八十六.メグミンと一緒2
昨晩、魚料理を堪能した俺達はお腹を抱えて宿屋へと帰り、互いの部屋へと戻った。
俺は、ベッドに倒れ込むといつの間にか泥の様に眠ってしまっていた。
身体を揺さぶられた感覚があり、目を覚ますとそこにメグミンが佇んでいた。
「あっ、やっと起きた。昨日の約束忘れてるでしょ」
口を膨らませて不貞腐れている。昨日の約束――? そうだ、夕食をしている時にした約束の事かと思い出した。
明日から祭りが始まる祭りに参加する為に、必要な物を買いに行く約束だ。
メイドリンさん曰く、貴族と庶民の区別がつかない様に仮面で顔を隠して仮装するのだそう。
その事を聞いていた俺達は昨晩、仮面を買いに行こうという話をしていた。
「仮面を買いに行くだけだろ? こんな朝早くから行かなくても――」
「ショウが起きた時が朝じゃないよ。今は昼過ぎなんだから」
そんな馬鹿なと思い、窓から空を見上げると丁度、太陽は真上にある感じだった。そう思うと、何だかお腹が減っているのに気が付いた。
「直ぐ支度するよ」
そう言って、俺は服を着替えようとすると、視線がある事に気が付いた。メグミンがまだかまだかと、俺の着替えを眺めているのだ。
「あの、今から着替えるんだけど」
「良いから、良いから」
「何も良く無いわ!」
メグミンを無理やり、廊下へと放り出した。たまに、メグミンの考えている事が分からなくなる。
そんな思いを抱くのは俺だけだろうかと考えながら出かける準備を済ませた。
明日から祭りが始まるので、街の中はすっかり様変わりを果たしていた。家々に飾りが施され、出店が立ち並ぶ。すれ違う人々は笑顔が零れて、祭りが始まるのを心待ちにしている様子が伺える。
通りでは馬車の往来が先日の倍になっていた。祭りの為に商品等を、運んでいるのだろうと想像に難くない。
宿を出る前に仮面は何処で手に入るのかと、事前に宿屋の店主に聞いて簡単な地図を貰っていた。
今、俺達は地図を見ながら店へと向かっている最中だ。
程なくして、その店とおぼしき場所に辿り着いた。この地図が無ければ、小道が多く複雑な地形によって容易に迷子になっていた。
俺達は扉を開けて店内に入る。
店内の壁には一面を覆いつくす程の仮面が、敷き詰められていた。彩り豊かで形は様々、目元だけ隠すタイプや顔を覆い隠すタイプもある。
その光景に圧倒されていると、店の奥から初老の爺さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。仮面をお求めですか?」
はい、そうです。と答えると、どうぞ自由にご覧下さいと返してくれた。爺さんは仮面の事で分からない事があれば、気軽に聞いて下さいと告げて来た。
これだけの種類があると、どれが良いのかさっぱり分からない。祭りも初参加だし、変な仮面をつけて面倒な事になるかもしれない。メグミンもどうやら選びあぐねている様子だ。
早速、爺さんに聞いてみる事にしょう。
「何かお勧めはありますか?」
「お二人さんは祭りは初めてなのかね?」
「そうなんです。種類が沢山あって、どれが良いのかさっぱり分からない」
初老の爺さんは、笑みを浮かべながら優しい口調で教えてくれた。
「なぁに、難しい事は何も無い。どの仮面を選んでも失礼には値しないよ。何せ祭りは無礼講なのだから、直感で選んでくれたら良い」
なるほど、この目の前にある、ひょっとこに似た仮面でも問題は無いという事か。しみじみと周りの仮面を眺めていると、爺さんは付け加えてこういった。
「昔から仮面には、その人物の心が映し出されると言われている。自分でこれだと思うものがある筈だ」
なるほどと感心して再度、仮面を見回す。すると、メグミンが急にこれが良いと声を上げた。
メグミンの方に目をやると、手にはウサギを模した仮面が握られていた。
「何でウサギ?」
「だって、可愛いから。どう?」
そう言ってマスクを顔に重ねていた。確かに違和感は無く、むしろ似合っているのではないだろうか。その安直な回答にメグミンらしいと納得して、俺もそんな感じで選べばいいかと気が楽になった。
「じゃあ俺はこれにする」
そう言って手に取ったのは、ピエロを模した仮面だ。下半分は露出していて、目元だけを隠してあるタイプだ。他のごてごてした仮面よりも無難だと思った。
メグミンは面白みが無いと野次を飛ばしていたが、俺は気にしない。
「成程、お二人共良く似合っておいでですよ」
爺さんは顔を綻ばせて俺達に伝えてくれた。会計を済ませて、店を出ようとすると爺さんは俺を引き留め耳打ちしてきた。
「あの娘さんを大切にしてあげなさい」
「俺達はそんな関係では――」
俺は説明するのが面倒になり、途中で言うのをやめた。わかったと一言伝えて、先に外へ出ていたメグミンと合流する。
「お爺さん何て?」
メグミンは小首を傾げて質問してくる。変な勘繰りをされた事をそのまま伝えると、メグミンがまた第二夫人がどうとか言いかねない。俺はたいした事じゃないと、はぐらかし歩き出した。
そんなに長い間、仮面を選んでいる感覚は無かったけれど、いつの間にか日は傾きだしていた。
「そう言えば、俺何も食べてないな」
急いでいた事もあって、すっかりと忘れていた。通りは明日の予行演習を兼ねてか明かりが眩しく光り輝き、昼間の様に明るかった。
「じゃあ、明日楽しむために今日は、早く寝て備えようよ! 寝坊は許さないんだからね」
傍ではしゃいでいるメグミンの意見に賛成だ。明日は出店に寄って、折角買った仮面をつけて貴族地区の散策、時間があればゴンドラに乗って遊覧も良い。彩られた街並みを水面から眺めるのはきっと綺麗なんだろうな。
期待に胸を膨らませつつ、俺達は賑わう通りを人混みに紛れて行った。
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