異世界探求伝 第六十八話 砦村まつり
小さな村祭りは、ひなびた雰囲気でも楽しいものです。
数日が経ち、収穫祭りの前哨となる砦村の祭りの準備が整った。大袈裟なものではないが、ブートキャンプ期間中でもあり、訓練生を村へ戻す事ができない為に、このブートキャンプ場に仮設のお祭り広場を作る事で、こちらに村人を呼び寄せる事にしたのだった。
かづきのイメージは秋祭りと盆踊りを混ぜたイメージで、広場の中央には物見台を作り、ここには樽で作った太鼓を三つほど設置しておいた。囃子に使う笛は、この地方に伝わる竹の節で作ったフキエという笛があったので、適当に聞かせて貰ったが上手く調子のいい音色であった為に、そのまま使わせて貰う事にした。
綿菓子を作る機械は、意外と簡単に作る事ができた。 中央にブリキで作った缶を置き、穴を適当に開けた中へ黒砂糖から精製したザラメを入れるだけだ。 火力は魔石と魔方陣で温度調整ができるので、一旦温度を合わせると誰でも綿菓子を作る事ができる。 但しコツがいるので何度か実際に作って教え込んだが、面白かったのだろう。 訓練生のみならず、うちの女性陣も揃って大はしゃぎだった。
こうした露店は十五店ほど作ったが、訓練生全員こうした役目を行わせている。 何事も経験だと言い聞かせたが、実際やらせてみると面白がってやっていたのは印象的だった。 夕方から始まった砦村まつりに、かづきは子供の頃に故郷の田舎の村まつりで楽しんでいた、祭りの風景を重ね合わせていたのであった。
「ほら、お前らにも五枚づつあげるから、適当に買っておいで」
「なぁに? 券で買えるの?」
「ミク、これを屋台で渡せば、好きなものがもらえるよ」
「ふーん、じゃ全部制覇しに行こう」
「フフ、食べまくってやるわ」
「ジュリナ、食い意地が張ってるお前には、もう五枚渡しておこう。 但し、枚数の分しか食えないからな」
「え~! ずるい」
「悪いな、無駄なロスは出したくないんだ。 予行演習のつもりだし、食券の分しか作らせてないから」
「ちぇ、わかったわ。 ミシェータも行きましょう」
「ええ、じゃカヅキ行って来るわ」
「ああ、食べて来い。 お前の好きな綿あめは食べ放題だと思うぞ」
「やった~!」
「盛況ですね。 クロサワ殿」
「うん? お前は・・・たしか、ダッグ、か」
「はい、このたびクラークから、いえ、クラーク宰相から監査部の長を任ぜられました」
「そうか、助かるな。 俺に取っちゃお前には恩があるからな、ズナンの街へ行く際には色々助かったよ」
「ハハハ、まさかこのような方と存じませんで、申し訳ありません」
「このようなって、どんなんだ。 だいたいお前がクラーク達と俺を結び付けたようなもんだからな」
「まさに運命の悪戯でしょう。 元々、クロサワ殿には、精霊のお導きがあったのですよ」
「何を話しているのです。 ダッグ」
「ああ、クラークか、いや宰相殿」
「ガハハ、この場はクラークで良い、ダッグ」
「そうか、助かるぜ。 肩がこっちまうしな、いやなにクロサワ殿とお会いした時の話を、ちょいとな」
「ふむ、ダッグからの情報が無ければ、知り合う事も無かったやも知れんな」
「いやいあ、だからさ、精霊のお導きって話にな」
「ふむ、確かに、 あの場をお嬢に預けたからこそ、今があるのだな」
「まぁ、お前達、まだ昔話をするほど時は経っちゃいないぞ」
「ガハハハ、それはそうですな。 今からです」
「ハハハ、ちげぇねぇ、まぁ宜しくたのんます」
「こちらこそ頼むよ、所で祭りの感じはどうだ? 俺の国に小さな祭りをイメージしてみたんだが」
「ふむ、屋台が台車ってのが斬新だな。 移動が便利だ」
「そうですな、この方法なら昼間の商店と住み分けが可能ですな」
「だな、売ってる屋台の品もんも、目新しいもんばかりだ」
「試食は済んだのか? ダッグ」
「いや、まだだが」
「早く行かないと、売り切れがあるぞ?」
「えっ! そりゃヤバいな、じゃ行ってきます」
「ふむ、本番の収穫祭も頼んだぞ、ダッグ」
「ああ、今年は賑やかしくなりそうだ。 ハハハ」
「ダッグが収穫祭の責任者なのか?」
「はい、例年はわたくしめがやっておりましたが、本年度からダッグにと」
「うん、お前のもっかの役目は仕事を減らす事だぞ。 適材適所に配置してくれ」
「はっ、ありがたき、 ところでクロサワ様、祭りが終わってからご相談が」
「ん? 改まってなんだ」
「ズナンの街へ、ご一緒にお越し願えませんでしょうか」
「うん、勿論いいさ。 後で女性陣にも伝えておくよ」
「いえ、特にお伝えしなくとも宜しいのでは」
「ん? なんでだ、収穫祭の件だろ? 集まって考えた方が効率的だぞ」
「いえ、それが・・・女性には不向きな場所でして、お察しください」
「!ん、あ、あぁ、そういう事か。 うーん、黙って行く訳にもいかないしな、どうしよう」
「商工ギルドとの打ち合わせに致しましょう。 いかがですか?」
「ああ、収穫祭だからな、それで行こう」
「では明日夕方、表門でお逢いいたしましょう」
「ああ、了解だ」
今回の砦村祭りは、屋台の予行演習のつもりなのであったが、つい子供の頃を懐かしんで太鼓櫓まで組み立ててしまった。 かづきは櫓に登ると、手製の太鼓をやおら叩き始めていた。 囃子のフキエも調子を合わせてくれたおかげで、かづきのイメージ通りの村祭りが再現できたとばかりに、叩く太鼓の音も一層軽やかに響き渡っていた。
櫓の周囲には人だかりもできており、この地方の踊りなのか櫓の周りを太鼓の調子に合わせて、いつの間にか踊り手たちの大きな輪ができていたのだ。 かづきは太鼓を交代すると、いつの間にかその輪に交じって見よう見まねで踊り始めていた。
本来、まだブートキャンプ中である為に、飲酒禁止だったのだが、本日は無礼講で三杯まではエールなどの飲酒を解禁していた。 中には強そうな酒をあおってそうな奴らもいたが、かづきは今日は見て見ぬ振りをする様だ。 そうしているうちに、夕日も完全に落ちて月も上っていた。
「全員せいれーつ」
『サー! イエッサー』
「白隊班、赤隊班、黄隊班、緑隊班、各自打ち方始めっ!」
実は例の花火だが、|風筒銃《エアプレスガン』に特製の魔石花火を仕込むようにしたのだ。 魔石花火は、ある程度魔力で花火の大きさが調節できるので、火薬で作った花火のように大きくしなくて十分だったのだ。 ちなみに各隊班は隊の色と同じ花火を用意させているので、この四班が交互に花火を打ち出す事で、綺麗に色取り取りの花火を夜空に描く事ができる。
『ヒューン、ドーン!』『ドーン』『ドーン』『ドーン、バチバチバチ』
『オーッ、すんげぇ』
『オォーーッ!』
「うおー、こうして見ると綺麗だな」
「ほぅ、これは素晴らしい、また売り物が増えましたな」
「ちっ、クラークは何でも商売にしたがるな」
「ガハハハッ、当然です」
「ほんと、綺麗ね」
「綺麗だわ、見とれちゃう」
「凄いね、おにぃちゃん」
「ああ、みんなが協力してくれたおかげだ」
「ほーんと、きれぃ」
こうして無事に砦村まつりは、屋台もあわせて盛況で無事終了する事ができた。 屋台の新メニューもおおむね好評のようだ。 砦には今回参加できなかった者もいるが、本番の収穫祭で楽しめばいい。
――――
次の日、いつも通りのブートキャンプを終えた俺は、女性陣に収穫祭の話し合いで、ズナンの街へ行くと告げたのだった。 ついて来るなどと言いそうでヒヤヒヤしたが、各自やる事があるからと、以外にあっけなく了承された。 イヤーカフで連絡を受けると、クラークとダッグが砦の正門前で待っていた。
「馬で行くのか? クラーク」
「はい、馬車だと時間がかかり過ぎるので」
「馬だと、飛ばせば三時間でズナンまで行けますよ、クロサワ殿」
目をつぶり少考したかづきだったが、直ぐに気を取りなして二人に新たな提案を示したのであった。
「三人で走って行こう」
「えっ!」
「私は構いませんが、ダッグが追い付けるかどうか」
「何を言ってやがるクラーク! こちとら現役の冒険者をなめるなよ。 お前こそ事務仕事で体がなまってるんじゃねぇのか」
「ふむ、見くびっては困る。 毎日のお務めはかかしておらんよ」
「そうか、じゃ、馬を返して来よう」
二人は何故、かずきが走って行きたがっているのかの意味を全く理解していなかった。 ただ単に体力作りでも、と思っているのだろう。 かづきは袋から背負子を出すと、それを背中にしょって二人に乗るように指示した。
「ちょっとお待ちください、クロサワ様。 いくら何でも二人を背負って走るなど無謀にもほどがありますぞ」
「ああ、クラークのいう通りだ。 クロサワ殿が気丈なのはわかっちゃいるが、馬でも三時間はかかる道のりだぜ、走っても四、五時間って道中を二人背負ってなんざ無茶にもほどがあるぜ」
「まぁ、無謀かどうかは、少し試してからにしないか?」
かづきはそういうと、背負子を背負って二人に背中へ乗るようにと指示した。 二人はかなり嫌そうにしていたが、やれやれと言った感じで、渋々かづきの背負子に乗り込むのであった。 まだ夕暮れ前の時間なので視界は良好で、最近舗装した道もすでに完成している。
かづきは重力操作で体を軽くすると、下半身中心で全体に身体強化を施した。 以前は足だけを強化していたのだが、それではかえって他の部分に負担が大きく、疲れる事がわかったからだ。 走るには腹筋や背筋も使うし、全体の筋力が必要な事が理解出来たので、何度か練習して要領は得ていた。
「じゃ、ゆっくり行くからな。 振り落とされるなよ」
「ガハハハッ、振り落とすなどと」
「ハハハ、剛毅だねぇ」
「じゃ行くぞ!」
『ダーン』
『!!こ、これは』『う、うッ』
この地の馬は惑星の重力が少ないせいで、地球の馬よりも足は速い。 正確には測ってはいないが、恐らく駆け足で時速50kというところだろう。 つまり、単純に倍の速度で走れば半分の時間で付く計算だ。 道が舗装してあるので走りやすいのもあるし、なにぶん木や岩などの障害物がない事で気楽に走れるのだ。
舗装した道は白い石畳なので、遠くからでも目視が可能になる。 大きな曲がり路だと、小さな森ならば飛んで越えることも可能で、少し走るのに慣れてきたかづきは、さらにスピードを上げ始めていた。 たまに背中を気にしているが、どうやら大人しくしているようだった。
「ち、ちょっとクロサワ様」
「うん?」
「少し停まって頂けますか?」
かづきが停まると、二人はロープを取り出して体を固定し始めた。 どうやら大人しくしていたというよりも、しがみつくのに夢中で話す暇もなかったようだ。 ダッグの顔色が少し青ざめているようであったが、無言なので大丈夫なんだろう。 二人を背負子に固定すると、かづきは再び走り出した。 固定してくれたおかげで、安定度が増したので、さらにかづきはスピードを上げる事ができたのだ。
一時間を過ぎた頃だろうか、元々あった旧街道道に変わってきたようだ。 ズナンの街が目視できる位置に来たので、スピードを緩めて近づき事にした。そうでもしないと、行き交う馬車にでも体当たりしたら目も当てられない。
「ふぅ、ここならいいだろう」
「あぅ、あぅ」
「すみません、クロサワ様、ロープを解いていただけますか? このままだとまるで罪人の様で、なんとも」
「ああ、すまなかったな、ダッグは大丈夫だったか?」
「あぅ、だ、大丈夫」
「しかし、クロサワ様、この魔法は凄いですな。 重さを軽減するのですね」
「ああ、そうだ。 常時発動だから、魔力を気にしてないと駄目だけどな」
「しかし、馬を飛ばしてでも三時間かかるところを一時間足らずとは、なんともはや」
俺達はズナンの街の南門口で、手続きを行うと街の中へと入って行った。 二人はこの町で顔が知られており、首に下がったタグをわざわざ外すことなく、一瞥くれてやるだけで無事に入る事ができた。 大きな荷物が無いのもその理由と言えるのだろう。
「こちらですクロサワ様」
「うん、行こう」
かづきが案内されたのは、この南門にほど近い少し外れた道の繁華街のようであった。 丁度かずきがこの町に流れ着いて時に、立ち寄った酒場の近辺であろうことは大方予想できた。 露店がぽつぽつあり、酒場や宿、少し高級な漢字の衣服があるのもこの周辺の特徴である。
しばらく歩くと、博打などに興じている者をちらほら見かけるが、こちらに気が付くとすぐに立ち上がり、頭を下げてきたが、これはクラーク達の威光なのであろう。 二人は頑丈な石造りの館の前で立ち止まると、中から黒服を着込んだボーイが数人出てきた。
「どうぞ、クロサワ様。 お入りください」
ミシェータ:「ねぇ、これお魚の形しているわ」
モモ:「確かおにぃちゃん、たい焼きって言ってたわ」
ミク:「一つ買ってみましょうか」
ジュリナ「ねぇねぇ、みんなで分かれてそれぞれ買って、分け合いましょうよ」
ミシェータ:「いい提案だわ、時間のロスが防げるし、半分づつで分け合えば色々楽しめるわね」
モモ:「さんせーい」




