確証なき自白
血なまぐさい匂いの漂う、森の中。
「……なにか、言いたいことでもあるのか?」
先程から、不機嫌そうな表情を崩さない彼女へ向けて、そう問いかける。
カバンの中をガサゴソと漁りながら問いかける俺の態度は、失礼極まりないのだろう。
尻尾が、地面を擦る音。
俺は即座に手を止めて、彼女を見る。
……これぐらい、か。
俺と顔を見合わせた彼女は、更に顔を顰めて、その表情を隠そうともしない。
まぁ、それくらいで不快に思うことなんて、ないけれど。
そもそも、今こうして彼女の近くにいるのは、全部俺の勝手なんだし。
「……なんで、また」
ぽつりと、一言。
彼女はそう、言葉を零す。
……なんで、ねぇ。
ついこの間、全く同じ事を聞かれたなと、そう思い返す。
彼女が俺へ向ける表情には、ほんの少しの困惑が見て取れた。
彼女にとって、人と会うということは、それほどまでに謎めいたものだったのだろうか。
過去を知らない俺には、推測することしか出来ない。
…………。
少しの、逡巡。
俺は、ゆっくりと口を開いて……
「……逢いに行くと、そう言っただろう?」
軽く、笑みを浮かべながら、彼女に向けて。
不機嫌そうな表情は、依然として変わりない。
「……そうじゃない」
俺の目をしっかりと見て、彼女は呟く。
彼女の背後には、陽光が差していた。
……あぁ、これは、そうか。
もっと根本的な部分を、聞いているのか。
しかし、そうであったなら、俺の答えは、依然として変わりない──
「──会いたくなったからじゃ、ダメか?」
前と変わらない答えを、彼女に。
それでもまだ、彼女の目は、俺を見ていて。
黄金に輝く、彼女の瞳が、俺を見ていて……。
…………。
……なんだ、その目は。なん、なんだ……。
思わず、顔を逸らしてしまう。
まるで不貞腐れてでもいるかのように。
なぜ逢いに行くのか、なんて、俺にも分からない。
俺のことすらも、俺には分からないのだ。
それは、前と変わらない。
──けれど、一つだけ、分かったことがある。
「……俺のような人間は、どうしても、光に魅入られてしまうんだよ」
なんて、小さく、言葉を零した。
彼女の尻尾は、ピクリと、動きが止まっている。
「……へんな、やつだ」
……前も、聞いたよ。
その言葉は真っ直ぐ、俺に向けられていた。
陽光のせいで、彼女の表情は見えない。
──けれど何故だろうか。
今、この時だけは、不機嫌そうな顔をしていないと、確信できてしまうのは。
◇◆◇
「それに、借りがあるからな」
「……」
またしても、不満気に顔を顰めている。
「命を見逃してもらったんだ」
「まさか、命の分を返し終わった、だなんて……思ってないよな?」
「……む」
不満気な声だ。
彼女は、更に顔を顰めている。
「少なくとも、この借りを返し切るまでは──」
「──君に、逢いに行くよ」
「……チッ」
尻尾による殴打。
それが、鳩尾に入り込む。
そのまま受け止めて、尻尾を少し撫で付けておく。
「……んっ」
尻尾の感覚が鋭いのか、漏れ出たような声。
……うん、ちょっと危ないかな。
目の前にいる彼女は、ギロリと俺を睨みつけ、尻尾を巻き取ってしまった。
「……手加減、感謝するよ」
彼女が本気で叩けば、俺なんて、一瞬で木っ端微塵になるのだろう。
だからこそ。
笑顔でそう言えば、またしても顔を顰めてしまうのは……どうしてなのか。
◇◆◇◆◇
クロガネ「ところで、ご飯はどうして……」
龍娘「……ん(何処かを指さして)」
クロガネ「……ま、まさかとは思うけど、これ?」
龍娘「……ん(肯定)」
クロガネ「えぇ……(絶句)」
クロガネ「……ちゃんと、焼こうね」
龍娘「むぅ……(不満気)」




