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ニートヴィレッジライフ ~夢の理想郷~  作者: 神村涼
2.ウィンティア王国編
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五十三.教え


 柴田の良い思い出? を置き去りにしながら馬車は進み、今現在俺達が立っている場所はウィンティア王国の王都ウィンドヘルムだ。


 採掘で不要な石材を使用して造られたであろう街並みは、歴史が感じられる。遠目に見える王城は、崖をえぐり取った様な場所にあり、崖全体に彫刻を施し浮き彫りになっている様は圧巻だ。


 騎士の巡礼、この旅の折り返し地点がウィンドヘルム城なのだとかガイウスが言っていた。


 やっと半分か……、カオル君達には定期的に皆の無事と、旅の進歩状況を手紙で送ってはいるけど言葉を交わしたい思いが馳せる。


 「何考えてるの?」


 俺の顔を覗き込む形で、ミズキが訊ねてきた。その不意な距離に便乗して、キスしたくなったが大衆の面前でするのには抵抗があるのでやめておこう。


 「いや、カオル君達はどうしてるかなって思って」


 「ベネット村に戻ったら沢山お話する事があるね」


 懐かしみながらミズキは、カナミちゃん元気かな? ナッチャンに会いたいと話していた。


 その話題に、ガイウス達も混ざり花が開きそうだったので適当な宿を取り、この街のギルドで食事をしながら、移動の疲れと今までの事を懐かしんだ。


 「おっと、ガイウスはまた別行動になるんだろ? 丁度ギルドにいるし、今まで倒した魔獣の魔鉱を換金しておこう」


 「ああ、そうだな。それで、今回は誰が付き添いで手伝ってくれるんだ?」


 そう言われれば、確かレイク城の時は柴田が手伝ったんだっけ? そう思い柴田に目線をやると面を食らった様な顔をしていた。


 「また俺かよ! 一回見たから、もうしたくない。地味だし……」


 地味か、そこが判断基準なのは柴田らしい。

 

 そういえば、レイク王国、ウィンティア王国、ウォータリア王国、神聖国の四ヵ国が統治している大陸だったな。護衛という名目で付いて来ている俺達も丁度四人だ。


 「じゃあ、各国一人ずつ担当する事にしよう。やりたい人手挙げて」


 ……。誰もいないようだ、これではガイウスが余りにも可哀そうだ。


 ほら、ガイウスを見てみなよ。眉を垂らし、目の前のスープをスプーンで掬っては零れ、掬っては零れ、口元にスプーンを届けるのが難しそうだ。


 すまないガイウス、こんな事になるとは思わなかった、自責の念を抱きつつ俺が率先してやろう。


 「じゃあ、俺が付き添うよ。ミズキとメグミンも残りの二ヵ国でやるんだからな」


 「「はーい」」


 無駄に返事が良い二人に不安を覚えつつも、巡礼の儀式に赴くのは明日にする事になった。


 翌朝、ガイウスに起こされ俺達はこの国の聖堂へと赴いた。確か七日間はガイウスに付き添わないといけなかったな。


 「ところで、俺は何したら良いんだ?」


 「ああ、そうだな。基本的には俺の従士という扱いだ。身の回りの世話と諸々の雑用をして貰う事になる」


 要するに特にする事は無い、という事か。ちょっとは期待したんだけどな……。


 だったら、呼ばれるまでは聖堂の中でもぶらついてみるか。


 長い廊下を何も考えずに、ただ歩いていると、半開きになっている扉が見えてきた。


 何気なく中を覗くと、壁一面に彫刻が施された部屋で四人の人物らしい者が並んで、太陽の様な物に跪き頭を垂れている様に見えた。


 でも、四人の内の一人は顔に傷が有り特徴的だ。掘る時に手違いで傷付けてしまったのだろうか?


 「この大陸の成り立ち……。を現していると教えられています」


 不意に背後から、声が掛かり慌てて振り返る。そこには初老の男性が棒の様に佇んで居た。


 「あなたは?」


 「この聖堂の司祭です。そちらは騎士ガイウスのお連れの方ですね?」


 俺は素直に頷いた。この司祭が言うには、この部屋は神聖国が崇める神の教えを布教する為の部屋なのだとか。


 この壁に彫られている絵の四人はこの大陸の国を現し、太陽を模したものは神である。


 四ヵ国は同列であり、その上には手に届かない存在がいる。俺達は天上の存在によって生を受けその生涯を終える事が出来る。


 その事こそが恩恵であり、その存在を敬い称えなさいという教えだった。


 話を聞く限りにおいてはとても素晴らしい教えの様に思える。この教えを皆が実践出来れば世の中に争いごとは無くなるかもしれない。


 少しばかり司教と言葉を交わし、俺はガイウスの元へと戻った。


 ガイウスは修道士の様な格好になっており、これから祈りを捧げに行く所だった。


 やる事はあるかと尋ねると今の所は無いと返事が返ってきた。折角なので、ガイウスの儀式を見物しようと後を付いて行くことに決めた。


 聖堂の内陣へと進むガイウスの後を付いて行くと、目の前に太陽の形を模した飾りがあった。


 ステンドグラスの鮮やかな光に反射して、その飾りは虹色に輝いているかのように錯覚させられた。


 自然と俺は、両膝を床に付き、少し頭を垂れた先に掌を組み合わせ目を瞑った。


 俺の実家は、仏教だった筈だがその行為にはぎこちなさは無かったように思う。


 この国の歴史に触ったからだろうか? この世界に来てもう五年、いや寒い時期が終われば六年か。右も左も分からなかった俺が……、俺達がここまで生きて来られたのは、周りの人の助けがあってこそだった。


 魔法がある世界だから、もしかしたら元に戻れる方法があるかもしれないが、探すとなると長い年月と危険が伴うだろう。


 俺の年齢的にもそんな無茶を考えても仕方ない時期になってきた。この旅が、終わる時までに俺も今後の事を真剣に決めないといけないな、カオル君達が早々に決断したように……。


 ガイウスに声を掛けられると、いつの間にか日は沈み蝋燭の明かりだけが揺らめいていた。


 俺は立ち上がろうとするが、永い時同じ姿勢だった為に思うように体が動かずよろめいてしまった。


 苦笑いするガイウスに肩を借りて、俺達は部屋へと戻った。

 

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