9.2つ目の箱
エミリアが目覚めて2日後にはシリウスが王都から戻ってきた。
「やはりあの魔法陣は禁忌のもので、瘴気を発生させて魔物を呼び寄せていたらしい。ただ、誰が何の目的で作り森に置いたのかまでは不明だ」
レオンハルトがエミリアにシリウスが持ち帰った魔法師長の調査結果を伝えた。
あの箱をわざわざあの森に置いた意味…ランガスター家への嫌がらせ?
それにしても魔物を使うだなんて!
今回はたまたまレオンハルト殿下がすぐに対処してくれたから人的被害はなかったけど、もしもっと確認が遅れたら、領民にどれだけの被害が出たか分からない。
「それで、他にも魔物が異常発生している場所がないか今、調べさせてる」
「もし、ランガスター家への嫌がらせだったとしたら
他の森にも同様な物が置かれてる可能性があるってことですね?」
ランガスター家の領地は結構広い。
その中には森が3つあった。
ここは領地の南側にあたるが、北側にもランガスター家の屋敷があり、今、そこにはエミリアの兄のマーカスが領主見習いとして行っている。
「お兄様に他の森について調べてもらいます」
「いや、すでにマーカスに連絡はいっている。もうすぐ調査報告が来るはずだ」
レオンハルトの仕事の早さにエミリアは内心舌を巻いた。
そんな話をしているところに丁度マーカスからの連絡が入った。
手紙を受け取ったレオンハルトの眉間が読み進めるうちにどんどん寄っていった。
「北の森でも同様の物を発見したらしい。近隣の村が魔物に襲われて多数の負傷者がでたそうだ」
エミリアははっと息を呑んだ。
「箱は破壊できたのですか?」
「いや、あの箱は簡単には破壊できないように防御の魔法陣も組み込まれていたから、破壊はできていない。結界を張って一時的に魔物が出て来れないようにしているらしい」
「私が箱の破壊に向かいます」
この間箱が破壊できたのだから、今回のも出来るはずだ。
魔力を大量に消費して倒れたとしても、他の誰かが傷つくよりいい。
決然としてエミリアが言った。
「言うと思った。分かった。俺たちも一緒に向かおう」
レオンハルトもそう言って立ち上がった。
「お兄様」
エミリアが呼びかけると、マーカスが嬉しそうに寄ってきた。
マーカスはエミリア同様の銀髪に濃い青い瞳の美青年だ。
「レオンハルト殿下。お久しぶりです。ご足労いただきありがとうございます」
マーカスは先ずはレオンハルトに挨拶した。
「久しぶりだね。エミリア。こんな時じゃなかったら、ゆっくり話したかったんだけど、早速案内するよ」
にこやかだった顔を引き締めて、馬に乗った。
北の森もなんとも言えない陰鬱な空気が立ち込めていた。
結界が張ってあるせいか、魔物は出て来ない。
暫く歩くと、前回同様の黒い箱が木の影に置いてあった。
「木のそばから離せるかしら?炎が燃え広がったら困るから」
「前の時と同じように、凍らせてから動かそう」
レオンハルトが請け合ってくれた。
張ってある結界を一回解いて凍らせる。
その箱をアーネストが少し開けたところまで運んだ。
「じゃあ、結界を張って離れて下さい」
エミリアが言うとみんな少し離れたところで、レオンハルトが結界を張った。
エミリアが剣を抜いて炎を纏わせていく。
赤から青白い炎に変わって、眩しく光った。
剣を突き立てる。
バリンっ
箱が破壊される音が鳴り響いた。
エミリアは力が入らなくなり、そのまま気を失った。
「お疲れ様」
耳元で優しいレオンハルトの声が聞こえた気がした。