異世界探求伝 第六十七話 捕縛と尋問
今回は兵士や警備としても大事な講義になります。
相手を無力化するのが大事な事ですが、その先はもっと大事だったりします。
ブーストキャンプも中盤を過ぎると、いよいよ実戦形式の訓練が多くなる。 今回の訓練生が全て兵士になる訳では無いのだが、兵士や警備兵には更なる模擬実戦が、重要な役割となってくるのは間違いのない事だ。
兵士になるには、体力や戦うための技術は必須項目になる。 更には相手が魔物かヒトであるかでも、状況は変わってくるのである。 今回は『捕縛術』と『尋問』についての実践訓練をおこなった。
捕縛に必要なものは縄が代表的だが、かづきは好んで指錠を使用している。 手錠よりコンパクトで、所持しやすい利点もあるし、後ろ手にしてしまえば豪儀な奴でも、指を千切って抜け出す事もできない、という考えで行っているのであるが、これは正しいのだろう。
魔法のある世界では、縄など簡単に焼き切れるし、縄は袋から出すのにも手間が掛かり、縛りあげるのにも一人では厄介である。 また魔法を使えなくする方法は、口を塞ぐ事も重要だが、それ以上に両手を使えなくする方がより効果的なのもある。
手が自由でありさえすれば、口を塞がれていても巻物や魔道具を使用できるし、武器の使用は言うまでもない。 また捕縛時には基本的に相手を倒した形で行うので、口元にさえ注意を行えばそれで済む話なのだ。
また、魔法縛りの魔道具もあるので、これを首に巻いておけば魔法を唱える事もできなくする。 構造は至って簡単で、首輪に描かれている魔方陣で魔力が集積出来なくなり、魔素が散らされるのだそうだ。 無理に外そうとすれば首が締まるので、気が付いたら気絶しているという事にもなる訳だ。
かづきの考えでは、魔法は脳で考えて発動させるもので、そこから体内の魔力を使って手で発動するというものだ。 理論付けで考えれば、足や別な場所でも発動できるはずだが、この世界の人々は手から魔法を発する事しか習っていないので無理なのだそうだ。
一応かづきも首輪をしてみたが、手からは全く発動しなかった。 いや、発動はしている感覚はあるが、具現化することはできないのだ。 しかし、試しに口から風魔法を発動させてみたら、やはり発動してしまった。 舌先に魔力を込めてみたのだが、案外上手くいくものだ。
ミシェータしか居なかったので、これは機密事項にして貰った。 ミシェータは、魔道具に穴がある事がはっきり判ったのと、俺の相変わらずの破天荒ぶりに、あきれ果てていたのは言うまでもないだろう。 次は目から光線でも出して驚かせてやろう。
話は脱線してしまったが、訓練の続きを見てみよう。
捕縛で必要なものは、先程説明した魔法を使えなくする首輪の『魔導輪』と『指錠』で、万が一舌を噛み切らないように革製の『猿ぐつわ』もある。 そして大事な事は、相手を地面に説き伏せる事である。 これは幾度となく体術の訓練で学んだ応用なので、後は慣れるだけだ。 二人一組での型稽古で訓練を行い、体に染みつかせてもらう。
尋問は講義で行うが、尋問と拷問は似て非なるものである。 精神的な攻めが尋問であり、肉体的な攻めが拷問であるとも言えるだろう。 さすがに倫理的な問題もあり、拷問の授業を行う事は憚られたので、尋問の講義をしっかりと教え込む事にした。
かづきが何故尋問に詳しいのかと言うと、企業スパイや怪しい者に対処した事が何度もある為だ。 それに会社が実際に訴えられて、裁判にも立ち入った事もあるし、戦争物の映画は好きで見ていたせいもあり、知識は十分にあったのだ。
「尋問について理解して居るものはいるか?」
「サー! 白隊班ドラウトであります。 尋問とはこちらに対して、相手に有用な情報を引き出させる事であります」
「うん、ドラウト君の言う通りだ。 ではどうやれば、相手にその有用な情報を引き出す事ができる?」
「はい、脅すのが一番かと存じます」
「では、脅かしが通じなかったら?」
「はっ、相手の弱みを握ります」
「それでも屈しなかったら?」
「えっと・・・そのぅ」
「サー! 緑隊班ザジオであります。 あに、いえクロサワ教官殿、そんなの簡単です。 指の爪を一枚づつ剥がしゃぁイチコロでさ」
「おい、サジオ、お前は尋問と拷問の意味を判ってないな」
「そりゃ判ってますが、そっちが早いでしょ」
「いいか良く聞けサジオ、これは拷問の講義じゃないぞ。 あくまでも尋問の講義だ」
「は、はい。 失礼しました!」
『アハハハハハ』
「皆良く聞け! 拷問は人を苦しめる。 苦しんだヒトは苦しめた奴を忘れないし、許しもしない。 拷問を否定はしないが、あくまでも最終手段だ。 俺の考えでは、拷問好きな奴は尋問が下手だと言っている様なもんだ」
『サー! イエッサー』
「では、続きを行うぞ、尋問方法についてだ」
かづきは尋問の方法について、理解している事をのべつ幕なしに説明し始めた。 尋問は一対一でやる事もあるが、複数尋問も良くある話だ。 例えば盗賊の一味を捕まえて、全員を吟味しなくてはならない事もある。 誰が真実を言って誰が噓をついているのかを、見極める目も必要になってくると言うわけだ。
尋問は基本的に聞き取りから行われるが、聞き取りは大事な情報源だ。 こうした尋問は裁判で行われる尋問とは、全く異なるものだが真実を暴くという一点については、全く同じとも言える。 ようはいかにして、その貰ったソースから真実を吟味できるのかにかっている。
尋問の種類は基本尋問、証人尋問、交互尋問、不審尋問が挙げられる。 『基本尋問』は、相手の人物をまず特定する事から始まり、容疑について相手に理解させたうえで、真実を引き出さなければならない。 相手が犯罪を犯しているのであれば、その罪の大きさを、そして理解していなければ、どんな容疑が掛けられているかを知らせる義務もある。
最悪なものは尋問者の思い込みだ。 ある程度予想立てして尋問を行うのは正解であるが、一つ歯車が狂うと見当違いな結果にもなりかねない。 しかし、相手が真実を表に出さないで、しらばっくれる事がある。 こうした時は証拠を見せる必要があるが、それは「モノ」であるとも限らないし、人である時もある。
人が証拠になり得る場合には『証人尋問』も行われる。 相手は容疑者の一味ではない場合もあるので、ひどい扱いは出来ないが、真実を吐き出させる意味合いでは、これも同じく尋問である。 上手く証人から情報を引き出させても、容疑者がしらばっくれる場合もある。 こうした場合は交互尋問を行う事がある。
『交互尋問』では、お互いでどちらが真実を述べているかを確かめ合う場だが、ここで新たな真実が出て来る事もあるし、切羽詰まって大嘘が出てくる場合もある。 これも見極めが大事な要素になる。
『不審尋問』だが、これは挙動不審者を見つけた時に行う方法である。 基本的に『人定尋問』と、行動理由を聞きだすのだが、相手がクロだと逃げ出す恐れがあるので、注意が必要である。 相手が逃げきれないと知ると、反撃を食らう恐れが一番多いのも、この不審尋問の特徴である。
相手が自由である為に、どんな事を行って来るかの判断も難しく、出来れば一人で対処するのは避けたい方法である。 今回は基本尋問を実際に行って貰う予定である。 わかりやすく教え込む為に、『チーム龍』女性陣の誰かに犯人役をして貰い、これをかづきが尋問する形を取らせて貰った。
設定はこうだ。 犯人は盗賊に扮し、人を殺して硬貨を巻き上げた。 足がつくのを恐れてか、証拠になるような装備品は盗まなかったらしい。 死体役は商人に扮した、ベルミになって貰う事になった。 食事中に襲われたという設定だ。 調書は保険医もどきのジョアンヌにやって貰う。
容疑者はミシェータ、ジュリナ、モモ、ミクの四人だが、このうちの一人が犯人役で、誰がなっているのかはかづきは知らない。 この四人は死体の近くで見つけた発見者という事になっている。 この容疑者四人を一通り尋問していき、最後に犯人を指定してそこで正否を知らされるという、ゲームのような方法だ。
「先ずは貴女から話を伺おう。 名前と年齢、そして種族名と職業をを教えてくれ」
「ミシェータ・アベルニキュアよ。 歳は18、見た通りのヒューマンだわ、魔導具を作ってるわ」
「そうか、では発見時の事を教えてくれないか」
「そうねぇ、焚火が見えたから人がいると思って、でも寝てたみたいだから、戻ろうとしたの」
「ふんふん、それで?」
「そうしたら男がうつぶせで、倒れて血が流れてたの」
「そうなのか」
「ええ、で、死んでるみたいだから、急いでその場を離れたのよ」
「何故ここへ連れて来られた?」
「何故って、それは近くにいたから、不審人物と思ったんでしょ」
「なるほど、焚火は燃えていたんだよな」
「ええ、赤々と燃えていたわ」
「男はうつぶせて倒れていたのに、何故死んでると思った?」
「そうねぇ、血が出てたし後ろから刺されたんでしょ」
「何故後ろから刺されたと?」
「商人だからお金を持ってると思ったんでしょ」
「何故商人って判るんだ? 商人なら後ろから殺るのか?」
「お食事中だったから、食べるのに夢中で気づかれにくかったからじゃないのかしら」
「何故、食事中だと?」
「そりゃ、焼いたヤマドリを食べてたからに決まってるでしょ」
「何故ヤマドリだと?」
「骨が落ちてたでしょ。 あれはヤマドリの骨よ」
「ふむ、お前は猟師でもないのに、骨だけで判別できるのか?」
「ヤマドリくらいは判るわよ」
「小動物なら、ウサギやトカゲもいるはずだがな。 まぁいい下がってよし」
――――
こうしてかづきは、順番に四人の容疑者の取り調べを行った。 すべての取り調べを行った後、怪しいと思われる者の背後にそれぞれ立って貰う事にした。
「さて、ここに集まった四名は、全てこの商人の殺害者ではないという事でいいんだな?」
「わたくしは、全くの無関係よ」
「私もこんな人知らないわ」
「たまたま通りかかっただけだよ」
「しゅ、しゅりません」
「そうか、だがあんな時間に現場をうろついていたのは、お前たちの罪だ。 よって罰金刑に処す」
『えぇー』
「ふむ、一人罰金として、銅貨一枚をこの桶に入れよ」
「あら、超安いのね」
「あれ? おにぃちゃん、犯人捜しは」
「フフッ、ばかねぇカヅキが私たちに向かって、そんな酷い事しないわよ。 直ぐに見逃してくれるわ」
『えぇー』
「全員黙れ! お前達もさっさとしろ」
『はーい』
容疑者役の四人が、それぞれに用意された水入りの桶に罰金の硬貨を入れると、おもむろにかづきが声を高らかにこう告げたのだった。
「犯人はミシェータ! お前だ」
「えーっ、もう罰金刑で終わったんじゃないの?」
「ふふ、馬鹿め、この商人は油売りで、この油売りが持っていた硬貨は油でまみれていたのだ。 従ってその硬貨を持っていたのは貴様だ! このタレ目の殺人犯め」
「ひっどーい! カヅキ」
「こら、ここではクロサワ教官か、先生だと言ったろ」
「あたしじゃないわよ! クロサワばか教官!」
「ばっ、馬鹿だとぉ! このタレ目女め」
「ひどい! 許せないわジュリナデリカ、この馬鹿をどうにかして頂戴」
「かっ、カヅキ、犯人役は私なのよ。 なべの木ぶたの隙間にナイフを仕込んで、それで刺したって設定だったの。 返り血は蓋で防げたし、証拠隠滅は木ぶたを焚火で燃やせば隠せたわ」
「え-っ!? それでミシエータが見た時は、焚火が燃え上がっていたって事なのか。 でも何でミシェータが油にまみれた硬貨を持ってたんだ?」
「えへへ、お腹空いてたから、ヤマドリの残り食べちゃったぁ」
「それで手に油か・・・ で、ジュリナの硬貨には何故脂が付いてないんだ?」
「アハ、だって私のお財布から出したんだもの。 証拠の硬貨の入った袋は、なんかバッチくて触るの嫌だったんだもん」
「くっ!」
「コホン・・・えーっ諸君、今の茶番を見てお判りのように、えん罪はこのようにして起こるのだ! 心して尋問を行うように、わかったな」
「サー! 黄隊班ギズリであります」
「んと、ミルンの兄だったな」
「はい、ただいまの講義は、全て最初からの筋書きだったのですか? えん罪というものを理解させるための」
「あ、あぁ、もちろんさ、なぁお前達」
『・・・・・・』
『ちっ、また美味いもの作ってやるから』
『わたくしはあの暴言、許しませんわ』
『悪かったよミシー、何でも償うから許してくれよ』
『・・・何でも言うこと聞く?』
『一回限りだ、但しできる事だけな』
『ふふ、わかったわ』
「みなさーん、クロサワ教官は、えん罪の怖さを思い知らせるために、この筋書きを作ったのですわ。 尋問は決して思い込みで行ってはならないという教訓は、これでおわかりかしら?」
『イエスマム! わかりました』
「コホン、えー、尋問の行程で大事な事は三つだ。 まずはじっくりと相手の話を聞く事、次にその話の中で穴を見つける事、その穴を徹底的に探る事でほころびを見つけられる事があるから、今度はそこを徹底的につくんだ判ったな」
『サー!イエッサー』
「本日の講義はこれで終了だ。 各々解散!」
久しぶりに冷や汗をかいたかづきであったが、ミシエータに大きな借りを作ってしまったようだった。
ミシエータ:ったく! プンプン
ジュリナ:随分嬉しそうね。
ミシェータ:えっ、どこがよ。
ジュリナ:顔がにやけてるじゃない。
ミシエータ:だって、カヅキを自由にできる権利を持てたのよ?
ジュリナ:!? 一回だけよ? いい一回だけ
ミシェータ:フフーン、何に使おうかしらね




