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鍛冶しました。

 城下町・ヴァルファーレは港から海辺の道をずっと進むと見えてくる。

 高い城壁に囲まれたその姿は、一見するとまるで大きなお城のよう。

 

 OSに存在する三大都市の一つであり、様々な職業の初期地点に近い場所にある事や、海の近くという開放的な街並みのおかげで一番人気が高いとされている。

 人気を計る方法が、ホームポイントの登録数だ。

 三大都市のどれか1つに設定できて、死亡時や帰還アイテムなどで戻る際にワープできるようにする。


 栞も他のプレイヤーの例に漏れず、ひとまずは綺麗なこの町にホームポイントを登録した。


「ふう、さて、防具を作るには~っと……」


 ナビフォンを使って鍛冶のチュートリアルを眺める。

 NPCに頼んでも作成してもらえるが折角生産職だからと自分で作ることにした。

 まずは鍛冶道具が必要だったが、まだ持っていなかったので道具屋を訪れる。


「これくーださいっ」


 【初級ハンマー】

 鍛冶を始める初心者にも扱いやすいハンマー。

 ハンマーというよりただの木槌に見える。

 【STR+10】

 【DEX+10】


 装備を更新すると、【調理師Lv3】の記述が変更され【鍛冶師Lv1】となる。

 合わせてステータスが変更され、愛用のフライパンはアイテムとしてナビフォンに吸収された。


 それからレシピのクエストを殻を渡す事で完了させ、初級鍛冶師のレシピを受け取る。

 すぐに新しいクエストが発生したので見に行くと、ダンジョンを攻略したプレイヤーに与えられるものとして【海装備のレシピ】をもらった。


 【海装備のレシピ:初級】

 【緑のリボン】

 軽い布(1)(0)

 ワカメ(3)(56)

 

 【海色セーラー服】

 軽い布(5)(0)

 染色液(海)(1)(0)

 ワカメ(5)(56)


 【空色スカート】

 軽い布(3)(0)

 染色液(空)(1)(0)

 ワカメ(5)(56)


 【藻王の靴】

 ワカメの真核(1)(1)

 ワカメ(30)(56)

 

「とりあえず全部作ろ!」


 全ての部位が現在初級か、もしくは無しの状態だったためレベル上げも兼ねる。

 持っていない素材は町の素材屋で購入できるものだったため全て購入。

 

 あとは作るだけなので、適当に町を見回って人の居ない所を探す。何事も初めてなものを見られるのは恥ずかしいのだった。

 暗くてじめじめっとした路地がちょうど目に入ったので、ささっと移る。


「なんでこんなにワカメ使うんだろ……」


 さあ始めようとレシピを見返して、思わず口から洩れる言葉。

 服にワカメを使うのも大概だが、特に靴だ。主にワカメからしか出来ていない。

 栞は首元を触って、ぬるっとした感触にびくっと震えた。


「こんなのが増えるのかぁ……」


 素材にボスのものを使うのは確実に強力なものだと分かりながらも、栞は躊躇する。

 しかし使わなくても勿体ないし、靴はレア装備だしで我慢しよう、ということで決着をつけた。

 ハンマーを持ち、初期スキルである【加工】を行う。


 【加工】は鍛冶師の状態でハンマーを素材へと叩き付けることで行われていく。

 複数必要なものはいっぺんに、次に別の素材を叩けばレシピに合わせた装備が作られる仕組みだ。


 こん、こん、と気の抜けた音をさせながらまずは布とワカメを順番に叩いていく。

 ワカメだけは「ぐにょっ」となり、やっぱり叩き難い。

 それでも何とか【緑のリボン】を完成させる。


 【緑のリボン】

 ワカメ色に染まったリボン。まだ少しぬるぬるする。

 【AGI+20】

 【VIT+5】


「えへへ、やっぱり頭装備付けると可愛いなー」


 ナビフォンの鏡機能を選択し、目の前に設置された大きな鏡の前で姿を確認する。

 ひらひらと端の揺れるリボンはよく見れば、ワカメに見えなくもないイメージ。


 続けて【海色セーラー服】。

 そして、素材が似ているので【海色スカート】も一緒に作る。

 

 こんこんこん。

 少し音が木霊して、最後に染色液を素材へかける。

 程なくして2つの装備は誕生した。早速着替える。

 

 ところでOSは、装備品の変更は自身でわざわざ着替えなくてはいけない。

 ナビフォンという便利なアイテムを用意しておきながら、ここだけアナログなのは運営のこだわりなんだそう。

 一応各町などの休憩施設には更衣室があるが、だからといってそこでしか着替えられない訳でもない。


「う……」


 そんな説明文を今まさに読んだ栞は顔面蒼白だった。

 服くらいぱぱっと変更されると思っていたので想定外。しかも、更衣室は今の場所から遠い。

 今すぐ出来栄えを確認したかったのもあり、覚悟を決めた。


 辺りをきょろきょろと見渡す。


 人も人っ気も無いことを確認すると、急いで【フレンドシャツ】を脱いだ。

 鏡を壁代わりとしながら、すぐに装備を着用。

 同じ要領でスカートも履いて、無事終わったと胸を撫で下ろし、赤らめた顔のまま装備を確認する。


 【海色セーラー服】

 海の町で働くNPCの制服。

 ほんのり潮の香りがする。

 【VIT+30】

 【AGI+20】


 【空色スカート】

 海の町で働くNPCの制服。

 少し丈が短い。

 【VIT+15】

 【AGI+20】


「あは、なんか見違えちゃった」


 鏡の前でひらひらと服のリボンとスカートを揺らし、栞は満足する。

 フレンドシャツという名の初級者装備と比べると、明らかに雰囲気もイメージも変わっていた。

 装備効果も強力なため、これならもっと先へ進めるかも、と嬉しくなる。


「それじゃあ、最後は……」


 バッグから嫌そうにアイテムを選択して取り出す。

 まだうにょん、うにょんと動いている【ワカメの真核】。

 それと大量のワカメ。


 とりあえずワカメから叩いてしまおうとハンマーを振りかざすと、ナビフォンから甲高い音が鳴った。

 人が来てしまうかもと慌て、手を止めて急いでメッセージを確認する。


「えっと……【精霊石】が使用可能です?」


 精霊石。

 それは装備品を進化させる事の出来る貴重なアイテムだ。

 かつてフライパンを進化させたのも、コモンプラントからレアドロップとして入手していたこの石の力によるもの。

 であれば、使わない理由もなかった。


「よし、いっちゃおう!」


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[一言]  【空色スカート】  軽い布(3)(0)  染色液(空)(1)(0)  ワカメ(5)(0) ワカメ(5)(0) 0?
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