藤にも気づかされた。
「話してくれて、ありがとう、拓斗くん。」
舞桜は、溢れる涙を拭い、拓斗の目を見つめた。
「私…、咲希にもひどいこと言っちゃった。咲希がどれほど悩んでいたか、私のこときっと誰よりも考えてくれていたのに。あとでちゃんと、ごめんねって謝らないと。」
舞桜は、拓斗に向き直る。
「私、きっと、この秘密を知っていたとしても、変わらず拓斗くんのこと、好きになっていたと思う。だって、私が好きになったのは、初恋の男の子の面影なんかじゃなくて、拓斗くん自身なんだから。」
舞桜は、拓斗の手をそっと握りしめた。彼の掌の温かさが、舞桜の心を包み込む。
「だから、記憶がなくても、初恋の男の子じゃなくても、関係ない。私が好きなのは、今、ここにいる拓斗くん。あなたがいいの。」
舞桜の真っ直ぐな言葉に、拓斗の表情は、一瞬で安堵と喜びに満ちたものに変わった。
彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
拓斗は舞桜の手を強く握り返し、そのまま抱きしめた。
「舞桜……ありがとう。本当に、ありがとう……」
拓斗の声は、震えていた。
舞桜は、拓斗の腕の中で、彼の温かさを感じながら、心からの幸せを噛み締めた。
長年の呪縛から解放され、過去の幻影ではなく、今、目の前にいる拓斗という存在を選び取った舞桜。
記憶喪失という事実も、咲希が秘密を隠していたことも、その全てを受け止め、舞桜は拓斗と付き合うことを決めた。
二人の本当の恋が、今、始まったのだった。




