オーギュスト 未知
中央にてオーギュスは第三の組織の痕跡を見つける。そしてアーサーはその証拠を掴むべくグレイシアたちの逃走経路を行く・・・オーギュストは置いていかれてしまった。
中央地区 新アダムスビルヂング
あんの野郎!!金に物を言わせやがってぇぇぇぇ!!!
「おいコラ!!そこのタクシー止まりやがれ!!」
俺は近くにいたタクシーを呼び止めた。
「お、オーギュストさん!?あ、あの、どちらまで?」
タクシーの運転手はビビりながら俺に尋ねる。
「南オーシャナだ!!今すぐ出せ!」
「み、南オーシャナ!?か、かなり遠いですよ!?」
「うるせぇ!いいから出せつってんだコラ!!」
「は、はいいいいぃぃぃ!!」
クソ、出遅れたな・・・そうだ。
「おい運転手、俺の指示通り走れ」
俺は時計を見ながら運転手に指示を出す。
「よし、じゃあ運転変われ」
「はい!?」
「一刻も早く行かなくちゃなんねぇんだ。ぶつけたりはしねぇからよ」
「あ、あのオーギュストさん・・・」
「いいから早くしやがれ!!」
俺は運転席と客席の間のパネルを外し運転主を助手席に置きハンドルを奪った。
「え?オーギュストさん!?南オーシャナはあっちですよ!?」
「こっちのがちけぇんだよ」
「ちょ!?踏切!!一時停止!!」
踏切に差し掛かる俺はそこで止まらずにハンドルを思い切り切った。
「ふぁっ!!?どこ走っとるんだべさ!!」
この運転手田舎出身なのか訛りが出てる。まぁどうでもいいか。俺は車を線路に乗せた。そして持っていた腕時計を速度メーターの前に置く。
「ここの道が一番速ぇんだよ。警察も見てねぇし。アーサーの野郎よりもぜってぇ早く真相を掴んでやる」
「道ってここ線路!鉄道専用の道!ってか列車来たらどうすんべよ!!」
「ほんと口うるせぇなぁ。ここの線路を走る列車は前方は今駅に停車中。後ろは一時間半後にここを通る。次の駅は通過線がある。時速百五十で飛ばしゃ前の列車を追い越せる。俺の頭ん中には時刻表とか線路図表なんざとっくに入れてんだよ」
後は時間を見ながら踏切と分岐ポイント使って線路を切り替えて進めばいいんだよ。
「あ、だから時計そこに置いてるのか」
「そうだよ。あ、あと向こうに着くと同時にガソリン切れるはずだからレッカー呼んどいたほうがいいぜ」
「・・・手配しときます」
やっと大人しくなったな。俺は上り線と下り線を交互に切り替えながら目的地を目指した。
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「ふぅ、やっと着いたぜ。迷惑かけたな」
時刻は次の日の夜明け程。俺は勇者たちが消えたとされる崖の道に着いた。
「あ、あのオーギュストさん?」
「なんだ?」
「あの、お代を・・・」
「あ?二百七十万!?」
まさかそこまで行ってるなんて思わなかった。せいぜい十数万は見越していたんだが・・・
「あぁくそ!コレやる!!」
俺は持っていた一枚のカードを渡した。
「暗証番号は一、一、一、一だ!!残高は確か三百万あったから適当に降ろしとけ!!じゃあな!」
「は、はぁ・・・」
ちくしょうめ、今ので全財産をかなり削っちまった。老後が・・・こりゃ何としてでもあいつより先に事件を解決しねぇと。
俺は消えたと言われている崖までたどり着いた。どうやら誰もまだ来てないな。
「四輪のタイヤの跡が一つ、この崖から先に続いてる・・・この地面の抉れ具合、速度は軽く三百を超えてた。ブレーキ痕は無し。やはり海に落ちる事が目的か。そしてこっちには二輪の大型バイクが何台か。やっぱ変だな、警察が追ったのになんで誰もいねぇんだ?規制線もねぇ」
俺は海を眺める。岩場に波が打ち付けられ波しぶきが朝日に照らされ輝いている。だが落ちたとされる車は見当たらない。
「流されたとは考えにくい。沈んでいる可能性が高ぇな。速度三百と考えるとあの位置・・・」
俺はもう一度海を見た時猛烈な怒りが沸いて出てきた。
「サンキュー兄弟!!どうやらこのあたりで間違いなさそうだねー!!」
「あ!?アーサー!?なんでてめぇがそっちにいるんだ!!」
いたのはアーサー、今度は女どもも連れて自前のクルーズ船に乗ってこれ見よがしに現れた。
「いやーそっちは兄弟に任せればいいかなってね!!だから俺はこっちに来てみたんだ!!ここは連携といこうじゃないか!!兄弟!!そこがグレイシア様たちが飛び降りたところなんでしょ!?」
しまった!!アーサーの野郎俺の立ち位置から落ちた場所を!!アーサーはダイビングスーツに着替え酸素ボンベを背負い海にダイブした。
「あんの野郎俺がこっちに来るって分かっててそっちに行きやがったな・・・」
「ふぅ・・・今日はなんだか蒸し暑い朝だったからね、ダイビングには丁度いいや」
アーサーは水面から顔を出しあのすかした顔を女どもに向けている。
「キャー!!水も滴るいい男ってこの事ねーー!!」
「はっはっは!!君たちも一緒に泳ぐかい?」
くっそが・・・余裕の顔を俺に向けやがって。向こうに行くのは最低でも一時間はかかる。しかもあのタクシーはガス欠・・・きーめた。
「な、なにを?」
俺は上半身の服を脱ぎ捨てた。
「ま、まさか・・・」
「そういや今日は妙に暑ぃな!こんな日は水浴びに限らぁ!!」
俺はそのまま高さ数十メートルはある崖を飛び降りた。
『うそぉ!!!』
アーサー含め女どもも同時に同じセリフを叫んだ。
よし、着水成功だ。良い子も悪い子もぜってぇ真似すんなよ。ちゃんと体を動かして運動して、少し水に慣らしてからゆっくり入れ。死ぬぜ。
「おりぃやあああああ!!」
俺は迫りくる波を押しのけるように泳ぎ、口をポカンと開けたアーサーよりも先に水没地点に辿り着いた。
「やっぱりここに沈んでんのか」
予想通り、車はここに沈んでいた。俺は潜り車内を確かめた。窓を割られた形跡がある。その後はどこに行った?考えられるのは・・・
「ぶはあっ!!」
流石に息が持たなかった。俺は一旦上に上がった。
「大丈夫かよ兄弟、まさかあそこから飛び降りるなんて。今のはマジで心配したよ?」
「てめぇに心配されるほど俺は貧弱じゃねぇ。あー目が痛ぇ」
海の潮が目にしみる。が、それよりもだ俺は少しの可能性があの時見えた。
ここはずっと崖の続く場所、そして近くに島なんてものはない。そして今の一瞬海底洞窟の入り口の様なものを発見した。可能性が高いのはあそこだ。だが、最悪な事にも気が付いたあそこの場所は潮の流れが異様に早くなっている。
「ねぇ兄弟、海の底で何か見つけたのかい?顔にそう書いてあるよ?」
「教えねぇし知らねぇし」
「そう硬くならないでよ。俺も今確かめてみたんだけどあれ以降の足取りが分からないんだ。ね、今回は君の勝ちでいいから教えてくれないか?それに兄弟、その様子だと俺の協力もいるんじゃない?今回は本当にただの協力関係で行こうよ」
「人にものを頼むんならそれなりの態度で示せよ。じゃないと手は貸さねぇ。自力だやろうと思えばやれる事だ」
「やっぱ何か見つけたのか!!仕方ないな・・・」
アーサーは船の上に上がり何をするのかと思ったら。
『へ?』
心外だ。俺とこの女どもと声を合わせる事になるとは、だがアーサーは普段絶対やらないことを俺にした。俺に対してなら尚更やらない事だ。
「頼むよ」
アーサーは俺に土下座してきた。こいつ、そこまでしてこの事件の真相を確かめてぇのかよ。だからと言って俺も引き下がる事は出来ねぇ。この事件の解決は重要な依頼だ。
くそが、仕方ねぇな、こいつの装備がねぇと辿り着けねぇのは事実だ。
「はぁ、今回だけだぜ。海底洞窟だ、それを見つけた。だが潮の流れが速ぇ。行くにはお前の酸素ボンベと足ヒレがいるんだよ」
「あ、成程!!海底洞窟か!それは見つけられなかった!!よし上がって!一緒に行こうじゃないか!!」
アーサーは土下座なんかしていたことなぞ完全に忘れたかのように俺を船の上に上げ、ダイバー用の装備を用意してきた。
「これで先に進めるな兄弟!!」
「だからその兄弟って言うのやめろ、うぜぇんだよ」
俺とアーサーは海に飛び込んだ。
俺はハンドサインでアーサーに指示を出しながら進んでいく。そしてようやく海底洞窟に辿り着く潮の流れを読みその隙間を縫うように奥へと進んでいった。
あたりを確かめながら慎重に洞窟内を進む。急にアーサーが俺の肩を叩いた。振り返るとアーサーは上を指さしている。そこにはどうやら空気のある空間があるようだ。先にこいつに見つけられるとは・・・くそ。
「ふぅ・・・」
「空気のある空間か。来るのは容易じゃないが不可能ではない。可能性としてはここが高いね」
「あぁ。現によく見て見な。僅かだが服の繊維とこの髪の毛だ」
服は誰のものか分からないが。特徴的な色の髪はすぐに誰のものかわかる。
「この色、グレイシア様か。やはり勇者たちはここに」
だが俺たちの見つけたものはこれだけだった。あとはいくら探しても出てこない。
「あー、どこかに抜け道でもあるのかと思ったけど違うみたいだね。また別の洞窟に移ったとか?」
「それは考えにくいぜ、ここは海ん中の洞窟だ。だがあり得ないものがある。それはなんだと思う?」
「うーん・・・あ、風がある。僅かだけど」
「そう、お前の睨んだ通りここには何かしらの道が隠されているのは間違えねぇんだ」
しかし、どうやって道を作った?こっちからは開けられない・・・向こう側から開ける?
その考えに達した時だった。
『勇者を探しに来た者よ』
急に洞窟内に声が鳴り響いた。女性、子供の様な声だ。
「誰だ?」
『君たちは闘う?』
「何の話だい?それよりも姿を現して直接話せないかな?」
『君たちに会う事は出来ない。けど話す事は出来る』
「話か、じゃあ早速聞かせてもらうぜ。あんた何者だ?」
『ワダツミ、それ以外は答えない。今度は私が聞く。君たちは平和の為に闘う?』
「平和?そうだね、俺は争い事はあまり好きじゃない。それを解決させるのが俺たちの仕事だから、言ってしまえばもう戦ってるのかな?じゃあ次ね、君はここに来た者を知っているね。彼らはどこに行ったんだい?」
『この世界の平和を取り戻す為にそれぞれが旅に出た。もうここにはいない』
「平和を取り戻すか、って事はミカミで終わらないって予想はマジみてぇだな。なぁ教えてくれ。あいつ等は何と戦う気なんだ?」
『この先はまだ見えない。ただ気を付けて、オーギュスト ドラセナ。アウトローは常に近くにいる。アーサー コンシンネ。敵はあなたの・・・』
『姫~、何をしてるのですか』
『あ、姉さん。マイクのテスト中?』
は?なんだいきなり、別の誰かの声が、姉さん?
『って言うか!またサボっているのですかぁ!?部屋に戻るのですよ!!』
『姉さん、雰囲気が台無し』
『知らないのですよ!!早く怒られる前に部屋に戻るのですよ!!』
『あーーーーー・・・』
声が急に遠くなっていった。
「アーサー、なんだ今の」
「さぁ、さっぱり。というかマイク?」
俺とアーサーはしばらく状況が呑み込めず固まっていた。
『あ、先ほどはうちの姫が失礼したのですよ!!』
「あ、戻って来た」
『申し訳ないのですが、今そこを開けるのが出来ないのですよ。使いの者を行かせますので今日はそれでお帰り頂けないでしょうか?ほんとご迷惑おおかけして申し訳ないのですよぉ』
「あ、はいお構いなく・・・」
俺はアーサーに視線を送るがアーサーも俺に視線を送るだけだった。
「キューイッ!!」
俺たちの上がって来た水面から急に音が聞こえた。
「イルカが・・・」
「二匹・・・」
使いの者ってまさかこれか?
「キュイ!」
イルカはまるで背ビレに捕まれと言っているかの如く背ビレをアピールしている。
「捕まれってことでいいんだよね」
「それしか考えらんねぇな」
「あの声、一体何者なんだろ?」
「とりあえず、足取りは分かったからそれでよしにするしかねぇな」
俺はイルカの背ビレに捕まった。
「だね・・・」
アーサーも捕まる。すると同時にイルカは泳ぎ出し一気に海底洞窟を抜けた。
「うお!」
そして見事に俺は船の上に着地させられていた。女どもが飲み物をこぼしながらポケーっと俺たちを見ていた。
「ピュイ!ピュイ!」
イルカはヒレで手を振りながら海の中へと潜っていった。
「何があったの?」
「さぁ・・・」