27.愛しているから一緒になった
27.愛しているから一緒になった
「ねえ、私と一緒に逃げてくれない?」
「えっ?」
雅代が唐突に発した言葉に小山は驚いた。小山が雅代に近づいた本来に目的からすると願ってもないことなのではあるけれど、今の小山にはそれを喜ぶことができなかった。雅代を連れ出せば木下がどうするのか判らない。学生の頃の負い目から、木下の言う通りに動いてきたものの木下の目的が判らない。小山には木下が雅代と森山を恨んでいるように思えたし、森山に対しては既に爆弾で殺人未遂を犯している。このまま雅代を木下に引き渡すようなことにはしたくなかった。
「私のことは嫌い? あなたも私のお金が目当てなの?」
「そんなことはありません。出来ることなら、ずっと一緒に居たいです」
「じゃあ、いいわね」
「解かりました」
小山は迷ったけれど、雅代を連れ出すことにした。当面の当ては叔父の別荘だった。けれど、そこは木下から雅代を連れてくるように言われている場所だ。それに、木下は小山の行動を見張っている。けれど、小山は覚悟をきめた。
「毒を食らわば皿まで…」
「ん? 何か言った?」
「いや、何でもありません」
止めた車から森山が降りてくる様子はなかった。黒木たちも車の中で待った。その時、タクシーが1台駐車場に入ってきた。ナンバーを確認すると、矢沢か聞いたものと同じだった。男がタクシーから降りた。
「木下だ!」
木下は森山の車には目もくれずホームセンターの建物の中へ入っていった。しばらくすると、森山も後を追うように車を降りた。手には大きなボストンバッグを持っている。歩きながら木下との電話でのやり取りを思い出していた。
木下は電話でこう言った。
「綾さんを愛しているのか?」
森山は躊躇うことなく答えた。
「愛しているから一緒になったんだ」
その言葉を聞いた木下は計画を変更した。




