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道化師の箱  作者: たま
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幕開け 1

目覚まし時計の音で目が覚めた。午前七時。いくら一人暮らしになったからといって、昼まで寝るのはあまり良いことではない。大学受験もめでたく終了し、大学に入学出来た俺は念願だった一人暮らしをしている。


「今日は………午後から授業か…。午前中何してるか……。」


しかし、一人暮らしというのはなかなか暇であることに一人暮らし開始一週間で気付いた。家事と勉強、さらにサークル活動やバイト。大学に入れば充実した毎日を過ごせると思っていたが、家事は効率的にやれば単純作業でしかないし、バイトも(ファミレス)週三で入ってるのに、客が全く来ない。サークル活動に至っては主だった活動はしていない。というか新歓コンパ以降集まりがない。いま一番充実感があるのは勉強ぐらい。


「大学行って、勉強してるか…。」


結局いつもと同じ考えにいたり、大学へ行く準備をし出す。服は無難なものにして、髪型は特にセットせず、勉強道具を持って外に出た。

一人暮らしをしている部屋から大学までは最寄りの駅から二つ先の駅まで行き、その後五分程歩かなければならない。その大学までの電車の中で朝飯も食べずに家を出てきたことに気付く。確かに朝起きてから何も口に入れていない。だが、いくらバイトしているからといって、その辺の喫茶店で飯を食えば、学生には痛い出費になる。コンビニも同じ。だから、大学に入ってからよく利用している食堂で飯を食べる事にした。




大学に着いたのは午前九時頃だった。大学に入ると、まず図書館が目に入った。ここの図書館は近隣の人々も利用出来るようになっている。さらに、その蔵書量もそこらの図書館の比ではない。どんなに探しても見つからなかった本が、この図書館を探せば大概は置いてある。いつもならここで勉強する為に入っていくのだが、今日は食堂で飯を食べてからになるだろう。

図書館に続く道から分かれている右側の道を行くと食堂が見えてきた。食堂の中はとても清潔感があり、とてもカジュアルな感じな内装だ。


「おばちゃん、スタミナ定食一つね。」


厨房からおばちゃんの、あいよー、という声が聞こえる。数分して出来上がったスタミナ定食を貰いながらおばちゃんにお金を渡し、スタミナ定食が乗ったお盆を自分の席に置いて、食べ始める。

食べながら、席から少し離れたところにあるテレビに目をやった。


『昨夜未明、軍の研究機関にも属している宮田研究所で大量殺人事件が起こりました。亡くなったのは、一部の研究員と昨夜警備にあたっていた警備員などの十三人だそうです。しかし、研究所の責任者で、殺された十二人の研究員とともに研究所にいたはずの宮田博士が行方不明になっており、警察は宮田博士が何らかの事情を知っていると見て調査しています。』


ニュースはその後、宮田博士がどのような人物なのかを説明している。さらに、研究所で宮田博士らが研究していた兵器についても色々な憶測がとびかっていた。どんなに殺そうとしても死なない人造人間だとか、超強力な生物兵器だとか、新型ミサイルだとか。見ていて馬鹿馬鹿しいと思った。




第三次世界大戦が起こる少し前に、俺のいる日本という国は君主制へとその政治体制を変えた。といっても、君主である皇族が政治に口を出してくる程度で国会や内閣、総理大臣が無くなったわけじゃない。数年間はうまく機能してたと思う。というか、その頃が一番平和だった。しかし、第三次世界大戦が勃発。日本はアメリカと手を組み、戦争に加担した。この頃、天皇が変わったことが今の日本を作った、と俺は思っている。まず新たな天皇は前の天皇とは真逆の政治をし出した。前の天皇はなるべく戦争に手を貸さない方向の政治をしていた。だが、新たな天皇はすぐにアメリカと手を組むと、日本に軍を設立した。もちろん世論は反対していたけど、天皇はそんなのお構い無しに軍備を整え、戦争に本格的に介入した。


当時高校に入って間もない俺は、戦争と聞いて不謹慎ながらも胸が高鳴った。同じことの繰り返しの日々が変わる、と。刺激的な日々になってこの退屈から抜け出すことが出来る、と。実際、戦争が始まってから近隣の人が軍役でいなくなったり、ニュースでも戦争の話題で連日にぎわった。また、最前線に出て戦死した友達の兄弟もいるという話も聞いた。そういう話やニュースを見たり聞いたりする度、非日常が近づいてくるようで興奮が収まらなかった。でも、開戦から六ヶ月経った辺りから、政府の圧力かはたまた軍の圧力なのか、ニュースでは詳しい話が一切報道されなくなった。俺は内心がっかりだった。日々の生活がつまらなくなってしまうからだ。



開戦から八ヶ月経ったある日、俺の身近にいる人からついに軍に行く人間が出てしまった。その人は俺の幼なじみで同級生の女子だった。今、振り返って考えればその時の俺はなんと愚かでひねくれていてのだろう。軍に行く幼なじみを見て、悔しい、という気持ちが出てきてしまった。何故自分ではなく彼女が軍へ、戦場へ行くのだろう、と。彼女を見送る時、俺が彼女に向けていた眼差しは羨望と嫉妬の眼差しだった。でも、俺はわかっていなかった。俺は戦場に行っても必ず帰って来れると勝手に思い込んでいたということを。命には限りがあるということを。




開戦から一年経ち、戦争はアメリカと日本の圧倒的勝利で終結した。俺がいた街でも、戦争に勝利したことを祝う祭りやパレードが開かれて賑やかなムードだった。

でも、

彼女は

帰って来なかった。

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