永零 異世界の意志
礼たちはかつてゼロが住んでいたとされるセイアン村へと辿り着く。
僕は礼と一緒にある場所にやって来た。かつて集落があったかのような廃墟。多分火事で全部なくなっちゃったんだろうな。
「ここは?」
僕は礼にこの場所について聞いてみた。
「ここはかつてセイアン村って呼ばれてたところ。ここには昔、神崎 零っていう人が住んでたんだ。この村で英雄って呼ばれた彼は、僕たちと同じようにここに飛ばされてきた人。零はここで暮らしてた。だけど、この世界が一つになろうとしているときにここで事件が起きたんだ。そして零はすべてを失った。
それ以降、零は人が変わったかのように支配欲に飲み込まれ、世界を征服しようとしていった。僕はそんな彼と戦い、殺した」
礼は神妙な顔つきで語り始めた。
「殺したって・・・人を?」
「うん、ただ零は・・・いや、自らをゼロと名乗ったあいつは、取り戻したかったんだと思う。もう取り戻すことのできない、大切なものを・・・」
礼はこの場所に持っていた一輪の花を植えて、この場所を後にした。
「どういう事なの?それって」
「零もまた、彼ら・・・アウロに利用された存在だって事」
僕はこれ以上礼に何も聞けなかった。僕たちはここから少し歩いて小さな滝に辿り着いた。
「そして、ここは零が英雄と呼ばれるようになった場所。ここでの戦いを知る者はいない。だけど、ここで零は英雄になった。ここにあるはずなんだ」
滝の裏に小さな洞窟が見える。人一人が入れそうな小さな洞窟の入り口。なんだろうここ・・・懐かしい気がする
僕たちは洞窟の奥へと入っていった。
するとフォックスが突然走り出した。
「なんだか、いい匂い・・・この匂いはもしかして!」
ぴょんぴょんと跳ねながらフォックスはささっと奥へと進んでいく。
「やっぱり、この場所はフォックスにとっても重要な場所なんだね」
「うん!!レイ兄ちゃんここなに!?この匂い!!ニヒルおねぇちゃんだ!!」
ニヒル アダムス・・・なんでなんだろ、僕にとって凄い大事な事だった気がするのに・・・思い出せない。漠然とした感情しか出てこないんだ。怒りと言えるし、喜びにも感じる・・・
僕の事務所と関係があるのかもって思ったけど、それとこれが全く結びつかない。考えれば考えるほど、全部がズレてく。
「永零?永零!?」
突然呼ばれた声に僕は気が付いた、目の前に礼が心配そうに僕を見ている。
「大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね礼。だけどここ・・・落ち着く気がする」
「だね、僕も初めて来るんだ。見つけられるか心配だったけど、フォックスがいてくれて良かったよ。この子が一番ニヒル アダムスを知ってるから、その可能性に賭けてみたら、ビンゴだったみたいだね」
少し開けた場所に出た、そこは今にも崩れそうながれきまみれの場所だった。そしてその奥にある一つだけぽつんと置いてある岩の上に一振の刀が置いてあった。ボロボロの柄だけど、その刀は威厳を放ち続けている。
「日本刀?だけどなにこれ、刀身が真っ白だ・・・」
「あ!!これおねぇちゃんの剣だ!!ありゃ?でも折れてる」
フォックスがその刀を嬉しそうに見ていた。
「やっぱり、これはニヒル アダムスが戦いに用いた武器なんだね。なるほどそう言う事か、なんでゼロがこの武器をここに置いたままにしたか分かったよ」
礼はその刀を持ち、刀身を見ている。
「これが折れるほどの戦いか・・・」
「ねぇレイ兄ちゃん、それどうするの?」
フォックスは礼に乗りその刀を眺めている。
「この武器は受け継がれてきた平和の意志。そして僕の新たな意志だ」
礼はその刀の柄を砕いた。そしてその内側、なかご部分には文字が刻まれていた。
『平和を願いし者たちよ この世界で闘う者たちよ』
そこに刻まれていたその言葉、そこに込められた意志の重さは僕の想像をはるかに超えているんだろう。
・・・平和を願うからこそ、戦いという真逆の選択をする。僕にはそう読み取れた。だけど、礼には別の意味にも捉えられているのかもしれないな。
「このままでは戦えない。だから、これを鍛えなおす」
「ぅえ?それって天石でしょぉ?絶対に折れないし傷もつかないやつをどうやるのさ」
「これは折れた、つまりこの刀にも限界はある。その限界を僕たちで作るんだ。なに、1つや2つ位こいつを打ち直す方法は思いついてるよ」
礼はフォックスに優しく語った。にしても礼って、すごい用意周到というか、常に僕の想像を超えて行動するなぁ。
僕たちはこの地を後にした。
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しばらくして日が暮れてきた。
「今日はここで野宿だね。って あ、この場所・・・」
「わぁ~、この場所懐かしいねぇ。そう言えばここで出会ったよねおいらたち」
「だね、久しぶりだ。永零には言ってないよね。僕とフォックスはここで出会ったんだ・・・」
僕たちはここで一緒に話しながら休息を取った。そこで色んな事を聞いた、この世界の事や、色んな戦い。だけど、どうして礼が僕の前に現れる事になったのかは聞けなかった。
「永零、すまないけど近くに川があるはずだから、水汲んできてもらえる?僕はこっちでやる事があるから」
「分かった。行ってくるよ」
僕はバイクに備え付けられていたタンクに水を入れに小川に向かった。
その時の出来事だった。
「さて、これぐらい汲めばいいかな。よいしょっと!」
僕はタンクを抱えながら礼のいた場所に戻ろうとしていた。その時、川の向こうの草むらが揺れた。
「・・・? 誰かいるの?」
僕は奥に問いかけた、動物なのかな・・・肉食動物だとしたら、慎重にいかないと。
僕は揺れた茂みから目をそらさずゆっくりと後ずさった。そしてそこから勢いよく何か飛び出してきた。
「へ!?」
そいつは僕に飛び乗って来た。僕はバランスを崩し倒れてしまった。
「いたた・・・」
「ねぇ、おまえ・・・」
言葉をしゃべった?って事は人間なの?じゃぁなんで僕に飛び乗って・・・
僕に飛び乗って来たのは女の子だった。ただ、恰好が普通じゃない、バスローブ一枚しか着ていないんだ。靴も履いていないし、なんなら多分下着も着ていない。
「おまえ、三上 礼って知ってる?」
三上?・・・礼の事か・・・こいつまさか、礼の敵の・・・
「答えないの?ぼくはアイシー ローゼンシュティール。ぼくはおまえを知らないけど、おまえ、礼を知ってるでしょ?おしえて」
なんか、こいつヤバい・・・何とかして退けないと!!
僕はこのアイシーを突き飛ばそうとしたけど、頭を掴まれ身動きが取れなくなった。
「教えてくれないのなら、おまえの口に聞く」
なんかヤバい!!この状況をなんとかしないと!!
「んあ゛っ!!」
突然、アイシーは僕から離れた。僕はしばらく何が起きたのか理解できなかった。
「安心してよ、みねうちだからさ。だけど、頭蓋は砕いちゃったけどねぇ」
礼だ、礼が僕を助けてくれたのはいいんだけど、その爽やかな笑顔が妙に怖い。
「やっぱり、生きてた・・・でも驚いた、女の子の頭を壊すなんてさ・・・うれしいよ!礼!!」
今度は礼に目標を変えた!
「礼!!避けて!!」
僕の助言は無駄だったみたいだ、飛び出したアイシーを礼はその頭を鷲掴みにした。
「はじめまして、アイシー ローゼンシュティール。僕が三上 礼だよ。残念だけど・・・死んでくれる?」
「・・・あは あははは あはははははっ!!おまえいいな!!」
礼は持っていた刀を振ったが、それはアイシーをかすめただけだった。
「外した・・・君強いね」
「当たった。おまえ、すごい。ねぇ礼・・・ぼくと遊ぼ?」
アイシーは人懐っこく礼におねだりをしていた。
「遊び!?だったらおいらも!!って あれ?どうなってんの?」
そこへフォックスも乱入してきた。完全に場違いだ。
「おまえは誘ってない、それにこれは大人なあそび・・・こどもはおねんね」
「何をー!!おいらなんてお前なんかよりずっと長生きしてるわい!!礼!!おいら絶対あそぶから!!」
礼はアイシーから視線をそらさフォックスにすこしきつめの口調で言い放った。
「だめだよ、彼女はどうか知らないけど、僕も久しぶりにあそびたくてさ・・・この子は離さない・・・」
「ふぅえ?」
礼はフォックスをひょいと持ち上げた。
「こっから先は僕とアイシーとのR指定の危険な遊びになるからさぁ!!」
「ひゃーーーーい!!」
礼はフォックスを僕に向かって投げ飛ばした。
「ねぇ永零、少しの間向こうで待っててくれる?僕はこの子と遊ぶから!!」
「は、はい!!」
僕はそそくさと走った。ヒェェ・・・どっちも怖かったなぁ。
「にしても礼兄ちゃんって、変なのに好かれるよねぇベアトリーチェとかさ」
「だね・・・君含めグレイシアも変わってるしね」
「にゃー!おいらのどこがへんだーーー!!!・・・」
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フォックスの声が遠ざかった。
「さて・・・邪魔者はどけたよ。さぁ遊ぼうかアイシー。だけど先に言っておくよ、遊ぶのは僕とだけだ」
「うんわかった、礼、あそぼ!!」
あまり話聞いてなかったみたい。そうとう僕に会いたがっていたのか・・・やっぱり嫌な予感は的中したみたい。それに僕がこの子にバレた、口封じにもここで殺そう。
どす黒い感情に、妙な興奮、僕の中で渦巻いている。
「じゃぁ、何して遊ぼうか・・・」
「おにごっこ。ぼくがおに・・・いい?」
「いいよ、だけど僕も鬼だ。追って追われる関係。どう?」
「面白そう!!」
アイシーは興奮した様子で僕に狙いを定めている。ところでさっきから思ってるんだけど・・・なんでこの子僕に執着してるんだろ。会ったことも無いのに・・・
「じゃ、始めよ?あは あはは!!」
アイシーは僕に飛び掛かった。この子は僕を捕まえる事が目的になっている。さっきの行動からして触れる程度では問題はない。この子は恐らく何かしらの能力を持ってる。それを僕に使おうとしているはずだ。
さて、この子の能力は一体どんなものか気になるけど、発動させる前に倒しておこう。
僕はアイシーの攻撃をかわし、隙を伺う。行動に関しては速いが隙だらけだ。普通の人間ならば避けられないだろうが、この程度、反撃するには十分すぎる。僕は蹴りを入れた。
「う゛あ゛ぁ゛!!あ、あはぁ!!あははは!!」
叫んでるのか、笑ってるのか、いや多分悦んでる。正直けっこうな勢いで蹴ったから咳き込むのは分かるけど、こうも喜ばれちゃ、正直言って気色悪い。相当僕に会いたかったのか?
「礼、ぼくは嬉しいよ。ぼくはずっとおまえに会いたかった。けど死んだって聞いて落ち込んでたんだ。だけど生きてた。そしてこうして巡り合った。これって運命に近いと思わない?」
まったくもって思わない。それが運命の出会いならあちこちで運命の出会いがおきてるって。だけど・・・
「かもね、僕も君の名前を聞いた時に妙な胸騒ぎを感じたのは事実だよ」
「・・・それ、ほんと?アハ、アハハハ!!やっぱりぼくたちは運命共同体!!おしえて礼!!おまえの全部!!」
「なに!?」
突然アイシーの動きが速くなった。それだけじゃないパワーもさっきの数十倍だ僕はアイシーに抱きつかれただけの衝撃でかなり吹っ飛んだ。
「れ、礼!?」
「礼兄ちゃん!?って何してんのぉ?」
永零?まさかそんなとこまで飛ばされたなんて・・・
「おまえなら、おまえならぼくを・・・」
「っ!」
アイシーは目を瞑った、一体何をするのかと考えてしまい、一瞬の隙を作ってしまった。
「な・・・・ななな、なにしてんだあんたーーーー!!」
僕は見事にアイシーに唇を奪われていた。
「っぐ!!」
だがそれだけじゃない。これが・・・これがこの子の力・・・頭ん中に、アイシーの精神が入って来る・・・
『ぼくを愛せ。ぼくは愛してる。お前しか見えない。ぼくにはおまえしかいない。礼、おまえはぼくを愛するんだ』
「っち!!」
僕はアイシーを突き飛ばした。アイシーはごろごろと転がっていった。
「ねぇ君、なんでそんなに僕が好きなの?どうしてぼくにこだわる?」
僕の質問にアイシーは全く答えなかった。かわりにずっと驚いた表情で固まってた。
「2人とも!!もうやめてよ!!」
しばらく沈黙していた僕とアイシーに横やりを入れたのは永零だった。
「ねぇアイシーちゃん!君は礼の事が好きなんでしょ?なんで殺そうとしてるんだよ!!礼も、それを分かっててそれでもこの子を殺そうとしてたでしょ!!敵とか味方とかよく分かんないけど!この殺し合いは!間違ってるよ・・・」
確かに、永零の言う通りかも、僕がこの子を殺そうとしたのは遊ぶというより、憂さ晴らしと、この子が敵であるという事実から生まれた復讐心だけだ。アイシーは最初から僕にただ会いたいだけだと言っていた。それに目を見れば分かった事だ。アイシーは僕が好きになっていたから会いに来た。それをわかっていながら僕はこの子を殺そうとしていた。
「おまえは黙っててよ。ぼくは礼を殺したい。そして殺されたい。おまえがぼくを理解したようなことを言うな!!」
アイシーは永零を蹴り飛ばした。殺したいし殺されたいね・・・分かったよ・・・本気だそ。
「これで邪魔者はいない。礼、ぼくはおまえが好きだ。だから一緒に最後まで行こ?」
「いや、もうやーめた」
僕は戦う事を止めた。案の定そこにアイシーはつっかかって来た。
「だめ、一緒にさいごまでやるの」
「だーめ、ねぇアイシー。さっきの約束覚えてる?僕は永零たちに手を出すなって言ったでしょ?君はその約束を破った。僕は約束を破るような悪い子とはもうあーそばない」
「え・・・やだ。どうしてそんな事を言うの?僕は!!」
僕は人差し指で軽くアイシーの口を塞いだ。
「わがままはよくないよ?君は少しわがままだよね。僕はわがままな人は大っ嫌いなんだ。じゃあね」
僕は笑いながらそう言うと、相当刺さったのかアイシーは泣き出した。
「いやだ!!行かないで!!礼!!」
やっぱり、この子は興奮していればとてつもなく強いけど、少し心を折れば戦う気力はゼロ。誰にも勝てない。
「行くよ。フォックス、永零」
「え、えちょ!?」
「置いてくの!?」
「うん。どうせ敵だしね。今の彼女には何もできない」
僕は歩き出した、もう暗いけどちょっと進まないとなぁ。ってん?
僕の足元には手が巻き付いていた。アイシーは僕の足にしがみついてる。
「何、僕は君とは遊ばないよ?」
「いやだよぉ!!おまえだけだったんだよ・・・僕がキスをして死ななかったの。おまえだけだったんだ。僕の中を見てくれたのは!!だから、また一緒に・・・あそんで。僕と」
はぁ・・・どうにも僕も甘いのかな。僕はしがみつく手を振りほどいてしゃがんだ。
「また僕と遊びたい?」
「うん・・・」
「いいよ、正直言って楽しい気分ではあったからね」
僕がその言葉を言うと、アイシー顔をぐっと上げた。
「いいの?」
「だけど条件。君は我慢が出来ないみたいだからその罰。再来週にまたおいでよ。もちろん見つけるのは君だ。僕と君は運命なんでしょ?」
「分かった約束する!絶対に破らない。再来週に絶対!!」
「よしいい子だね。だけど条件はそれだけじゃ駄目だよね、反省しないと。そうだなぁ、今日の事は誰にも言わない事。そして再来週までは誰にも手は出しちゃだめ!出来る?出来ないともう絶対にあそば・・」
「守れる!守れる!ぼく約束はもう破らない!!」
僕はアイシーの頭を撫でて褒めてあげた。
「うん、良い子だね。じゃあ、今日は帰ろっか、多分君は僕たちを探せって言われてきたんでしょ?」
「うん。そう言う命令。だけど、僕はおまえにただ会いたかった」
「分かった。じゃあ再来週ね?嘘ついてもバレるからね」
「うん!!」
アイシーは嬉しそうに森の中に帰っていった。
「礼、凄い撃退法するね・・・にしても良かったの?また彼女襲ってくるよ?」
「いいよ別に、再来週までには僕ももっと強くなる。それに、もう彼女とは戦う事はないと思う」
「どゆこと?礼さっき約束してたじゃん。もしかして、女の子との約束破る気ぃ?」
フォックスが茶化してくる。
「そうじゃないよ、確かにこのまま再来週になればまたアイシーと戦う。だけどフォックス、僕がそんな用意不足な事すると思う?」
「いや、全く思わんねぇ・・・」
「そう言う事、それに僕じゃ彼女を根本的には変えられない。彼女は誰かを愛する事にだけに囚われてる。愛されることを知らないんだ。残念だけど僕には彼女は愛せない。彼女を包み込めるのは彼女と同じように愛されることを知らなかった奴だけだよ」
「礼、礼のその言い方だと誰か彼女を変えれる人がいるって事?いったい誰なの?」
「ふふ、秘密」
僕は永零にも優しく笑った。