メリーヌ 策はいくつも立てるもの
メリーヌはエルメスを手に入れるべく中央に向かうが、アウロの策略により撤退を余儀なくされてしまう。
「あいててて・・・流石に六十階から飛び降りるのは無理があったかね」
私はビルの間に流れる雲を眺めた。全身強打して今は動けそうにないな。そんな状況にも関わらず通信に連絡が入る。
「あー、グレイシア?」
『どうだった?』
「失敗も失敗、大失敗。先手を打たれてたよ。ディエゴの野郎、エルメスどころかアレックスまで用意してやがった。どこまで読んでんだよ」
私としたことがあそこから何も盗らずに帰るなんてね。ま、盗ろうとしてたモノが一筋縄ではいかないような奴だからね、仕方ないか。
『そう・・・あなたは無事なの?』
「うーん、これを無事と言えるのかね、全身の骨が折れてる。治るのは流石に時間がかかりそうだ。内臓も一部潰れたし」
『分かった。無理はしないでね』
「分かってるよ。まだ私の力がいるんだろ?少ししたら動けるようになる」
あと十秒ほど休もう。その一分後には野次馬が来るし、ずらかるか。
『にしても、エルメスを手に入れられなかったのはマズイね』
「あぁ、このまま中央に留まり続けるのはまずいかもな。エルメスとアレックスは既にディエゴと接触してしまった。つまりこの中央は既にディエゴの操り人形と思った方がいいかもしれない」
ディエゴの野郎、なんでまた中央を手に入れようとしてんだ?ここにはろくな戦力はいない。エルメスを人質にしようにも、どうもそんな訳でもなさそうだし・・・
「ところでグレイシアは今どこにいるんだ?」
『私はあの少年二人を追ってる。今はセレス』
「馬喰 一兆に男鹿 特急か」
『エルメスがいない今はあの子たちに賭けるしかない。ディエゴの尻尾を掴むにはね、あの子たちを追えば、いつか必ず接触する』
グレイシアはやはりディエゴを殺す気なんだな。だがあいつは滅茶苦茶強い。私も行くべきか。
「分かった。私もセレスに向かう事にするよ」
『ダメ、メリーヌはそこに残って』
「え?どして?まさかディエゴを一人で相手にするつもり?」
グレイシアはしばらく黙っている。図星か?いや・・・そうじゃないな。
『ディエゴが何故中央を狙ったのか、気になるから。多分ここの場所から何かをするつもりだと思う。だからもしもの時にあなたが動いて欲しいの。それに今、最後の希望は中央に向かってる、あなたはあの方たちの護衛をお願いしたい』
「あの方?誰?」
『会えば分かる。あの方だけはアウロもノーマークだったみたいだから、私が中央での決戦前にあの二人に連絡した。今はもう中央地区に入ってるはず』
あの二人・・・そして護衛、あ、そうか・・・まだあの人が残ってたんだ。
「りょーかい。と言いたいが、その前にグレイシア、少し確認したい。あんたディエゴとはさしの勝負する気か?」
『それしか手段がないのなら。まだあいつは尻尾を出していないし、出たと思ったら既に手遅ればかり、まだどうなるか分からない』
「そうか・・・それともう一つ、ビリー ラックスの行方の情報は入ったか?」
『それが全くない。アウロの無線を盗聴しても、あの男の事は全く出てこない。だけど・・・』
「だけど?」
『近づいている気はする。奴はこのセレスの近くにいる。空気がどことなく重たい』
「分かった、ディエゴも重要だがあいつにも注意しとけよ。アウロの中でもあいつは何を考えてるのか分からない、異質な存在だ」
『分かってるつもり、前にあったときに感じた。今の私ではあいつには勝てない。だけどアウロを実質仕切っているのはディエゴ。てっぺんの彼を倒せれば組織は少しは傾く。そうなれば少しはラックスに対抗する手段も見つけられるかもしれないから』
「そうだな、あくまでもあいつは組織に属する者、命令があって行動する。命令の系統が崩されれば、虚を突くことも出来るかもね。さてと、私の方も大分体が動くようになってきた。適当に民間人に化けてあの人のとこに向かうとするよ」
『じゃあ、気を付けて』
「そっちこそな」
もうすでに変装は終わった。どっからどう見てもモブだ。さっきまで来てた服は小さくしてそこら辺のごみ箱にポイ。
うん、我ながらなかなかの出来だな。可もなく不可もなくの感じ、低所得者でも高所得者でもない、普通のサラリーマンだ。ラーメンが似合いそうな感じになったな。後はさっきごみ箱から拾ったカバンで完成っと。
今はあの人たちどこら辺かなぁ~。
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「見えてきましたね、中央」
「あそこに行くのは何年ぶりだろうか・・・」
「わたしも久しぶりですねぇ。アレックスは元気にやってるのでしょうか」
そこには三人いた。中央地区の外れに位置するこの場所で、二人は老婆を連れてここまで来た。
「はい、アレックス様は常に国民を思って行動してらっしゃいます。しかしですが、今回ばかりはあなたの力添えがいるのです・・・エリザベート様」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよエンリコさん。気兼ねなく呼んでくださいな、そうですねぇ、エリーなんかかわいいんじゃないかしらねぇ」
「あの・・・デートに行くんじゃないんですから・・・」
「あら、そうでしたの?」
エリザベートは少しボケているのか、はたまたふざけているのかは分からないが、エンリコは少し疲れ気味だ。
「ん?これは・・・エンリコ、まただ」
「またか!!あんちきしょー・・・」
一人が何かを察し、エンリコに注意を呼び掛ける。
「バケモノが最近やたらと多発してるって事件、やっぱ本当なんだな。しかも中央に行くにつれて多くなっている。だけど中央自体に被害はまだない。変だよな」
「そうだな、まるでここに来るものを拒むかのように現れる・・・中央は今、どうなっているのだろうか」
エンリコは巨大な鎌を取りだした。
「ここは俺がやる。あんたはエリザベート様の護衛を頼む」
「いいだろう、これも修行だ。吾輩は見守ろうぞ・・・」
「やいバケモノめ、この俺の新しい鎌で刈り取ってやるぜ!!」
エンリコは持ち手が少し反っている大鎌を振り回し構えた。だが彼の持つ鎌はかつて桜蘭を襲った時の物とはまるで違う。かつての彼の使う鎌は草を刈る用の物をそのまま大きくしたものであったが、今は違う。持ち手が反り、槍と鎌が一体化したような武器の側面を多く持つ鎌になっていた。
「とどめだぜっ!!」
そして何より変わったのが、エンリコは鎌に何かを差し込んだ。そして鎌に風を纏い大きく振った。
バケモノは鎌の一撃と風のかまいたちを喰らい一撃の元に沈んだ。この鎌は魔法を纏う鎌になった。そしてその鎌を使うためにエンリコは新な魔法を使うための道具を使う事にした。
「どうだ!!」
「ふっ・・・なかなかやるようになったな。だが、まだまだ詰めが甘いぞ、エンリコ」
エンリコが倒れたバケモノに背を向けた瞬間、もう一人が即座にバレルを短くしたショットガンを放った。
巨大な火球がバケモノを一気に吹っ飛ばし、黒焦げにした。
「ちっ!!分かってたし!!ナターシャに言われなくともちゃんとやれた!」
「そうか?完全に敵との間合いを切っていたように見えたが?」
「そ、そんな事ねぇよ!!」
「・・・そうか、少しお仕置きがいるな。お前のおじい様に言われている。もし孫が粗相しでかしたら容赦なくとな」
「えっ・・・じっちゃんが?」
ナターシャの手がエンリコの頭を掴んだ。
「あ、痛い!!いたたたたた!!ごめんなさい!!ごめんなさい!」
「油断は常にするな。今のも、避けようと思えば避けれたはずだ。吾輩が言いたいのは死んでいようがいまいが、相手との繋がりは断つな」
「っくぅぅ・・・そ、そんなあんたこそ、サクラの野郎の前に逃げたじゃん」
「っ!それとこれは関係ないじゃない!!」
「ある~」
「ないわ!!」
「ふふふ・・・お二人とも、まだお若いわねぇ。まるで姉弟みたいです」
追いかけっこしている二人を見て、エリザベートは優しく笑ってそれを見届けた。
追いかけっこの結果は、圧倒的な差でナターシャの勝利であった。
「くっそー!今度こそ勝ってやる!!」




