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ダブルフェイス ―壊れた世界樹と虚構の天蓋―  作者: あらまき


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30/30

30-【tears of Alleyne】


 アレインがグリムに遺した禁忌の術式は、二つ。


 そのうち一つは、魂を止める魔法。


 一定時間己が時間を止め、世界から隔絶されるという禁術である。


 禁術と言っても、危険なのは術者のみ。安全面を考慮しての禁忌に過ぎない。


 仰々しい内容なのに、使い道はほとんどない。

 魔力の燃費も最悪で、術式は無意味に複雑。

 挙句術の失敗はそのまま死に直結する。


 ノーリスクハイリターンのゴミ魔法。

 既存の魔法の中でも使えない呪文トップスリーに入る。


 けれど、アレインは今のグリムにこそ必要なものだと考えた。


 ほんの十数秒、魂を止める。

 それは仮死状態に等しい。


 だから――。


 グリムは胸に手を置き、術式を行使する。

 魔法が使えないグリムであっても、魂に魔力を流すだけなのだから問題ない。

 道具を使うのと大差なかった。


 発動したその瞬間――グリムはこの世界より、喪失する。


 普通の人なら、ほんの短い間世界から消えるだけ。


 けれど死を起点にして巻き戻るグリムの場合は、疑似的な死という意味を持つ。


 つまるところ、これはグリムが手にした、苦しまず次の周回に移れる手段。


 死に恐怖することなく、魂の摩耗も恐れることなく。


 ただそれだけの、慈愛に満ちた魔法だった。




 そうしてグリムは、いつものベッドで目を覚ます。

 あの日、あの時のように。


 目のまえに、アレインが見える。

 半年ぶりに目覚めたグリムに喜び、駆け寄ろうとしてくる。


 彼女とは違う、けれど大切な彼女。

 痛みを隠し、グリムは微笑んだ。


 グリムはアレインに向け、手の平を向ける。

 その中には、『涙型の黒い宝石』が浮かび上がった。


 前者の魂を止める秘術は良くも悪くも単なる魔法であり、魂に刻むという工程以外に禁忌はない。

 グリムが魔法を使えたなら、そうする必要さえもなかっただろう。


 けれど、こちらは違う。

 これは本当の意味での禁術。


 アレインの魂のなれの果て。

 グリムのために遺したかった、想いの結晶。


 その効果は――。


「アレイン。俺を信じて、これを取ってくれ」


 グリムの言葉にアレインはためらうことなく、宝石を手に伸ばす。


 瞬間、宝石は溶け込み、アレインの中に。

 そして――。


「……本当に、繰り返していたんですね」


 そう、この世界のアレインは呟いた。


【tears of Alleyne】


 その効果は……継承。


 グリムと共に在りたいと願ったアレインが、己が魂を燃料とし次のアレインに託した願い。

 彼のために生きることを当然と思うからこそ、彼女たちは皆、別固体の自分を信じ、託し続けられる。


「少し真面目な話をする前にさ、一つ聞いて良いかい?」


「はい。なんでしょうか?」


「えと、前回の記憶は、どこまで覚えてる?」


「へ? えっと……はっきり言って良いです?」


「ああ。頼む」


「エイメスの首をぺきっとした辺りですね」


 そんな可愛い擬音じゃなかっただろうにという言葉は、そっと呑み込んだ。


「その先は覚えてないのか? 俺と出会ったことは……」


「え!? 来たんですか? 全然覚えてないのですが……」


 目を丸くするアレインを横に、グリムは苦笑する。


『この記憶だけは、他のアレインにもあげません!』


 そう、彼女が言っているようだった。


「まあ、別に良いか。そこまで思われて悪い気はしないし」


「えっと、あの、何の話ですか?」


「何でもないよ。……前回のアレインには本当に助けられた。だから……」


「わかってます。前の私に言われるまでもありません。今回も、その次も、それ以降も、私は貴方と共に」


「ありがとう。本当に頼もしいよ」


 そう言って、グリムは微笑んだ。


 偽りでもない、自然に笑みが浮かべられる。

 それがどれだけ幸運なことか。

 グリムはこの瞬間を噛みしめられることを、彼女たちに感謝した。



ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


力及ばずですが、ここで一区切りとさせていただきます。


どうにもお手に取って頂けませんでしたが、心を込めて書きました。

ここまで読んで下さったあなたが楽しめたなら、幸いです。



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