起.禁じられた儀式
人は禁じられた物ほど、手を出したくなる。
古事記にも(たぶん)そう書いてある(`・ω・´)キリッ
世界各国では、『聖女召喚』を禁断の儀式と定められていた。
理由は、『聖女召喚』を行った国は例外なく滅びを迎えるから。
それを裏付けるような事件が百年前に起きた。ある国が一夜にして滅びを迎えたのだ。それ以後、不定期に国が一夜にして滅びを迎える事件が起き続けた。調査の結果、滅びた国にはある共通点があった。それは、『聖女召喚』を試みた痕跡だった。
これにより、滅びの原因を『聖女召喚』にあるとされ、教会は世界各国の王との連名で『聖女召喚』を禁断の儀式と認定した。
無数の犠牲の上に得た、血で書かれた教訓のはずなのだが……
エルガリア王国は、それらの教訓を知ってなお、禁断の儀式を決行した。
王国は魔物の侵攻に苦しみ、国庫は枯渇し、民は疲弊していた。古びた聖典に記されている伝説の聖女を呼び出す『聖女召喚』に縋りたくなるほど追い込まれていたからだ。
――どうせ、このまま滅びを迎えるなら
「我々は罪を犯す。これは、この国のためだ」
国のため。大司祭であるヴァルターはそう言い聞かせながら、儀式を開始する。国王を始めとする貴族や高位聖職者たちが見守る中、ヴェルタ―は六人の司祭と共に詠唱を始めた。
床に刻まれた複雑な魔法陣が、詠唱に呼応するように青白く輝き始める。空気が軋み、重くなった。微細な塵が光の粒子のように舞い上がり、中心部から微かな風が渦を巻いた。
彼らが心に描いたのは、古い壁画や聖歌に謳われるような、慈悲深く、癒しの力に満ちた聖女の姿だった。銀色の髪に碧い瞳、優しい微笑みで病を癒し、荒れた大地を緑で覆い、絶望した人々に勇気をもたらす存在。
しかし、彼らは知らなかった。
そんな都合の良い聖女はすでに居なくなっている事実を……
仮に居たとしても、それは『聖女召喚』で呼び出せないという事実に……
なぜなら――『聖女召喚』の儀式は、次元の狭間で眠る“ある存在”を目覚めさせて呼び起こす儀式となり果てているからであった。
―——
次元の狭間——それは無数の世界が交差する場所であり、時間も空間も曖昧に溶け合う領域だった。正式名称は誰も知らず、記録にも残らない。あらゆる生命から隔絶されたこの空間で、“ある存在”が眠りについていた。
その眠りは、深いようで浅く、夢でありながらも現実でもある、矛盾めいた眠りだった。
その眠りは、『聖女召喚』の儀式の波動をキャッチした事で破られた。
「また……ですか」
微かな、それでいて底知れぬ重みを帯びた呟きが虚空に響く。
目を開けたその存在の瞳には、深淵そのものと言えるほどの闇が宿っていた。光を一切反射しないその黒は、見る者の魂をも吸い込みそうな恐怖を誘う。
声は優しさからはほど遠く、積もり積もった恨み——幾千、幾万の年月をかけて醸成された底なしの憎悪が込められていた。それは慈悲深い聖女のそれとは対極に位置する、すべてを呪うような響きだった。
“ある存在”は、耳を澄ませながらある一つの世界のある王国。『聖女召喚』の儀式を遂行中のエルガリア王国の聖堂を見据える。
本来なら、『聖女召喚』は無数の世界から聖女と呼ばれるにふさわしい適性者を呼び出す儀式だった。何もなければ、エルガリア王国には、聖女が降り立つであろう。
だが、“ある存在”は、それを許さない。儀式の遂行を許さない。聖女の降臨を許さない。故に……
パリーン!!
“ある存在”は、ためらうことなく儀式に干渉。次元の壁を踏み破り、聖女の代わりとしてエルガリア王国の聖堂に降り立つのであった。
んんんんー、許るさーん!!




