ヴォイド 死人の言葉
ヴォイド編、彼の物語は異世界を舞台とするSF及びアクション作品になります。
「紹介するわね、ここは私たちの異世界の基地。アナザーベース、異世界基地、そのまんまの意味よ。最初はこんな名前じゃなかったんだけど、小難しいからって単純にこう呼ぶようになったの」
俺はリザに連れられ、こいつらが根城にしているという基地に向かった。ここには窓がない、そしてやたらと入るのに厳重な検査をされた。
この異世界の環境というのは常人だと体に毒な物質が充満しているらしい。自力で抗体を作れるらしいが相当な精神力が必用なそうだ。
俺やリザはその抗体を持っているらしい。特に俺はこの世界に来た瞬間に抗体を持ったそうだ。自慢ではないが、今までの記録ではそのような人間はこれまでいなかったとの事だ。
「そう言えば私たちの組織の事を言ってなかったわね。私たちはUN.AWRO。国連 異世界研究機関と呼ばれている組織よ。アウロとみんな呼んでるわ」
アウロ、聞いたことのない組織だな。しかし、周りにある国連の旗とそれに似た別の旗、そしてこの場所、リザの言っている事は事実だと考えるのが手っ取り早い。それに俺は組織などどうでもいい事だ。俺のいる場所に敵味方は関係ない。俺は時の流れに身をまかせて戦うだけだ。
「ところで一つ聞きたい。お前らのボスはどんな奴だ?」
これだけは一番重要だ。流石の俺でも犬の糞以下の様な奴に従うつもりはない。でなければ無意味に死ぬだけだ。それだけはやりたくない。
「うちのボス?うーんと、顔立ちはイケメンね。それから・・・」
「顔は聞いてない。聞いたのは間違いだったな、百聞は一見に如かずだったか?直接会った方が良さそうだ」
「あー、彼今ここにはいないのよね。今現在だとここの最高責任者はこの私になるわ。ボスは外に行って数か月はきっと戻ってこないと思う」
上自らが動くのか、珍しいな。それにリザはここのボスをイケメンと呼んだ。それなりに若い奴か。まぁいいか、出会う機会があればいいとだけ考えておこう。
「そうか、それならば仕方ないな。では本題を聞かせてくれ、俺は誰と戦えばいいんだ?」
「そうね、じゃあさっそくだけど、この写真を見て」
俺はリザから数枚の写真を渡された。
「こいつらは・・・子供じゃないか」
そこには少し太ったメガネの男に、金髪の青年、おさげの少女が写っていた。
「そう、確かに子どもよ。だけどこの子たちの力は侮れないわ。現にあなたと同様に覚醒に至っているもの。特に子の女の子には注意して。名前は神和住 零羅。この子はこの世界の軍人を殺しはしなかったものの、かなり多くのけが人を出したのよ。あなたにはこの子たちを止めてほしいのよ」
「それは、殺せという命令なのか?それとも純粋に止めろという意味か?」
リザは少し口を濁したな。こいつらが只の子供ではないことは分かった。そしてこのアウロと敵対しているは理解できた。アウロにとってこいつらの存在が邪魔だという事だ。
「俺は別にどちらでも構わない。子供とは言え敵ならば殺す。仲間に引き入れたいのなら、それで手を打つことも出来る。どの選択肢を与えても、俺はただソレをこなす」
「ふふ、本当にあなたは面白いわ。どんなにとり繕った言葉を使っても無駄ね。この異世界の危険因子である彼らを殺してほしい。それが私たちの依頼よ」
「ふ、正直な奴は嫌いじゃないぜ」
俺は、ライフルを肩にかけ、外へと歩き出した。
「あ!案内はいらないの!?」
「要らない。自由に戦っていいんだろ?地図は持っている、それに情報は現地調達の方が確実だ」
「ふぅ、そう言う約束だったわね。目的が果たされればそれでいいわ。ただ、私たちの存在を知らせるようなことは止めてね」
「そんなヘマはしない。バイクだけは借りるぞ」
俺は外に出た。ここは地図上ではフロンティアと書かれている部分だ。この場所には建物や道路の表示はなく、山も川すら書かれていない部分だ。しかしここからかなり離れた場所、距離に換算して数万キロ先の部分からはこと細かく書かれている。この世界ではまだ地図が完成していないらしい。
この世界では航空機を飛ばすことが不可能で、それが原因で地図が完成できないそうだ。飛ばせない理由は聞かせてもらえなかったが。
話ではアダムスと呼ばれる場所にターゲットはいるらしいな。行くにはエイドと書いてある場所を抜けたその先だ。随分と広いな。ロシアを横断するほどの距離が必用なのか。
「あ、いたいた!!」
後ろから声をかけられた、リザか。
「何の用だ?」
「いや、今報告があってね。一部ハイパーループの修理が終わったらしいの」
「ハイパーループ?数年前に言われてた音速を超える新交通システムの事か?」
「そう、詳しいのね。そのハイパーループよ。こことアダムスの間を結んでたんだけど、例のあの子たちに破壊されちゃって、急ピッチで修理してたのよ」
「ハイパーループはまだ未完成の技術じゃなかったのか?いつの間に完成したんだ」
「あぁ、その事も言ってなかったわね。ここの世界の時間の流れは向こうと違って随分と遅いのよ。こっちの10年は向こうでは1年って言う具合なの。そのおかげで数年前の事をここでは数十年単位で研究できるの。おかげでちょっと前に完成したのよね」
時間の流れが違うか、どうりでここの施設は異常なほどに進化しているのか。
「一部という事はまだ完全には直って無いんだな」
「えぇ、でもエイドの真ん中より奥までは行けるわ。1時間くらいだけど」
アメリカ横断する距離を1時間でやるという事か。仕方ない、ここは言葉に甘えよう。
「リザ、それを使わせてもらおう」
俺は面倒な検査を再び抜けて、リザと共に地下に降りた、何やら重そうな扉がある。
「これがハイパーループよ。全体を見せられないのは残念だけど。じゃあいってらっしゃい、幸運をいのるわ」
「運が悪くても、任務はこなす」
俺は中に入った。内装は列車の客室と変わらない。座席が並んでいるだけだ。
扉がゆっくりと閉まる。俺は中を見るが誰かいる気配はない。少し足元が揺れた。動き出したみたいだな。だが揺れはその後全くと言っていい程感じない。しかも無人運転で運行しているみたいだな。
俺は席に座りただ時間を待った。
『あなたには夢がある』
少し目を瞑った瞬間だ。急に声が聞こえた。誰だ、俺がこれに乗り込んだ時には絶対に誰もいなかった。
俺は少し目を動かすと、反対側の座席に女の子がいた。奇妙な出で立ちの女の子。長い銀髪を後ろで二つに結んだ髪型、そこまではまだ普通だが。マフラーを巻いているにも関わらず、その下はビリビリに引き裂かれたようなタンクトップ。
左手は肘まであるような綿の手袋を着けているのに、右手は手首までの冷たそうなガントレット。靴下も右と左で長さが全く違う。非対称を体現したかのような子だ。
そしてそれ以上に気になったのは目だ。あれはまるで死人のような。
「・・・お前は、 ?」
俺が声をかけようとした瞬間、その子供は俺の目の前からいなくなっていた。
「今のは、なんだ?」
夢?可能性が高いな。いつの間にか眠ったのか?
「今は考えるのは止めよう。もうすぐ着く準備をするか」
厳重なドアが開き、俺はそこから出る。そこにいた人物に事を伝え、再びバイクに乗り込み外へと出た。