気持ちの対峙
一晩中泣き明かし、翌朝、舞桜は咲希を屋上へと呼び出した。
いつもの明るさはなく、舞桜の顔はひどく憔悴していた。
咲希は、舞桜のただならぬ雰囲気に、何か尋常でないことが起きたのだとすぐに察したが、それが何であるかまでは分からなかった。
「咲希……本当に、本当だったの?」
舞桜の声は震えていた。
咲希は、何のことか分からず困惑しながらも、
「舞桜、どうしたの? 何が本当なの?」と舞桜の剣幕に押されて口を開いた。
舞桜は、声だけでなく、体も震わせながら続けた。
「拓斗くんが、幼い頃に記憶喪失になってるってこと! そして、あの時の男の子が、拓斗くんじゃないってこと! なんで……なんで教えてくれなかったのよ! 記憶喪失のこと、陽真くんに聞いたのよ!」
咲希は、舞桜の言葉に目を見開き、凍りついた。
陽真が、あの会話を聞いていた……? まさか。
「舞桜…、どうしてそのことを……。いや、ごめんね、舞桜。私……隠してて、本当にごめん……」
咲希の謝罪の言葉に、舞桜の中で抑えきれなかった感情が爆発した。
「どうしてよ! どうして、すぐに教えてくれなかったの? 知ってたなら……知ってたなら、すぐに教えてくれれば、こんなに……こんなに、拓斗くんのこと、好きにならなかったのに……」
舞桜の怒りと悲しみが入り混じった叫びが、屋上の風に消えていく。
咲希は、舞桜の言葉に、顔を上げることもできなかった。
「私が悪かったのは、認める。舞桜を傷つけたくなかったから、言わない方がいいって、あの時はそう思ったから……」
咲希の声は、舞桜の怒りを鎮めるように、しかし確かな意思を持って響いた。
「でもね、舞桜。そもそも、本当に伝えていたら、舞桜は拓斗くんのことを好きになっていなかったの? 拓斗くんを好きになったのは、初恋の男の子かもしれないから、っていう理由だけだったの?」
咲希の言葉は、まるで舞桜の心の奥底を見透かすようだった。
「違うんじゃないの? 舞桜が拓斗くんを好きになったのは、拓斗くん自身が優しくて、真面目で、舞桜のことを大切にしてくれたからじゃないの? 初恋の相手かどうかなんて、関係ないくらい、舞桜は拓斗くんのこと、好きになったんじゃないの?」
咲希の言葉は、舞桜の胸に深く突き刺さった。
まるで逆ギレのようにも聞こえる咲希の問いかけは、同時に、舞桜が向き合わなければならない真実だった。
拓斗に惹かれたのは、彼の笑顔が初恋の男の子に似ていたからだけではない。
共に過ごした時間の中で、彼の人間性そのものに惹かれていったのだ。
舞桜は、咲希の言葉に何も言い返すことができなかった。




