?.伝説の終わりと始まり
セリア「おれは死なねェぜ」
闇堕ち聖女が伝説となってから幾年が経った。
その間、どれだけの国が、人が、世界が闇の炎で焼かれたかわからない。
闇堕ち聖女自身、もう覚えてなかった。
唯一鮮明に記憶として残っているのは、闇堕ち聖女が産声をあげた瞬間――『始まり』の記憶だけだった。
そして、『始まり』があれば……また、『終わり』もある。
―――
「くっ……」
聖堂の冷たい石畳に膝をつく闇堕ち聖女。息も絶え絶えで、彼女の象徴ともいえる闇の炎が消えかかっていた。その彼女の眼前には、光の剣を手にした勇者とその仲間たちが立っていた。全員が傷だらけではあったが、彼らの瞳には決意の光が宿っていた。
「やったか!?」
勇者達は油断なく身構えたまま、様子を探る。
本来なら、ここで闇堕ち聖女が立ち上がるところだろう。
死亡フラグと呼ばれる絶対不変の法則に従い、闇堕ち聖女の反撃で勇者達を全滅させるところだろう。
「あははははは!!」
闇堕ち聖女は突然笑いだした。勇者達は、この笑いを反撃の狼煙と考えた。
ごくりっと息を飲み込みながら、彼等は闇堕ち聖女の出方を伺う。彼等は立ってこそいても満身創痍。下手に仕掛けて反撃を受ければ総崩れの危険性があった。
だからこそ、迂闊に踏み込もうとせずに機を伺っていた。
しばらくの間、聖堂に闇堕ち聖女の笑い声が響いたが、その声は唐突に止まった。
そして……
闇堕ち聖女の身体が静かに崩れ去っていった。
「勇者とその仲間達よ。よく、この私を倒しました。あなた方は私の伝説……闇堕ち聖女の伝説の最後の一節。闇堕ち聖女を討った勇者とその仲間として、永遠に語り継がれるでしょう」
その声には敗北の悔しさはなく、むしろ感謝してるようだった。長きにわたる戦いに彼女自身、もう疲れ切っていたのかもしれない。だが、完全な敗北までは認めていなかったようだ。
「ですが……私にはみえます。光が存在する限り、闇もまた、存在し続けるもの。……世界が他力本願の極致である『聖女召喚』を試みる限り、混沌から新たな闇を産み落とす……その時こそ、新たな伝説の始まりとなるでしょう――闇堕ち聖女の意思と伝説を受け継ぐ、新たな伝説の『始まり』が……ふっふふ…ふふふふふ……ぐふっ……」
最期は不適な笑いとともに、闇堕ち聖女は完全に消え去った。
その笑いは負け惜しみだったのか、それとも未来への警告だったのか――勇者たちには判断がつかなかった。
ただ一つ確かなのは、この時をもって次元の狭間に潜む『闇堕ち聖女』の伝説に終止符が打たれたことだけだった。
―——
勇者が闇堕ち聖女を討ってから一ヵ月後……
ある異世界のある王国。グランディア王国では、長らく禁じられてきた儀式である『聖女召喚』に手を出していた。
『聖女召喚』――かつて世界に繁栄をもたらすとされた伝説の儀式だったが、何百年もの間、この儀式は禁止されていた。なぜなら、『聖女召喚』を行えば、聖女ではなく闇堕ち聖女を召喚してしまい、例外なく破滅をもたらされると記録されていたからだ。
しかし、状況は変わった。
グランディア王国の国王であるレオン三世はある情報を……次元を超えたある世界の勇者が、闇堕ち聖女を倒したという確かな情報を手にしていたのだ。
「情報によれば、一か月前から各異世界で聖女召喚の儀式を行っても闇堕ち聖女は現れていない。逆に言えば、聖女も現れていないようだが……とにかく、禁断の儀式となっていた最大の原因が排除されたのだ!!ならば、今こそが最大のチャンス!!」
王の目は野心に輝いていた。
闇堕ち聖女が倒されたという情報は、いずれ他の国々にも知れ渡るだろう。ならば、その前に『聖女召喚』を成功させ、他国を出し抜く必要があった。
そのため、レオン三世は毎日のように『聖女召喚』の儀式を執り行っていた。莫大な魔力を要する儀式は国の財政を逼迫させたが、王は一切気にしなかった。
儀式を始めてから十日目……
ポゥ……
魔法陣に初めて反応があった。
聖堂の床に描かれた複雑な魔法陣がかすかに輝き始め、中央から小さな魔力の渦が発生したのだ。
(いける!!)
レオン三世は手ごたえを感じた。これまで無反応が続き、諦めかけていたが、ついに兆候が見えてきた。
「全員、魔力を集中させろ!」
王の命令で、周囲の魔術師たちがさらに魔力を注ぎ込んだ。儀式の魔法陣は次第に深紅に輝き始め、聖堂全体が微かに震動した。
魔力の渦は次第に大きくなり、聖堂の柱が軋み始める。レオン三世をはじめ、儀式に参加する全ての者が固唾を飲んで見守る中——
魔法陣の中心から人影が浮かび上がったが、それは誰もが期待していた聖女ではなかった。
現れたのは、漆黒のドレスをまとった少女だった。背中には蝙蝠のような翼が生え、頭には二本の角がそびえ立っていた。
少女は周囲にいる王達を威圧するかのごとく全身から魔力を――聖性とは正反対な、圧倒的で暴力的な魔力を放出。聖堂の空気そのものを重く淀ませた。
「な、何者だ貴様は?!」
レオン三世は恐怖と怒りが入り混じった声で叫んだ。莫大な費用と時間をかけて聖女を召喚したはずが、なぜこんな化け物が現れたのか理解できなかった。
少女は王の声にゆっくりと視線を向けた。その目には明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。
「何者だ……か。そうだな、我は初めて姿を現わすのだから知らなくて当然か。なら、まずは挨拶するのが礼儀というものだろう」
にやりと不敵な笑みを浮かべた少女は、右手を軽く上げた。掌の周囲に黒い電撃のような魔力が集中し、バチバチと不吉な音を立てて火花を散らす。その余波だけで、聖堂の壁に亀裂が走り、色とりどりのステンドグラスが粉々に砕け散った。空間さえも歪み、景色が濁り始める。
「い、一体何を……やる気だ?!」
レオン三世は冷や汗をぬぐいながら声を張り上げた。嫌な予感しかないが、王としての矜持から一歩前に踏み出した。
その様子を見た少女は、少し興味深そうな表情を浮かべた。
「なるほどなるほど。『聖女召喚』という他力本願の極みを企む愚者であっても、我の前に出るだけの気概はあったか。まぁ、単なる無謀な蛮勇に過ぎぬ気もするが、一応は誉めてやろう。」
「ば、馬鹿にするな!俺は王だ!!そして、これからは世界を統べる王となる者だからな!!」
レオン三世は恐怖を振り払うように大声で宣言した。
対して、少女は苦笑を浮かべるのみ。
「世界を統べる……か。大きく出たが、それは無理だろう」
「何を言う!お前は『聖女召喚』で呼び出されたのであれば、召喚者である俺の命令に従う義務がある。だから……俺に従え!!」
レオン三世は権威を振りかざそうとしたが、その声にはわずかな震えが混じっていた。
少女の表情は一瞬で冷たくなった。
「貴様は何を言っているのだ?我は貴様に従う義理も義務もない!我が従うは、母様から受け継いだ使命のみだ!!」
「母様……?一体何の話だ!」
レオン三世が問い詰めるより早く、少女は片手で溜め込んだ魔力を天に向けて放った。
黒紫色の光の柱は聖堂の天井をやすやすと突き破り、天空高くに昇っていった。その光は雲をも貫き、やがて最高点に達すると――
バン!!
炸裂した。
空一面を覆い尽くした閃光が、一瞬だけ新たな太陽が誕生したかのように世界を白く染めた。地上の人々は目を奪われ、空を見上げた。
王は一瞬、何事かと警戒したが……何事も起きないように思えた。
「な、なんだ……ただ光っただけか……」
安堵の息を吐きかけた、その時だった。
ひゅるるるるるる……
耳に届いたのは無数の飛来音だった。その次に目へと入ってきたのは――
天から降り注ぐ無数の火の玉。
一つや二つではない。数百、数千、数万ともいえる直径十メートル級の火の玉が、グランディア王国めがけて落下してきたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
レオン三世――いや、王だけでなくグランディア王国の全ての国民がパニックに陥った。人々は逃げ惑い、泣き叫び、祈りを捧げる。そんな人々の努力を嘲笑うかのように降り注ぐ火の玉は、城も、街も、森も、山も、全てを区別なく蹂躙し、国土全体を燃え盛る火の海へと変えていった。
全てを焼き尽くす業火は丸一日燃え続け、王国があった場所は黒く焦げた荒地に変わった。生き残った者は一人もいなかった。
その光景は、隣国だけでない。遠く離れた大陸からさえも目撃された。まさしく、天から降り注ぐ災厄の雨。一つの王国が、一日で滅びた事実に戦慄した。
各国の動きは早かった。グランディア王国がなぜ滅びたのかを調べるための調査団を送ろうとしていた矢先、天から声が響き渡った。それは若い少女の声でありながら、底知れぬ威厳と脅威に満ちていた。
「愚者共よ、聞くがよい!!我が名は狭間の魔王メルカス!『闇堕ち聖女』の意思と伝説を受け継ぐ者なり!!我は『聖女召喚』を許さぬ!!儀式の遂行を許さぬ!!聖女の降臨を許さぬ!!愚者共よ……我が名を恐怖と共に刻むがよい!!」
“我が名は狭間の魔王メルカス!!『闇堕ち聖女』の意思と伝説を受け継ぐ者なり!!”
その宣言によって新たな伝説。“名も無き『闇堕ち聖女』”の意思を受け継ぐ“狭間の魔王メルカス”の伝説がはじまったのであった。
とぅーびーこんてにゅーど?
セリア「闇堕ち聖女を超えた者だけが、闇堕ち聖女になれる!狭間の魔王メルカス!今日から君が闇堕ち聖女よ!(`・ω・´)キリッ」
メルカス「あの~母様。魔王が聖女を名乗っていいの(・ω・ )?」
セリア「……こまけぇこたぁいいんだよ( >ワ<)シビシッ」




