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二十一.スクラの街2

不快に思う描写があるかもしれませんので、ご了承下さい。


 やりきれない思いを胸に一先ず宿屋に戻ってきた俺達は話し合うために一室に集まった。


 俺は自分でも気づかなかったが、感情を抑えるために、拳を強く握りすぎ少し血を流していた。


 それに気付いたミズキが今、治療してくれている。


 どこか皆元気が無く、どんよりとした空気が漂っている。


 「ガイウス、どうしてさっき止めたんだ?」


 「止めなければ、皆罪人になるか奴隷にさせられただろう。だから感情的になるなと言ったんだ」


 「だからと言って、手が届く距離にいたんだ!」


 「お前の身体強化なら助け出し逃げ切れるかもしれんが、残された俺達はどうなる? ミズキやメグミンがあいつの慰み者になっても良かったのか!」


 正論を言うガイウスに、俺は衝撃を受け少し冷静になった。


 「うち、あいつ生理的に無理!」


 「私も苦手かな……」


 戦々恐々とミズキとメグミンは言い合っていた。


 「じゃあ、どうすんだよ? 真夜中に忍び込むか?」


 目を輝かせながら、提案する柴田であったが、言い合う気にもなれず放っておく。


 「何も見捨てようなどとは思っていない。アイザック様の名を語ってしまったからな。お前達の知人だったのだろう? ここは正攻法で行く」


 ガイウスが、やさしい口調で提案してくれた内容は、アイザック卿に手紙を送り今回の内容を伝え。金品等で奴隷を買い取ってもらうという方法だ。


 アイザック卿の領内で連れ去られ、奴隷になっていたのだ。アイザック卿も負い目があるからか、かなり捜索に尽力してくれていたので、断りはしないだろう。


 それに身分的にも、アイザック卿の方が上なのでその申し出を断れないだろうという事だ。


 ただ、手紙のやり取りに日数が掛かるのが、少し歯がゆい思いになる。


 翌日、伝鳥を使いアイザック卿の元へ手紙を放った。


 伝鳥は、前の世界での伝書鳩に似ているが、こちらの伝鳥は知性が高く地名と届けて欲しい相手の名前を伝えると、届けてくれる。人の運べないタクシーのようだ。


 返事が来るまで数日暇になるので、ガイウスと柴田は宿に残り、メグミンとミズキで街の散策に出かけた。


 昨日は良く見ていなかったが、街は綺麗に整備されており、地面は石畳で舗装されている。


 立ち並ぶ住居や店は、レンガや木を上手く組み合わせ、前いた世界の戸建てを思い出させる。


 見た感じは綺麗だといった感想だ。大通りを突き当たった先にはシュバインの屋敷が見える。


 「物取りだ! 待て! くそガキ!」


 声のするほうに目を向けると商店街から、こちらに走ってくる少年達がいた。


 全員捕まえるのは無理そうだ、メグミンに向け目配せをすると、理解してくれたようだ。


 おかげで二人ほど捕まえる事が出来た。


 「助かったぜ、兄ちゃん達。ん? 昨日領主様と揉めていた兄ちゃんだよな?」


 店のおじさんは、昨日あの場所に居たらしい。


 おじさんは、少年達の盗んだ商品を大事そうに取り返し、数個だけそのままにして少年達を逃がした。


 その行動に違和感を覚え、直接聞いてみる。


 「彼らを逃がしていいのか? 兵士に渡さなくて大丈夫?」


 「ああ、変に思ったよな。あのクソガキ共には毎回迷惑しているんだが、どうにも不憫でな……」


 そういって、彼らの事を話し出す。あの子供達は、シュバインが領主になる前はいなかったそうだ。


 シュバイン卿が領主になり各地から女の奴隷を買い、自身の欲望を満足させ飽きると、街の隅にある住居へゴミのように捨てるそうだ。


 その女の奴隷達が孕み、生まれた子供達があの少年達という話だった。


 この国では、奴隷の子共は跡継ぎとして認知されない。やりたい放題というわけだ。


 こうして徐々に増えていった子供達は街の隅で貧困に苦しみ、生きる為に徒党を組み、店や旅人から盗みを働いて生活している。


 「うち、本当にあいつ無理! 鳥肌が立つ」


 「酷い話だね。この世界ではそれが普通なのかな?」


 「領主によって違うさ。お譲ちゃん達はアイザック領から来たんだろ? アイザック卿を尊敬している領主はこんな酷い事はしない。ごく一部の人間だけさ」


 そういって片手を振っておじさんは自分の店へと戻って行った。


 チェキラが長居しない方が良いって言った理由が分かったような気がした。こんなにも気分が悪くなるのは初めてだ。


 「少し街外れの方に行ってみないか?」


 俺は見て置かなければいけないと思いそう提案した。もちろん、嫌なら来なくて良いと言ったが、二人とも気持ちは同じようだ。


 見に行った所で、この現状を解決出来る術を落ち合わせていないが、どうしても確認しておきたかった。


 街の中心部から離れる程に、綺麗な街並みは荒廃した家屋へと変貌して行った。


 物陰からは、視線のような物を感じる。


 すると一人の少年が前に出てきた。


 「お前、さっき俺を捕まえた奴だろ! また捕まえに来たのか?」


 十代前半の少年は、頬は痩せこけ、衣服は茶色く汚れている。どうやらこの子がリーダーのようだ。


 「そんな事はしない。さっきは、ごめんな」


 あの話を聞いたからか、思わず口から謝罪の言葉が滑り出した。いや、他に掛ける言葉が出なかっただけだ。


 「そう思うんなら金か食い物をよこせ!」


 「そんな事をしても一時凌げるだけだ。どうして、盗みなんかやるんだ? 労働した対価で金を貰えば良いじゃないか?」


 「最初は、俺達だってそうしたさ! だけど、奴隷の子も奴隷って事で、元を辿れば俺達もあいつの所有物なんだ。雇った大人達はあのブタ野郎に処罰されたんだ。それからは、びびって俺達の事を見ない振りをしている」


 あのおじさんも公には手助け出来ないから、盗られたふりをして物を渡していたのか。


 俺は現状をどうにかしてあげたいと知恵を絞りある提案をした。


 「近くの農村に行くのはどうだ? シュバインもそこまで労力を使って邪魔したりはしないんじゃないか?」


 「ばかいえ、俺達の中には赤ん坊もいるし、旅をしている間に魔獣に襲われて死んでしまう。それに……」


 そういって、リーダーは付いて来いと合図したので促されるまま付いて行くと、ある家に案内された。


 少年が扉を開け招かれるままに入る。先行して入った俺は、後に続こうとするミズキとメグミンに外で待っていてと声を掛けた。


 とても、あの二人には見せられる光景では無かった。


 「これで分かっただろ? 俺達は母さん達を置いては何処にも行けない。いや、行きたくない! 母さん達は自分の身体を使って俺達を何とか養ってくれたんだ! どんなに醜くなっても俺達の母さんなんだ!」


 その家の中には、十数人の裸同然の女性がそこらへんで無造作に転がっていた。片腕や片足がない人もいれば、体中痣だらけだったり、性病を思わせる症状の者までいる。


 これが同じ人間のすることなのか? これは……後に続ける言葉が見つからない。


 自然と俺の目には涙が溢れてくる、助けたい気持ちがあるがどうしようもない。無力感と何とも言い難い複雑な感情が渦巻く。こんなに心のやさしい子供達の心情を思うと胸が張り裂けん思いで一杯だ。


 「すまない、俺に出来るのはこれくらいだ……」


 そういって俺の有り金全部とポケットに忍ばせていた、魔鉱をその場に置いて、外にいる二人を連れ出し街の中心部へと振り返ること無く帰った。


 

読んで頂きありがとうございます。



宜しければ今後の励みになりますので評価、感想等宜しくお願いします。


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