38話 父との確執
どうしてこうなったのだろう。
リシェルは市民の格好をしている父と二人で歩いている。
お父様にも同じように案内してあげてください。
喜びますよとジャミルに課題を出されてしまった。
……ジャミルに紹介したように、父と街を歩く事になったのだけれど。
隣で平民の格好をして歩く父に違和感を覚える。
断られると思っていただけに、一緒に来てくれるとは思わなかったからだ。
ぎこちなく商店街を歩く。
「あーリルちゃん。今日も買っていくかい?オマケしとくよ」
ロゼルトといつも買っていた串焼き屋のおばさんが声をかけてきた。
「あ、はい。
お願いします」
と、リシェルが串焼きを受け取れば
「この間は親戚のお兄さん達とだったけど今日はお父さんとかい?」
と、ニコニコ顔で聞いてきた。
「あ、えーと」
リシェルが何と答えていいか戸惑っていれば
「はい。娘がいつもお世話になっております」
と、串焼きを受け取りお金を払いながら言うグエン。
「いいお父さんだねーよかったねリルちゃん」
そう言っておばさんがニコニコとリシェルに言えば、リシェルは顔を赤くした。
「は、はい。よかったです」
ずっと嫌がられていると思っていたのに、父がこうして一緒に買い物をしてくれている事実にリシェルは戸惑った。
父とこうして旅行をしたのなど何年ぶりだろう。
「行こう。リル」
そう言ってグエンが手を差し出せば
「はい!」
リシェルはその手をとるのだった。
■□■
「お父様これも美味しいですよ」
「ああ、美味いな。リシェルはよく知っている」
「ロゼルトに教わりました」
嬉しそうに言うリシェル。
あれから、二人は街や子供達の遊び場。
よく手伝う農家の家などにいき、最初はぎこちなかったものの、リシェルもだんだんとグエンに心を開くようになってきた。
ここに来る前。ジャミルに「とりあえず褒めて褒めて褒めまくってやってくださいね?」と子供の扱い方のレクチャーをうけて、グエンはそれを忠実に守っていた。
何故かリシェルを褒めると、必ず「そうです!ロゼルトは凄いのです!」と勝手に脳内でロゼルトを褒められてると変換しているらしいが……本人が嬉しそうなので黙っておくことにした。
母親が死んでから、リシェルはグエンと距離をおくようになってしまった。
リシェルの母は結婚する前は優秀な魔法使いだった。
貴族の女性でありながら宮廷魔術師としてやっていけるほど、彼女は戦いに秀でていたのだ。
自分の身は自分で守れる。彼女はそれだけ優秀だ。
そう思ったからこそ娘は妻にまかせ自分は国王を助けに向かったのだが――。
夫婦となり長い間実戦から離れていたリシェルの母はとっさに対応ができなかった。
今思えばリンゼに盛られていた毒のせいで魔法が発動できなかったのかもしれない。
娘を守ることに手一杯で、自らは命を落としてしまったのだ。
あの時のリシェルの言葉。
「何でパパはママを見捨てたの?」
泣きながら言った幼い娘の言葉が今でも忘れられない。
それに言い訳ができなかった自分にも責任がある。
守れなかったのだから――言い訳すべきではない。
それを美徳だと思い込んでいたのか。
それとも娘と向き合うのが怖かったのか。
説明しなければいけなかったのに。
グエンはそれを放置してしまった。
そこで、放棄してしまったのだ。娘と向き合うことを。
逃げずに誠心誠意説明すべきだった所を、放置したせいで今の関係がある。
たとえ恨まれても、嫌われても。
娘を愛していると伝えなかったせいで、愛されているという実感がなかったのだろう。
「愛情不足の子によく見られる症状ですよ。
親に愛されている実感のない子は、周りの評価を気にします。
周りの評価を自分の価値だと思い込む。
そして前世でなじられ続けた結果自信をなくしたのでしょう。
だからあれほど自己評価が低くなってるのだと思います」
マルクに言われた言葉が胸に刺さる。
自分のせいでリシェルは自己評価の低い子になってしまった。
そして素直に身の回りの大人に頼る事も知らない。
運良くマルクに最初の話を持ちかけたから上手くいったものの、それも結果論だ。
リシェルがここまで上手く事を運べたのは運がよかったとしか言いようがない。
本来ならグエンが率先して守ってやらねばならかった。
結局グエンにはリシェルはこれから起こるであろう未来も、ロゼルト側につき国に反旗を翻す事も話さなかった。
親として信頼されていない。
その信頼を今からでも回復しなければならない。
ロゼルトやエクシスに聞いた娘の未来。
自分が無力だったがために、娘はいわれのない罪をきせられ、足を切り落とされ最後には殺される。
そのような未来をこの子に背負わせるわけにはいかない。
最初のころよりずっと笑顔を見せてくれるようになった娘を見つめ、グエンは微笑むのだった。








