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坂東の風  作者: 青木 航
第四章 政争編

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第10話 安和の変 ⅰ

 前途揚々と見えた高明(たかあきら)、そして千晴(ちはる)の人生はあっと言う間に暗雲に包まれてしまった。藤原摂関家の存在を甘く見ていた結果に他ならない。

 古来、藤原氏は、他氏を陥れ蹴落とすことに寄って生き残り、権力を維持して来た一族である。歴史にも詳しい高明《たかあきら》が知らぬ訳は無い。

 菅原道真(すがわらのみちざね)が右大臣にまで登り詰めた途端、藤原氏の策謀に因って失脚し大宰府(だざいふ)に流されてからまだ七十年も経(た)っていないのだ。

 文章生(もんじょうしょう)上がりの道真と元皇族の自分とでは訳が違う。摂関家とて簡単には手が出せない筈と高を括(くく)っていた節(ふし)が有る。それだけでは無く、今の摂関家には忠平(ただひら)や基経(もとつね)のように一族に大きな影響力を持ち統率出来る者など居ないと思っていたことも油断のひとつの理由だ。

 しかし藤原氏とは、長屋王を初めとして皇族さえ、一族の利益の為には遠慮無く陥れて来た一族なのだ。高明《たかあきら》は、そのことを強く肝(きも)に命じて置くべきだった。知識有る者が、必ずしもそれを世渡りに生かせるとは限らない。人生体験から来る想いから導かれる強い意識に因って、知識は強力な武器に成り得る。しかし、それが無ければ、身を飾る単なる装飾としての存在でしか無いことも多いのだ。

 高明《たかあきら》は大した苦労も無く、余りに順調に出世して来ていた。本人にすればそれなりの苦労はして来たつもりだろうが、世間的に見れば苦労と言うほどのものでは無かった。ひと言で言うならば、それが高明《たかあきら》の甘さだった。高明《たかあきら》の甘さは、当然、千晴の身の上にも影を落とすこととなった。


 安和(あんな)二年(九百六十九年)三月中旬の或る日、祖真紀(そまき)が千方(ちかた)に気になることを告げた。

「検非違使(けびいし)に気になる動きが有ります。数日前、別当(べっとう)(長官)・藤原朝成(ふじわらのあさなり)が中納言・兼家を訪ねており、翌日には、佐(すけ)が別当の舘を訪ねております。それぞれ呼び付けられたのだと思いますが、私邸で話さなければならない何かが有るのではないでしょうか。そして、以前からではありますが、満仲(みつなか)が、伊尹(これまさ)邸、兼家邸に頻繁に出入りしております。それらを併せて考えて見ると、何か嫌な予感が致します」

「検非違使には、満季(みつすえ)がおる。確かに気になるな。検非違使庁と満仲の動きに、引き続き気を配ってくれ」

「畏(かしこ)まりました」

と返事し、祖真紀は消える。


 嫌な予感がした。満仲、満季兄弟の千方への攻撃は暫く無いが、そう簡単に諦めてしまうような連中ではない。高明《たかあきら》が摂関家の仕掛けた罠に嵌(は)まり、影響力を失ってしまった今、千方を狙う絶好の機会が来たと言える。まして、朝堂(ちょうどう)は摂関家に支配されており、満仲は、高明《たかあきら》を見限って、摂関家に急接近している。多少手荒なことをやっても、済まされる条件は整っているのだ。いざと言う時に備えて置かなければならない。    

 朝鳥のことが気になった。豪気な男ではあるが何しろ歳だ。自分では変わらないと思っているのだろうが、昔のようには体が動くまい。もし、満仲なり検非違使なりに踏み込まれた時には、命を失うか囚われてしまう可能性が大きい。朝鳥を、そんな危険な目に会わせたくは無かった。千方は、下野(しもつけ)の兄・千常(ちつね)宛の書状を認(したた)めた。朝鳥を坂東に帰すので、暫(しば)らくそちらに置いて頂きたいと言う内容である。


 朝鳥を呼んだ。

「何かご用で御座いますか」

「都住まいはどうじゃ。もう何年も坂東に帰っておらんから、坂東が懐かしいのではないか?」

と探りを入れてみる。

「何を仰りたいのですかな」

 朝鳥が、千方をじっと見て、そう言った。

「下野(しもつけ)の兄上に文(ふみ)を届けて欲しい。若い者に言い付けようかと思ったのだが、朝鳥が坂東を懐かしんでいるのではないかと、ふと思ってのう。何、急ぐ使いでは無い。のんびり旅をして、暫く坂東の風にでも当たって参るが良い」

「今、お側を離れる訳には参りません。何かと騒がしい時期で御座いますからな」

 案の定、そう簡単には承知しそうも無い。

「祖真紀がおる。心配致すな。久し振りに五郎兄上にも会いたいであろう」

と水を向けてみると、

「どうしても行かせたいようで御座いますな。分かりました。参りましょう、正直、都も退屈になってきておりましたので」

 こちらの思惑を読んだ上で、意外と簡単に承知してくれた。足手まといにはなりたくないと言う自覚が有るのかも知れない。

「済まぬ。行ってくれるか」

 総確認すると、朝鳥は黙って頷いた。


 朝鳥(あさどり)が坂東に向けて旅立ち三日ほど経(た)った朝のことである。千方が登庁前の身支度をしていると、祖真紀(そまき)が珍しく慌てた様子で飛び込んで来た。見知らぬ男を一人伴っている。

「これなるは、甲賀(こうか)三郎様の手の者に御座います。緊急の報せを齎(もたら)してくれました。お逃げ下さい。検非違使庁(けびいしちょう)の動きが慌ただしく、不穏な動きが有るとのことです。手前が確認したところ、舘の近くにも見張りが付いて居ります。猶予はなりません。裏から一刻も早く」 

と切羽詰まった様子を見せる。

「分かった、ひとまず甲賀まで落ちることにする」

と言って、千方は手早く身支度を終える。

「鷹丸、先導せよ。鳶丸は後方を護れ。夜叉丸、秋天丸、犬丸は六郎様から離れるな」

 祖真紀が指示を出し、

「吾は潜んで様子を探ってから後を追います」

と千方に告げた。

「では、先に参ります」

と言い残し、鷹丸は裏から出て行った。

「参るぞ!」 

 千方らが続く。

 烏丸小路(からすまこうじ)を下り、姉小路(あねこうじ)を東に入る。更に、富小路(とみこうじ)を下って三条大路(さんじょうおおじ)に出て素早く三条大橋を渡った。辻々では、先行する鷹丸が四方の安全を確認し合図を送る。幸い、まだ封鎖はされていなかった。


 瀬田に差し掛かった頃、祖真紀(そまき)が追い着いて合流した。

「ご苦労であった。様子はどうであった」

 千方が尋ねる。

「やはり、あのすぐ後に、お舘(やかた)が検非違使に襲われました。甲賀兼家(こうかかねいえ)様の手の者からの報せが無ければ、危ないところでした。裳(も)抜けの空(から)と知って、奴らは、悔しがりながら引き揚げて行きましたが、満仲、満季の姿はその中に有りませんでした。洛中全体の警備が強化されており、何やら、六郎様のみを襲った訳では無いようです。念の為、千晴(ちはる)様のご様子を見て来ようと思ったのですが、警備が見る見る増強されて行き、蟻の這い出る隙間も無くなりそうだったので、右京までは行けず、已(や)む無く京を脱出しました」

 一つ頷いて、千方が

「遅れていれば、危ないところであったな。兄上には、昨日、用心されるようそれと無くお伝えして置いたのだが、心配ではあるな」


 千方の心配は当たっていた。この日、安和(あんな)二年(九百六十九年)三月二十五日の早朝、満季(みつすえ)率いる検非違使の一団が千晴の舘に突入していたのだ。

 変わらず高明邸(たかあきらてい)に通っていた千晴が、出掛ける支度を終え白湯(さゆ)を飲んでいると、郎等(ろうとう)の一人が転げるように入って来た。

「大変です! け、検非違使に囲まれています」

と叫び、表を指差している。

「何? どう言うことじゃ!」

 そう叫んで千晴が質(ただ)すが、郎等(ろうとう)は

「分かりません」 

と答える事しか出来ない。千晴は、すぐさま太刀を手にして玄関まで走った。門から玄関に掛けて、郎等達が太刀の柄(つか)に手を掛けて、皆緊張した表情で身構えている。そんな中、満季が手下を従えて入って来る。

「皆の者、手出しはならんぞ。落ち着け!」

 千晴がそう声を上げた。

「藤原千晴(ふじわらのちはる)。謀叛(むほん)の疑い有り。吟味(ぎんみ)致すゆえ手向かいせず、同道致せ!」

 満季がそう声を張り上げた。 

「謀叛(むほん)?」

 千晴はそう言ったが、連光寺での経緯を想起しはっと成った。

『まさかとは思うが、あの中に裏切り者がおり、嵌(は)められたのではないか』と思った。周りは抜かり無く警備していたのだから、そうとしか考えられなかった。縁の下に潜んだ密偵に聞かれていたなど想像もしなかったのだ。

「誤解だ。分かった。釈明の為、同道致そう」

 そう言って膝を突き、太刀を目の前に置いた。その姿を見て、郎等達も太刀(たち)の柄(つか)から手を離し、膝を突く。

「捕らえよ!」

 満季が声を上げると、下役の一人が千晴を荒々しく縛り上げ、後の者達が土足のまま舘に侵入して行く。やがて、久頼(ひさより)も後ろ手に縛り上げられて、引っ立てられて来た。


 その日、参内(さんだい)前の高明(たかあきら)。

「千晴がまだ来ておりません」

 家司(けいし)がそう報告したが、

「ならば他の者に代えよ」

 高明《たかあきら》は無関心にそう答えただけだった。もしこれが、立太子(りったいし)以前であったなら

『何? 如何(いかが)したのであろう。他の者を待機させ、千晴の館まで誰(たれ)ぞ走らせよ。遅れるような者ではない。何ぞ有ったに違いない』

 多分、そんな風に命じたに違いない。だが、あの日以来、高明《たかあきら》はまるで別人に成ってしまっている。長年待ち望んでいた帝親政(みかどしんせい)の許(もと)、高明《たかあきら》が力を振るう日は目前に迫っていた筈だった。高明《たかあきら》は、充実感と高揚感に満たされた毎日を送っていた。

 帝(みかど)の急な崩御(ほうぎょ)は大きな衝撃ではあったが、高明《たかあきら》の気力を失せさせるようなことは無かった。それどころか、自分が頑張り何としても亡き村上帝の悲願であった帝親政を実現させると、強く心に誓いもしたのだ。

 今上(きんじょう)帝に親政(しんせい)は望むべくも無いが、摂関家(せっかんけ)と折り合いを付け、何とか為平親王(ためひらしんのう)に繋ぐ。そして為平親王が即位するその日こそが、大願成就の日であることを疑わなかった。その頃には、さすがの実頼も台閣(だいかく)から姿を消していることだろう。それ迄必死に、そして慎重にやらなければならない。そう覚悟していた。

 為平親王(ためひらしんのう)の立太子(りったいし)に付いては、夢にも疑っていなかった。それが、覆(くつがえ)されたのだ。それも、摂関家の中では比較的御(ぎよ)し易(やす)いと思っていた実頼(さねより)に欺かれてのことだ。

 村上帝が倒れた際、『憲平(のりひら)の後は守平(もりひら)を』と言い残したと実頼が披露した時、『そんな筈は無い!』と叫びそうになった。だが同時に、叫んでみても覆せないことだと悟った。実頼に欺かれたことが信じられなかった。なぜ、摂関家が纏まってしまったのか分からなかった。何も出来ない立場に追い込まれてしまった己の無力を感じ、言葉ひとつ出なかった。

 突然池の底に大きな穴が開き、全ての水があっと言う間に吸い込まれて行くように、高明《たかあきら》の気力は失せて行った。それからの高明《たかあきら》は、名ばかりの存在感の無い左大臣に成り果ててしまった。摂関家主導で望まぬ方向に議論が進んで行っても、阻止しようとする気力さえ湧いて来ない。根回しをしようと言う気も無い。ただ、流れのままに採決し、帝(みかど)の補佐と言うより代理である関白・太政大臣・実頼に奏上するだけである。


 千晴の身に起きた異変を知らぬまま参内(さんだい)した高明《たかあきら》は、実頼に呼ばれた。

「今朝(こんちょう)藤原千晴を謀叛を企(たくら)んだ者達の一味として捕縛し、取り調べ中じゃ。左大臣殿には関わり無きことと思うが、従者(ずさ)ゆえ一応お報せして置く」

 実頼は無表情にそう言った。高明《たかあきら》は体中の血が足許(あしもと)目掛けて落下して行くのを感じた。為平親王(ためひらしんのう)の立太子を覆されただけでも、高明《たかあきら》に取っては決定的な敗北であった。その衝撃の中にあって、妙な話だが、諦めの後の安心感のようなものを、高明《たかあきら》は持ってしまっていた。『終わった!』と言う諦めである。ところが、まだ終わってはいなかったのだ。摂関家は、水に落ちた犬同然の高明《たかあきら》を更に叩いて来た。 

『まだ終わっていなかったのか。これ以上何を仕掛けて来るつもりか』

 そう考えながら、高明《たかあきら》は倒れそうになるのを必死で堪(こら)えていた。


 甲賀(こうか)に辿り着き、望月兼家(もちづきかねいえ)から千方が最初に伝えられたのは、千晴が満季に捕縛されたと言うことであった。

「麿のせいだ。奴等が狙っていたのは麿なのです。己だけ逃げ出した為に、兄上に災いが及んだのです」

 深い後悔の念を表し、兼家に千方が心情を吐露した。

「違います。千方殿。千晴殿が捕らえられたのは謀叛の疑いで御座る。他に、中務少輔(なかつかさしょうゆう)・橘繁延(たちばなのしげのぶ)と蓮光寺の住職・蓮茂(れんも)と言う者も捕らえられております」

 手の者から入っている情報を兼家が千方にそう伝えた。

「兄上が謀叛に加担するなど考えられません」

 兼家の目を見て、千方がそう反論する。

「訴え出たのは、源満仲と前武蔵介(さきのむさしのすけ)・藤原善時(ふじわらのよしとき)と言う者です。何を以て謀叛の証(あかし)と申し立てたかと言う根拠までは分かりません」

『やはり、満仲が絡んでいたのか』千方はそう思った。

「満仲が絡んでいるとすれば、やはり麿が狙いだ。祖真紀(そまき)、都に戻り、兄上を救出するぞ!」

 千方は今にも動き出そうとしている。

「お気持ちは察するが、それは無理と言うものです」 

 望月兼家がそう制した。

「麿ひとり、おめおめと坂東には戻れません」

と千方は言い張った。

「助けられぬのに、行ってどうなる。馬鹿な真似はおやめなされ」

 兼家はそう言い切った。

「六郎様、望月様の仰る通り。一旦坂東に戻って考えましょう」

 祖真紀も、そう嗜(たしな)める。

『饅頭(まんじゅう)め。このままでは済まさぬ』

 千方は、血の滲(にじ)むほど唇を噛み締めていた。


 話は、満季が満仲を尋ね、蓮光寺での千晴らの動向を伝えた日の翌日に戻る。

 満仲は中納言・藤原兼家(ふじわらのかねいえ)の許(もと)を訪ねている。

「面白い話を持って参りました」

 階(きざはし)の上に立っている兼家に、地に膝を突いた満仲が話し掛ける。

「何事か?」

と兼家が応じる。

「余り大きな声では申せぬ話で御座います」

「ふん」

 兼家は扇で首をひとつ叩き、左右を見回してから、階(きざはし)を数段降りた。そして、扇を半開きにして耳に当て、満仲の方に少し体を傾ける。満仲が立ち上がり、中腰に成って扇に口を寄せる。

「恐れ入ります。実は、不穏(ふおん)な話を耳に致しまして」 

「先を申せ」

「はい、葛野(かどの)に有る蓮光寺と言う小さな寺で、謀叛の談合が行われました」

 そう告げた。

「何! 真(まこと)か」

 謀叛と聞いて、兼家に緊張が走る。

「はい。そう言う話をしたことは確かで御座います。但し、そういう話をしていたと言う事以外何の裏付けも御座いません。ただの不埒(ふらち)な暴言としてしまえば、それ迄のことで御座います」 

 兼家は扇を外し、体を起こした。

「下らん。わざわざ麿に告げに来ることか。検非違使にでも訴え出よ」

 何事かと思えば、何を下らん話を思わせぶりにしているのかと、些(いささ)か腹を立てていた。

「為平親王(ためひらしんのう)様を擁して東国に逃れ、朝廷に反旗を翻(ひるがえ)すと言う内容で御座いますが」

 怯(ひる)まず満仲は、尚もそう言い募る。

「怪(け)しからん奴輩(やつばら)。戯言(たわごと)で済ます訳には行かぬな。厳しく取り調べるよう麿からも検非違使庁に申し入れておこう」

 その程度のことでしか無いと兼家は思っている。

「それだけでは、面白くも御座いませんでしょう」

 その言い方が、兼家の癇(かん)に障(さわ)った。

「何? 麿を愚弄(ぐろう)しておるのか。許さぬぞ」

 キッとなって、兼家は満仲を見る。

「飛んでも無い。摂関家のお役に立てるのではないかと思うてのことで御座います」

 落ち着いて自信たっぷりの満仲の言い方に、兼家は少し関心を止めた。

「何を企んでおる。首謀者は誰だ」

「中務少輔(なかつかさしょうゆう)・橘繁延(たちばなのしげのぶ)と言う者に御座います」

「不埒(ふらち)な言動に依り、投獄の上、官位剥奪、官職追放と言った処か。従五位上(じゅごいのじょう)辺りでは、為平親王(ためひらしんのう)に近付くことも出来まいから、所詮、実態の無い話であろう」

 満仲の目が光を帯びた。

「後ろにそれなりのお方が居れば話は別で御座いましょう」

 そう言ってニヤリと笑った。

「居るのか?」

と兼家が反応する。

「その場に、面白い男が同席しておりました」

「誰(たれ)か?」

と兼家が満仲を見据える。

「藤原千晴(ふじわらのちはる)と言う者に御座います」

 満仲は、兼家が興味を持つ事を確信しているようだ。

「そのほうの口から聞いたことの有る名前。確か、あのお方の」

 その名に思い当たった。

「はい。あのお方の従者(ずさ)に御座います。しかも、一番のお気に入り。面白くは御座いませんか」

と言いながら、意味有りげに満仲は兼家を見上げる。

「面白い。何か証(あかし)が欲しいのう」

 兼家も満仲の思惑を読み切った。

「調べても、何も出て参りますまい。元々その程度の話なのですから。しかし、そんなものは必要無いのでは御座いませんか。野の草でも、上手く煮炊きすれば美味となることも御座いましょう」

 満仲は思わせ振りに言った。

「なるほど。分かった。兄上にお話ししてみよう」

 階(きさはし)を上りながら、兼家が言う。

「きっと、面白い絵図を描いて頂けるものと思います」

 ニンマリとした表情を浮かべた後、満仲は深く頭を下げ、兼家の前を辞した。

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