一兆編 第七話 ゴールデンピーチ
翌朝
「ふぁ~・・・久しぶりによく寝たぜ~。って、あれ?俺いつから寝てたっけ?ってぎゃ!!」
トラマルが目を覚ました。朝早くからうるせぇな。
「おや?あらごきげんようトラマルちゃん、いつの間にか寝てしまってましたね」
トラマルが大声を上げた原因がこれだ。シラキと一緒の布団に入ってた、仕方ないじゃん。ここ狭いんだもの。
因みに俺はもう既に起きている。色々準備があるからな。
「にしても・・・なんだ?体がやたら軽いんだけど・・・」
チアキが立ち上がって肩を回している。
「確かにそうですね。気分爽快、おめめぱっちりって感じ。グレートな気分です」
それを聞いたシラキも同様に回す。
「これがサナルナの力だ。あいつらの力に触れた奴は今までの疲労が全部吹っ飛ぶ。風邪ひいてようが翌朝にはすっきりだ。なんなら末期がんすら治せるらしいぜ」
最初は俺も驚いた、グレイシアを治したのもあいつらだ。確かに無くなっちまった腕とかは治せないがそれ以外ならどんな病気やケガも治せる。
小町の話じゃナナの魔法を使うものは怪我の治療は出来るが、病まで治せるのはサナルナだけらしい。だがその力を奪おうとやって来る連中も多い。だから小町はこの場所をほとんど誰にも教えない。
「さぁてと、全員起きたしそろそろ行くか」
俺は早速出発しようとした。
「あ、待って。おれは行けないよ?」
チアキが至極当たり前のような顔で拒否してきた。
「は?」
「だって今日学校だもの」
あぁ・・・今日は水曜日だ。平日だ。
「えー」
「えー、じゃないよ。無理なものは無理。後日にしてくれる?」
そういやこいつら全員生徒会執行部だったわ。
「いいじゃん、いいじゃん。学校に行かせりゃ。その間に俺らが勢力伸ばしてお前らを俺たちの傘下にしてやるから!!にししし!」
トラマルは嬉しそうに推奨している。
「それは無理だろうね~、一兆とはレッドベアズとブルーサンダースは常に対等な立場って契約してるもの」
「おいこら、いつの間にそんな約束してんだよ!!」
「お前がシラキの抱き枕になってた時」
「きー!!」
まぁそんな事より、チアキには居てもらわなきゃ困るんだよな。恐らく既に俺らの行動は既に他の奴らに行き渡ってる。俺の力も対策されてる可能性だってもしかしたらあるかもしれねぇ。
一人で殴りこむのはいいが、傘下にさせる絶対条件は他の奴らに俺との戦力差が圧倒的だって事を見せつけるのが条件だ。そうしなければ、この烏合の衆であるゼロカラーサンライズが一枚岩にならねぇ。直ぐに反乱が起きて、俺の計画がパァだ。
「おう、全員起きたか」
そんな所に小町がやって来た。
「ん、小町、どっか行くのか?」
「あぁ、こっちも計画実行でな。しばらく開ける事になるぜ」
「じゃあサナルナはどうすんだよ」
「一応メリーヌとオーギュストが面倒を見てくれるって事になってる。東遷も甘海戻ってるしな」
成程そいつらか・・・だが、あいつ等が使えるのは仕事であって、あまりこういうのは・・・
『おっはよ~!!』
そんな事を考えていたらサナルナが元気に飛び出てきた。
「だぁー!!サナルナ!!暴れんじゃねぇーーー!!」
オーギュストが左に走っていった。
『わーーーい!鬼ごっこーーー』
「オーギュスト回り込め!!ってのわぁ!!」
『おーにさん!こーちらーーーー!!』
メリーヌが右に走っていった。
あの大怪盗がこのざまか・・・
「だ、大丈夫か・・・これ」
小町が苦笑いしている。
それ以外にもエネルギー無限大、超自由人のサナルナ相手に、他の幹部連中もドタバタ走り回っていた。
「捕まえた」
『あちゃー!!』
「捕まった捕まった捕まった」
「やるなこーき、やるな!!」
そんな中見事に捕まえて見せたのがコーキだった。
「こらサナ!ルナ!うちが留守中は大人しくって言っただろ」
『ごめんなさーい』
サナルナを叱る小町だったが、苦い顔をしたままだ。今は言う事を聞いても、まず無理だろうぜ。
「うーんあ゛ーーー・・・どうしたもんかなぁ」
「あの・・・俺、残りましょうか?」
そこでそう来るのは仕方ないよな。正直俺もそうした方が賢明な気がする。コーキがここに残ると提案した。
「一兆・・・すまんがいいか?正直、この中で一番使えそうなのはこのコーキだけみてぇだ」
「あぁ仕方ねぇがな。俺の方はこっちで考えるわ」
「済まないな一兆、どうにも見過ごせなくてな」
こうしてコーキはここに残ることになった。さて残ったのは、トラマル、戦力としては十分だが、馬鹿な分余計な事をする可能性が高い。
シラキにチサトは同じく生徒会だろうしな・・・
「あ、そうだ。チサト連れてけば?こいつは多少勉強しなくても問題ないし、ケンカもかなり強い」
そうか、結構影が薄いから忘れかけてたが、こいつ俺が気が付かないうちに車に潜り込んだり、その前に生徒会の仕事を片づけたりと普通に見れば超ハイスペックだ。
「あー、俺はいいけどあんたは?」
「構わない・・・」
だけどな・・・俺がこいつちょっと苦手なのよね。漂う中二臭がなんとも。でもま、背に腹は代えられん、ここは折れるか。こいつの戦闘能力も見ておきたいしな。
と、言う訳で、俺とチサトで青龍に向かう事になった。チアキとシラキはオーギュストが学校が始まる前に送り届けると言う事になっている。
「オーギュストさん!移動途中でもよろしかったら取材させてもらっても!?今日はいつもより更に冴えてます!!これは逃せないチャンス!!」
「お、おう・・・」
シラキはサナルナの影響で更に興奮度マックスだ。チアキは見た目は普段と変わってない。やる気のないような顔だ。
コーキとトラマルはここに残る。トラマルでもサナルナのおもちゃくらいにはなると思うぜ。
「へーっくし!!あれ?誰か俺の噂した?」
「一兆、カヤノとマアヤはそんな悪い奴じゃねぇから大丈夫だとは思うが、一応、気を付けろよ」
「あぁ、あんたこそ無茶すんじゃねぇぞ?そして、させんなよ」
何するかは知らねえけど、俺は三上にグレイシアを頼むって言われてんだ。
「当り前だ。誰一人傷つけさせはしねぇさ」
「じゃあ行こうか!」
永零がサイドカー付きバイクのエンジンを入れる。そしてグレイシアが自分の車に乗り込もうとした。
「グレイシア!!」
俺はグレイシアを呼び止めた。
「あんたもこれ以上無茶するなよ・・・あいつが約束を守っても、お前が守らないんじゃ意味がねぇんだ、守れよ、約束を」
グレイシアは表情を一瞬驚いた顔に変えこっちをみた。そして何かを悟ったかのように右手の小指をピンと伸ばし俺にしか見えないように向けた。
「それともう一つ、進化は無の感情の先にある。これ重要な」
「そう、そう言う事だったの。ありがとう、これならもう負けない。またね、一兆君」
またね、か。これなら大丈夫だな。グレイシアは、ほんのちょっとだけ笑うと、そのまま車に乗り込んだ。
そういや、三上がまだ生きてるって言ってなかったな。あの様子じゃグレイシアにはあえて伝えてないって感じだ。でも、どことなく感じてはいたんだろうな、三上がまだ生きてるってよ。そして、それがさらにグレイシアを強くしてる。
「俺たちも行くぜ、チサトさんよ」
「あぁ・・・」
俺たちはここにあった二人乗りのクラシックカー的な奴に乗り込んだ。流石に性能はグレイシアのやつに比べたら劣るが、乗り心地はこっちがいいかも。
青龍 『国越高速道路』片道三車線ある大きな道路。ここはセレスからアダムスの中央地区というとんでもなく長い距離に伸びた高速道路を走り、まずは青龍のバハムルと呼ばれる場所に向かっている。
この高速はほぼ直線で、特に今走るこの区間には制限速度がない。いわゆるアウトバーンのようなところだ。
「チサト、お前喧嘩強いって言ってたが、どんなもんなんだ?」
「何故聞く?」
「まぁ今はもう仲間みてぇなもんだし、知っときたくてな」
それもあるんだが・・・どちらかというと、話題がないから聞いてみただけだ。どうにも後ろで無言でいられると気が滅入る。
「言葉ではどうにでも言えるぞ」
「お前は多分俺と違って嘘をつくタイプじゃねぇだろ、俺の推理が正しけりゃな」
「買い被りすぎ、と言いたいが、まぁその通りだ。俺は嘘をつくのが好きじゃない。お前は逆に騙すのが好きなようだな」
「せいか~い」
ま、俺の専売特許だしな、騙し討ちは。
「だが、お前は自分の思っている以上に心に忠実だ」
「・・・さぁ、どうだかね」
あー、やっぱ苦手だわ。どことなくメリーヌみてぇな臭いがする。
「お前の聞きたい質問とは違ったな、次は質問に答えよう。俺の強さの度合い、分かりやすく言えば、コーキは昔ぶちのめした」
わぁお・・・そう来るとは思わなかった。そう言えば昔何かありましたって雰囲気はあったが、それか?
「ってことは、あの魔法のテクニックを・・・お前はなんか魔法使えんの?」
「いや、俺は使えん。少し昔話をしようか、俺たちが仲間だというのなら、知っておいて損はない」
そうだな・・・着くまでは暇だし、チサトに付き合うか。
「俺は朱雀地方出身ではない。アダムスの、北のとある海沿いの街だ。そこはいわゆる貧民街で身寄りのない子供も大勢いた、そんな時だ。俺とコーキは出会った。俺たちはどういう訳かウマが合い、一緒にしばらく暮らしていた。万引きや、時には強盗もしてな。
しかし、そんな事をするからバチが当たったんだろうな。俺たちの行動が目に余った大人供は、用心棒を雇い、俺たちは囚われ、拷問され、挙句の果てにはコンクリート詰めにされ真冬の流氷が漂う海に放り出された」
おいおい・・・こいつ、中々の壮絶人生歩んでんじゃねぇか・・・どの世界もやっぱ、汚いとこはあるんだな。
「流石に死を悟ったよ。しかし俺たちはある者に助けられた。俺たちは行く当てもなく、その者の所に居候していた。だがある日、コーキは突然炎の魔法に目覚めた」
何?この世界の奴が、急に魔法に目覚めただと?
「おい、どういう事だ。魔法は遺伝のみなんだろ?」
「あぁ、だがコーキは実に清々しい顔で、その力を手にしていた。いや・・・魔法に目覚める方法を手に入れたというのが正しいんだろう。あの時のコーキは、今とはかけ離れた性格だった。力に溺れ、自分こそが最強だと思い込んでいた。コーキは自らその場所を離れ、力をあちこちに振りかざした。かつての一緒にいた仲間すら巻き込んでな。
それを見かねたあの方は、俺を修行してくれた。あの方はそこからは出られない身なのでな。しばらくしてから俺は、コーキと戦い、自分でも驚くほどの大差で勝った。コーキは俺に手も足も出せず。俺に殴られ続けた。
俺はコーキを引きずり、あそこに帰った。しかしあの方はコーキを許さず、フロンティアに送ったんだ」
成程、そこからは大方予想がつく、あの何もない砂漠でコーキは自分を見つめなおしたってところだろ。だが・・・
「一つ引っかかるな、あんたを育てた、そのお方ってのはどんな人間なんだ?魔法使う奴相手に何にも持たない人間が勝つってのは、かなり無理があるぜ」
魔法族は大体、通常の人間よりも身体能力がそもそも強化されている。遺伝で衰えてきた奴らなら分かるが、魔法に目覚めたばかりなら尚更強化され、その力は恐らく覚醒者に匹敵するほどだと俺は考えてる。
「あの方の事は誰にも言うなと言われている。だが、お前が、あの方の言っていた奴なら」
「どういうこった・・・中二臭いセリフ吐いても、何もでねぇぞ?」
怪しい、そいつは俺たちの存在・・・いや、この世界の秘密を握ってる連中の可能性が高い。アウロか?いや。
「彼女は、そもそも人間ではない。大海原の乱波、名はウンディーネ」
おいおいおいおい・・・おまけにもうひとつおい、そう来るのかよ、四精霊、ウンディーネは水の精霊だ、どうなってんだよこの世界。嘘としか思えねぇぜ。だが、チサトは全く持って嘘は言ってねぇ。真実を語っている。同姓同名の奴って訳でもなさそうだしな。
「聞いといて正解だったな。その名前は知ってる、水のウンディーネ。水を司る精霊の名前だ」
「ふ・・・やはり知っているか、四精霊は王族のみに語り継がれている事なのにな。やはりお前がそうなのか」
チサトは初めて笑った。妙に気色悪い、俺とウンディーネがなんかあんのか?ウンディーネなんてこっちからしても伝説の物語の中の存在だぞ。
「お前・・・何を聞いたんだ?」
「世界を一つにする者・・・そう、今お前がやろうとしてる事だ、そいつが必ず導き手として現れる。現にお前は、俺とコーキを再び結び付けた。お前しかいないんだよ・・・光より世界を守る闇の勇者は」
は?こいつ最後なんて言った?普段聞き慣れたセリフとは真逆の事を言ったぞ。
「まてい、なんだその闇の勇者ってのは」
「ウンディーネがたまに言ってた、世界を本当の意味で導くには光に向かうのではなく、闇に向かう事。影を見る事で真の正しき道が開かれるとな」
あー、成程。こいつがやたらとポエマーな感じがするのは、ウンディーネの影響か。
「聞いといて損は無かったな。だが俺はそんな勇者なんかのタマじゃねぇ。勘違いだぜ?」
「それであったとしても、お前が何の目的でチームを一つにしようとしているのかは分からないが、かつての友と再び合わせてくれたことを感謝する」
どうやら、コーキとチサトはそのいざこざ以降、噂は聞けど直接会う事は無かったらしいな。それぞれ、適当に理由を付けて。互いに後ろめたさがあったんだろうぜ。
そんなこんなでここは青龍、バハムル。情報じゃ連中はここの旧変電所を根城にしているらしい。
という訳でやってきました、旧変電所。
中に入りました。すると・・・どうしてこうなったのでしょう。
「お前が最近噂の奴だな。たった一人で二つのチームを乗っ取ったという男は」
おかしいな、一人で殴りこんではいないんだけど・・・
「ヒヒッ!!面白そうだなぁおい・・・刻み甲斐がありそうだぜぇ・・・」
あれ・・・チームってこんな、何百人とかいるって聞いてないぞ。明らかにヤバそうな奴もいるし・・・それに。
「おうおう、意外と可愛い顔してんじゃねぇか。なぁ後でみんなで食っちまおうぜ」
セリフはともかく、こんな男女入り混じったチームじゃねぇだろ。ゴールデンジョンは男性のみ、ピーチジョンは女性のみのはず。
「驚いたか?」
奥から男の声が聞こえる。
「お前の噂を耳にした」
そして今度は女の声・・・まさか、まさかのまさか。やりやがったのか?
「俺たちは元々は一つだった。だが、ここを守るには二つに分かれざるを得なかった」
「だが、今はもう違う。ピーチジョンもゴールデンジョンももうない。私たちの名は・・・フュージョンジャックス」
いつの間にか経営統合してやがった。
「お前は俺たちを乗っ取ろうとしていると見える。だが理由はどうであれ、そう易々とお前の軍門に下る気はない」
男の方は手に持っていた日本刀を抜いた、綺麗に手入れの行き届いた刃が光る。
「これは試練。お前が本気で私たちに勝てると思っているのなら、力で示してみろ」
女の方は裾に忍ばせていた苦無を取り出し逆手に持った。
あー・・・こりゃきっついわ。




