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37話 後悔はしない

「ここのお店は串焼きがとても美味しいです」


 街に繰り出せば。

 リシェルは嬉しそうにロゼルトとよく通った場所をジャミルとシークに紹介していった。

 その間に、ロゼルトはこうやって庶民の暮らしを知って民の心情を理解しようとして凄いのです!

 と、まるで自分の事のように自慢してくる。

 話を聞いていたジャミルとシークからすれば、恐らくロゼルトはそこまで考えていないのではないかと思うことまで深読みし、過大評価しているリシェルに内心苦笑いを浮かべた。


 もし二人が付き合う事になったらロゼルト坊やは大変だろうなと思いつつもジャミルは笑ってすごいですねーと相槌をうつ。

 所詮他人事だ。


「はい。すごいです」


 褒められるとまるで自分が褒められたように嬉しそうに微笑む。

 シークも結局一緒に行くことになり、三人で歩いている状態だ。


「お嬢様、随分体力がつきましたね」


 街中を嬉しそうに歩き回るリシェルにジャミルが言えば


「はい!ロゼルトと毎日歩き回りましたから。

 体力はついたと思います」


 そう言って嬉しそうに微笑んだ。



 ■□■


「この木の実もとっても美味しいんです!」


 以前ロゼルトが食べさせてくれたカルシェの実の木にリシェルが一生懸命手を伸ばしているが身長が低いせいかとどかない。

 

 慌てて木によじ登ろうとするがジャミルにひょいっと抱え上げられた。


「じゃ、ジャミル!?」


「肩車をすれば届くでしょう?」


「で、でも……」


 ジャミルに肩車をされてリシェルは落ちないように一生懸命ジャミルの頭にしがみつく。


「ほら、頑張ってください?採ってくれるのでしょう?」


 そう言われてリシェルは嬉しそうに頷いた。

 できればロゼルトみたいに自分でとってあげたかった。

 シークとジャミルにも食べさせてあげたい。


「採れました!」


 採れた木の実はシークに受け取ってもらいリシェルは人数分の木の実をもぎ取った。

 三つ目の木の実もシークに渡しリシェルは嬉しそうに報告する。


「おー流石お嬢様」


「ジャミルとシークのおかげですね」


 ジャミルに下ろされながらふふっとリシェルは微笑む。


「お嬢のおかげですよ」


 つられてジャミルも微笑む。



 ■□■


「今日は楽しかったです」


 屋敷に戻って一段落ついたところでリシェルが微笑んだ。


「ええ、うちに押しかけてきたお嬢様とはまるで別人だ。

 これもあの伯爵家のおぼっちゃんのおかげですかね」


 と、ジャミルが言えば途端にリシェルの顔が暗くなる。


「……すみません、浮かれすぎました。

 ジャミルには悪いことをしたと思っています。

 復讐を誓って私を手伝ってもらうはずだったのに……」


「……え?お嬢様は復讐を諦めたのですか?」


「……え?」


「言ってたじゃないですか。

 この復讐は自分自身のためだって。

 目を背けた事を後悔したくない。

 あのような後悔をするくらいなら死を選ぶと。


 お嬢様は一度後悔したことをまた繰り返すおつもりで?」


「……自分があがいた所でなんになるでしょう。

 悪意も見抜く事のできなかったこの私が」


「いいですか。お嬢様。

 暗殺者ギルドがどうやって子供を洗脳すると思います?」


「え?」


「徹底的にその子供を否定するのですよ。

 やる事なすこと全て否定して貶める。


 その子は恐ろしく自己評価の低い子になり、そこからが洗脳の始まりです。

 大人達の言うことを聞かないと生きていけない。

 お前は無能なのだからと徹底的に叩き込む」


「……それが今どうして関係するのでしょう」


「今のお嬢様がまさにその状態です。

 恐らく貴方は未来とやらで徹底的に大人に否定されていたのでは?

 やる事なすこと全て、お前は無能だ。仕事ができない。こんな事もできないのかと。

 自己評価が低いのもその時に植え付けられたものだからです」


 ジャミルの言葉にリシェルが青くなる。

 確かに思い当たることはある。

 王子やその取り巻き。

 そしてメイドから何からリシェルは否定しかされなかった。

 リンゼも味方のふりをしていたが、今になって考えればそれとなく自信がなくなるように誘導されていたようにも思う。

 

「だからお嬢様は大人には心を開けなかった。

 自らの父親にでさえです。

 全て怒られてると悪い方に捉えてしまうのはその時の記憶のせいです。

 ロゼルト様が10歳の子供姿だったからこそ素直に心を許せた。


 もっと自信をもって大人も信じてください。

 貴方はとても優秀だ。

 そして貴方の父上、そこにいる忠誠馬鹿、それにマルク。

 皆に貴方は愛されてる」


「……でも、私は全てからまた逃げようとしました。

 それは愛される資格が……」


「資格とか必要ありませんよ。

 問題は可愛いか可愛くないかです」


「…え?」


「理屈じゃないんですよ。

 お嬢様は可愛い。

 それでいいじゃないですか」


「……ジャミル。意味がわかりません」


「貴方に魅力がなければシークもマルクも俺も付いていかなかったでしょう。

 そういう弱いところを含めて、魅力だと考えたらどうです?」


「……まるでおとぎ話の騎士様のセリフみたいですね。

 女性を口説く騎士様みたいです」


 リシェルが呆れたようにいえば、ジャミルはにっこり笑う。


「お嬢様は守られて満足するタイプではないでしょう?

 ロゼルト様に守られたいのですか?それとも、その隣を歩きたいのですか?」


 そう言われて18歳の自分が18歳のロゼルトの隣を歩いている姿を想像して赤くなる。


「私は………」


 共に歩むなら。

 守られるだけではなくロゼルトの役にたちたい。


「隣を歩きたいです」


 顔を赤らめていうリシェルにジャミルは「それが答えですよ」と微笑む。


 そうだ――過去の自分との決別を。

 私は、復讐してみせる。

 あらがう事をやめた自分自身と。

 そして全ての元凶のあの二人に。


 リシェルは前を向くのだった。

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