第4話 危うき勝利と虚しさと ⅲ
翌朝、古能代達が包囲し狐支紀が立て籠もる山に武装して向かうことになった。都留儀は十人ほどの郎等を付けてくれた。
狐支紀が立て籠もる山を見渡せる峠を越えて山を下り、川を越えてなだらかな坂道を上っている時のことだった。
「今、何か光りませんでしたか?」
夜叉丸がそう言った。
「うん? どこじゃ?」
朝鳥が夜叉丸の方を振り返って尋ねた。忠頼と古能代達が陣を敷いている場所の手前右手の山裾の方を指差して、
「あの辺りです」
と夜叉丸が答える。
千方、朝鳥だけで無く、都留儀の郎等達もその方向を凝視した。
「確かに光った」
郎等の一人が言った。陽の光を浴びて何かが時々光っているのだ。それも、ひとつでは無く、しかも動いているように見える。
「人を入れて何かをさせているのかな?」
と千方が呟く。
「このような時には、まず、敵ではないかと疑ってみるものです」
と朝鳥が言った。
「しかし、狐支紀は出て来れぬ筈では……」
千方が確かめようとして尋ねた。
「決め付けてはなりませぬ。それに、外から援軍が来るということも有ります。疑って見て、それで何事も無ければ結構。逆は取り返しの付かぬことになります」
朝鳥の目が厳しいものに変わっている。
「朝鳥殿の言われる通りです。我等、先に参りますゆえ、確認出来るまで皆様はここでお待ち下され」
郎等達を率いる男は、そう言うなり馬を駆って駆け出していた。それに郎等達が続いて駆け出して行く。
「もしもの時、少しでも多い方が良い。我等も参ろうぞ」
と千方が意欲を見せて言った。
「恐ろしくは御座いませんか?」
朝鳥が千方の目を見て尋ねる。
「恐ろしく無いと言えば嘘になる。だが、いずれは戦わなければならぬ時が来よう。今、怖気付けば、次の時にはもっと恐ろしくなろう。臆病者になるのは真っ平だ」
そう言い張る千方に、朝鳥は暫し迷っていた。そこに、
「六郎様は我等が必ずお守りします」
と夜叉丸が口を挟んだ。
「夜叉丸。そんなことを考えていては死ぬぞ。汝達も初めてのことだ。ただひたすら敵を倒すことだけを考えよ。そうしなければ命は保てぬ」
朝鳥がはやる夜叉丸を制する。
「朝鳥の申す通りじゃ。夜叉丸、秋天丸、麿に構うな。己のせいで郎等を失えば一生、悔いることになる」
兄・千常を庇って討ち死にした、朝鳥の三男・三郎是光のことが、千方の脳裏を一瞬過った。
「郎等とは主を護る者ではないのですか?」
秋天丸が不満げに言った。
「一人前のことを申すな。汝達はまだ半人前にも成っておらんのだ。一人前になって六郎様をお護りすることが出来るようになる為にも、命を無駄にするなと申しておるのじゃ。六郎様に万一のことが有った時は、麿ひとりがあの世までお供する。良いな!」
二人とも不満げな表情を浮かべている。
「この度は朝鳥の申すように致せ。我等はまだ、戦いというものを知らぬのだ」
千方も朝鳥の心配を察して二人を制した。
「さ、いつまでぐずぐずして居ては遅れを取りまするぞ。覚悟が出来ましたら参りましょう。尤も敵かどうかまだ分りませんが」
腹を決めた朝鳥が声を掛ける。
「うん! 参る。続け!」
千方が先頭を切って駆け出した。
やはり敵であった。暫く走ると、先を行く都留儀の郎等達に向かって矢が射掛けられて来て、木立の中から蝦夷の風体をした一団が飛びだして来るのが見えた。狐支紀の部下達であろうか? 大和化するのを嫌って、昔ながらの習慣を守っているものと見える。
「六郎様!」
走りながら朝鳥が叫んだ。
「弓を射るのは夜叉丸と秋天丸に任せて、矢が飛んで来たら、馬の首に体を伏せて避けるのです。射ようなどとしたら、却って的にされるだけですぞ」
「分かった。まだ、下手糞だからな!」
千方もそう声を上げる。
「お分かりのようだ。…… それと、下野の郷で見た競馬の後の余興を思い出されませ! あれが蝦夷の戦い方で御座います」
下野の隠れ郷に連れて行かれた日の翌日に見た催しの光景が、千方の脳裏に鮮やかに甦った。
前を走る馬に追いついて騎手の後ろに乗り移ったり、駆けながら騎手が後ろ向きに乗り換えたり、地面に突き刺した太刀を、殆ど逆さまになりながら拾い上げて、すぐさま体勢を建て直しそのまま走って行ったり。
いつかはあのように乗り熟してみたいものだと思った気持ちを思い出した。
自分の乗馬技術は、まだそれには遠く及ばない。『生き残れるだろうか?』という不安が心を過った。
その気持ちを振り払うかのように、
「うお~っ!」
と千方は大声で叫んだ。その声に気付いて、既に接近戦に入って都留儀の郎等達と切り結んでいた敵のうち、数騎がこちらに方向を変えて駆け寄って来た。
前を駆ける二騎が手綱から手を放し、駆けながら射て来た。千方は咄嗟に馬の首に顔を伏せた。ぴゅっという矢が風を切る音を聞いた。しかし、千方が顔を上げた時、射掛けて来た二人は共に落馬していた。夜叉丸と秋天丸が見事に射落としていたのだ。馬だけがそのまま少し走り、すぐに速度を落とし脇に逸れて行った。
ほっとする間も無く、五~六騎の敵が蕨手刀を振り上げて、千方らに打ち掛かって来た。そのうちの一人と対した時、千方は振り上げた蕨手刀に一瞬気を取られた。ところが敵は振り上げた手を大きく回し、馬の横に身を乗り出して、体制を低くして、千方の足を目掛けて切り付けて来たのだ。
ガチンと脛当てに刃が当たった。少しずれていれば、脛当ての繋ぎ目を切り裂かれていただろう。幸運ではあったが、叩かれた衝撃で千方の足が鐙から外れ不安定になった。鐙に足を乗せようと、そちらに気を取られた瞬間、何かがぶつかって来て、千方は落馬した。素早く馬を返した敵が千方に跳び掛り、一緒に落馬したのだ。ド~ンと背中を打って、一瞬息が止まったのと、敵が自分に圧し掛かって居ると気付いたのはほぼ同時だった。
敵は馬乗りになって、左手で千方の肩を地に押し付け、右手で逆手に持った蕨手刀を振り上げて、千方の喉を突こうとしていた。
顔がはっきりと見える。四十年配の鬚面の男だ。『目が小さいな』と凡そこの場にそぐわない印象を千方は持った。相手の右足の内側に千方の手が入っていた。左手で敵の膝の裏を思い切り押し上げると同時に、千方は、足と頭を支点にして己の腹を思い切り突き上げ体を捻った。敵はバランスを失って前に突んのめったが、一回転して向き直った。千方も跳ね上げた勢いを借って起き上がっている。
睨み合いとなった。相手の動きを注視しながら、互いにゆっくりと動く。重い鎧を着ている分、打ち合いになれば、千方の方が、動きが鈍くなる。しかし、一旦、刃が相手を捕えれば、ダメージは比較にならないくらい敵の方が大きくなる。軽武装の敵の体の方が、剥き出しになっている部分が圧倒的に多いからだ。
『相討ちに持ち込めれば』と千方は思った。落馬したこともあり、息が上がっている。肩で息をしながら、千方は、父・秀郷から貰った毛抜型太刀を構えたままゆっくりと立ち上がった。それに連れて敵もゆっくりと立ち上がる。腰を落とし、前屈みに構えている。
既に一人を倒した朝鳥が近寄って来た。それに気付いた千方が一瞬相手から視線を外した瞬間、敵は襲い掛かって来た。千方の喉元を狙って突き上げて来たのだ。はっとして千方も太刀を振るった。太刀が長い分、千方の方が有利だった。敵は千方の太刀筋を外そうと身を躱したが、避け切れず肩を斬られた。血が飛び散る。この傷自体は軽傷だったが、次の瞬間、千方が飛び込んで袈裟掛けに斬り倒していた。
「わ~っ!」
という声が上がった。包囲軍が騒ぎに気付いて駆け付けて来たのだ。
怯んだ敵の一人を夜叉丸が斬り落としていた。逃げ出した敵に向かって秋天丸が矢を放ち、二人射落とした。
「肝を冷やしましたぞ。転げ落ちるのを横目で見た時には、お連れした己が愚かだったと我が身を責めました。こちらも命の遣り取りの最中だったので、どうすることも出来ませんでしたが」
苦笑いを浮かべながら朝鳥が言った。
「朝鳥らしく無いことを申すのう。戦となれば、命など最初から有って無いようなものと違うのか?」
と千方が朝鳥を詰める。
「…… と仰りながら、実は、後になって体中に震えが来ているのでは御座いませんかな?」
ニヤリと笑った朝鳥にそう返された。
「何を申すか! 震えてなどおらぬわ!」
と反論したが、落馬したことによる体中の痛みを今になって感じると同時に、体が小刻みに震えているのは確かだった。
少し時を戻そう。
後方の騒ぎに気付いて、一隊を率いてそちらに向かった古能代。駆け出して間も無く、間もなく蝦夷装束の三~四十人ほどの者達が郎等姿の少数の者達を襲っている光景が遠目に入って来た。
「声を上げろ!」
そう言った古能代が、
「うお~!」
と声を上げると、従っている者達も一斉に声を上げた。少しでも早くこちらに気付かせて、味方には勇気を、敵には恐怖心を持たせる為だ。
気付いた敵はすぐに逃走に掛る。しかし、それは逃げるというより、包囲軍を狐支紀の立て籠もる山から引き離す為だろう。『いったい何者なのだろうか?』と古能代は思った。
「能代様。忝い」
近付いた時、舘から来た郎等を束ねる者が言った。
「いや、背後の敵に気付かせてくれて礼を申す」
続けて古能代は、三の隊の頭の方を振り返り、「そのまま追ってくれ!」と指示した。三の隊は敵を追って駆け出して行く。
「三人やられました。他に傷を負った者もおるようです」
郎等が古能代にそう報告する。
「忠頼殿に報告されよ。吾は六郎様の許に参る」
「申し訳無い。お待ち頂くようお伝えしたのですが……」
古能代は少し離れた所で戦っていた千方一行の許に向かった。朝鳥の他、夜叉丸、秋天丸も千方の側に集まって来ていた。
「おお、古能代、手間を掛けて済まぬのう」
と朝鳥が馬を寄せて来た。
「六郎様にお怪我は?」
「いや、大事無い」
そう言って千方は乗馬しようとしたが、体が痛むのか少しもたついた。
「取り敢えず御無事のようじゃ」
乗馬にもたついた千方の方を横目で見てそう言った後、朝鳥はふっと溜息を突いた。
「夜叉丸! その傷は?」
夜叉丸の左腕から血が出ているのを見て、古能代が鋭く言った。
「いえ、大したことは有りません。ちょっと矢が掠っただけです」
夜叉丸は笑って答える。
「馬からすぐ降りろ!」
そう怒鳴って自らも馬から飛び降りた古能代が夜叉丸に駆け寄り、馬から引き摺り降ろした。
「何するんじゃ!」
夜叉丸は面喰って少し抵抗したが、古能代は構わず抑え付け、自分の袖を蕨手刀で裂き、夜叉丸の左腕の肩近くをきつく縛った。そして、傷口に口を付け吸っては、吸い出した血を、何度も唾と一緒に吐き捨てる。
「毒か?」
朝鳥が言った。
「奴等は鏃に毒を塗っています」
古能代は、革袋に入った水を掛けて、夜叉丸の傷口を洗い、自分の口も漱いだ。
その時、狐支紀が立て籠もり、忠頼が包囲する山の方が騒がしくなった。
千方らに同行して来た都留儀の郎等達と敵の戦いが始まる少し前のことである。忠頼は士気を高める為、兵達の間を廻っていた。
「良いか! 気を緩めるでないぞ。敵が出て来ぬとこちらが思い込んだ時こそが敵に取っての好機となる。もし吾が狐支紀であったなら、それを見逃さぬ。油断している敵の不意を突き混乱させれば勝機も見出せるものだ。例えそれが出来なくとも逃げる機会を得られる。それが戦術というものだ。戦は数のみで勝敗が決まるものでは無い。くれぐれも油断するな。分ったか?」
一団にそう声を掛けては、また別の一団にそう繰り返し、忠頼は兵達の間を忙しく動き廻っている。兵達はいずれも『はっ!』と力強く返事を返すが、心の奥底までそう簡単に切り替わるものでは無い。
「忠頼様の言われたこと、肝に命じ、気を引き締めろ!」
と末端の指揮を執る者も繰り返すが、忠頼の姿が遠退いた時、兵の一人がこう言った。
「出入口はひとつしか無いのですから、出て来れば間違い無く、栗の毬のようになりましょう」
「ま、そうだな。しかし、他から出て来ぬとも限らぬ。…… とは言っても、要所要所に見張りを置いて、それなりの人数を配置してあるから、堤を越えて舟で堀を渡ろうとしても、渡る前に討ち取れる。実際に狐支紀が討って出て来ることを心配されていると言うより、忠頼様としては、我等の気が緩むのを案じておられるだけだ。気の入った返事をして、我等の気が緩んでおらぬことをお見せすれば良い」
上の者からして真剣さは無い。
「そういうことですな。それにしても、狐支紀の奴、破れかぶれになって討って出て来てくれぬものかな。そうすれば、栗の毬にして、さっさと引き揚げられるのにな」
そう別の男がぼやく。
「狐支紀もそこまで愚かではないわ」
「それなら、我等が一旦引き揚げた振りをして奴等を誘い出し、出て来た処を襲うとか、何か策をお考えにならぬのかのう?」
一人がそう言った。
「こら、汝は忠頼様に策が無いと申しておるのか!」
末端で指揮を執る者は、流石に忠頼批判とも取れる発言には目くじらを立てた。
「いえ、飛んでもねえ。どうかご内聞に……」
言った者は慌てて詫びる。
「汝が狐支紀なら、我等が引き揚げたという報せを受けて、疑いもせずのこのこと出て来るか?」
「いえ、出て来ぬでしょう。放って置ける訳もありませんから…… まずは罠と思うでしょう」
「所詮、汝達の考えはその程度のものじゃ。頭は使わんで良いから気を入れろ!」
「へい! 分りました」
結局、話はその辺で落ち着いてしまう。どうすれば忠頼の気分を害さないで済むかと言う事に神経を使ってはいるが、緊張感を本気で維持しようと思っている者など居ないのだ。
しかし、古能代ひとりは考えていた。『狐支紀は裏切った村を襲った。動機は恨みだと言う。恨みであれば、村を焼き尽くすとか村長を徹底的に探し出して殺そうとする筈だ。それなのに、ひと当たり荒らし回った後、さっと引き揚げている。恨みから襲ったにしてはあっさりし過ぎては居まいか? もちろん、安倍の兵が出張って来れば数的に敵わないから、本隊が到着する前に引き揚げたと言うのは極めて理に適っている。そして、一直線にこの山に逃げ込んだ。包囲されることは分っていた筈だ。そして、一旦包囲されれば、安倍が途中で諦めて引き揚げることは考えられない。外から援軍が来ぬ限り、いずれは捕えられるか殺される。それとも、冬まで持ち堪えれば完全包囲は難しくなると踏んで、そこで勝負を掛けるつもりなのだろうか? いや、ひょっとすると、始めから安倍を誘い出す為にあの村を襲ったのではないか? そう考えれば、恨みにしては、余りにあっさりと引き揚げたことの説明は付く。
しかし、この山に逃げ込んだ後、どうしようと言うのか? 逃げ込んだのは五十人ほどだが、中に更にどれくらいの兵が居るのか?それは忠頼に聞いてみなければならないが、余りに多ければ食糧が持たない。とすると、他に策がなければならない筈だ。外からの援軍? それなら、もう来ていなければおかしい。或いは、来る筈の援軍が来なかったのか? とすれば、計算が狂った狐支紀は、今相当に焦っている筈だ。出て来るのか来ないのか? やはり、只いたずらに籠っているだけと考えるのは間違いだろう。何か有るに違いない』
そう考えた。
「いかがで御座るか?」
戻って来た忠頼が古能代に聞いた。
「いや、特に動きは無い」
古能代はそう答えた。
「兵達に気合を入れて参りましたが、長引けば気の緩みを抑えることは難しくなりましょう」
そう言って忠頼は唇を噛んだ。
「中にはどれ程の兵がおりますかな?」
と古能代が尋ねる。
「二百まではおりますまい。何か考えでもお有りか? 義兄上」
「考えが少し甘かったかも知れぬ」
そう言って古能代は、少し顔を歪めた。
「一度、無理攻めを仕掛けてみてはと思っておった」
と続ける。
「無理攻め?」
忠頼が古能代の目を見る。
「と言っても様子を見るだけ…… 木を切って、丸太を組んで、筏を作り、堀を渡りましょう。当然、敵は堤の上から射掛けて来るでしょう。こちらも作業を進める者達の両側に射手を配して応戦する。それで、有る程度、敵の勢力を計れる。…… ただ、どうしても上から射る方が有利。ある程度の犠牲を覚悟しなければなりません。宜しいか?」
と忠頼の反応を見る。
「どうせやるなら、様子を見るなどと言わず、そのまま押し切りましょう。犠牲は仕方が無い。それよりも、このままぐずぐずしていたら、安倍に反感を持つ者達に侮られる。その方が恐い」
と忠頼は積極策を提案した。
「ふ~ん」
と言って考え込むように古能代が腕組みをする。
「渡ることは出来ても、堤を登ろうとすれば、敵は、岩や丸太を落として来るのは目に見えている。犠牲が大き過ぎるのでは?」
一か八かの作戦には、古能代は慎重である。
「ならば、櫓を組みましょう。堤よりも高い櫓を組んで、堤の上に居る敵を片っ端から射殺してしまえば、こちらの被害は少なくなります。櫓は森の中で組んで、運んで来て一気に建てるのが宜しいかと」
忠頼は一気に決着を着けたいと思っている。
「忠頼殿がその覚悟なら、一気に決着を着けますか。しかし、大仕事になりますぞ。 …… で作業に投入する人数はどれほど必要か? それと、作業が終わらぬうちに狐支紀が討って出て来た場合の手配と手順も決めて置かねばなるまい」
「いかにも。…… では……」
と、その時、後方の見張りに付いていた郎等の一人が、馬を飛ばして駆けこんで来た。
郎等はそのまま二人の身近まで乗馬のまま走り込んで来るので、兵達は慌てて道を避ける。手綱を思い切り引き絞った為、馬は前足立ちになるが、郎等は振り落とされもせず飛び降りて、素早く片膝と右の拳を地に突いた。周りにいた兵の一人が馬を抑える。
「申し上げます。後方の山裾の辺りで争いが起きております。その装束から判断する限り、遠目では、お舘から来た者達を狐支紀の部下が襲っているように思えます」
「なに!」
古能代は、襲われているのが千方達だと咄嗟に判断した。
「忠頼殿、吾が参る。五十ほど連れて行く。事情は分らぬが、騒ぎに合わせて狐支紀が討って出て来る可能性が高い。早急に備えられよ」
「心得ております。こちらのことはお任せあれ。三の隊。義兄上に従え!」
忠頼は素早く古能代に従わせる隊を決める。
三の隊を預かる郎等は「はっ」と返事して素早く隊列を整えた。




