異世界探求伝 第四十四話 下準備
忙しくてかけない日が続いていますが
コツコツやります。
かづきは、『イヤーカフ』でクラークへ連絡を入れると、仮事務所へと向かった。
この通信機の連絡だけでは何か味けなく、直接礼も言いたかったためだ。お互い忙しい身の上ではあるが、かづきにとっては大事なパートナーでもある。
「やぁ、クラーク、色々サポートしてくれて助かってるよ」
「ガハハ、何のこれしきの事、カズキ様の忙しさに比べれば、ほんの些細な事でございます」
「どうだい? 今から夕飯でも」
「いやはや、行きたいのはやまやまですが、この有様ですので・・・」
見れば机の上には、山ほどの書類が山積しており、クラークの部下たちも必死に書類とにらめっこをしている。かづきは、苦笑いをしながら、明日からズナン山へ行く旨を再度伝えたのだった。モモが簡単に日程や行動先をメモしてくれていたので、それもついでにクラークへ差し出した。
「たった3人で行かれるのですか?」
「うん、そのつもりだが、いけないか?」
「そうですな、ズナン山の森は比較的攻略し易い森ですが、万が一のことを考えて警備隊を付けて頂きたい」
「警備隊か、まぁいいだろう」
クラークはホッとした表情で、指令所を書き始めたが、書きながらも本音を漏らしていた。
「本来は敬語の意味もあるのですが、警備の者には戦闘経験を増やしていただきたいのです」
「あらら、俺たちの身の安全を心配してくれてたんじゃないのか」
「ガハハ、どの面下げていいますのやら、5名程お付けしますので宜しくお願いします。 馬車の手配は整えておきます故」
「ああ、わかったよ、なるべく戦闘は奴らに任せるとしよう」
「そうして頂けるとありがたいですな」
話が一通り済んだので、女性群を連れて早速厨房へ腹ごしらえに向かったのだった。
ペンネを見つけると、早速お弁当の依頼をしたのだが、これにも依頼書が必要らしい。自分で決めたシステムなのだから、文句を言う筋合いはないのだが、ロスを防ぐ為にも地道にやっておかなければならない。
「クロサワ様、シャボンの具合を見て頂けますか?」
「ああ、そう言えば頼んでいたな。 料理と違う事頼んで悪かったな」
「いえいえ、このリザードボアからは大量の油が採れるので、処理に困らなくて済みます」
「えっ? シャボンって私のワキザシの事ですよね? おにぃ様」
「ん? ああ、これは石鹸を作ってるんだ」
「セッケン、ですか」
「ああ、体を洗うやつさ」
ペンネが案内してくれた先には、小屋があった。ここで作業をしているらしい。
「とりあえず、教わった配合で5種類作ってみましたが如何でしょうか?」
ペンネが小皿で出してくれたものは、スプーンで掬えるくらいの柔らかいものだった。
おれはバケツを借りて、一つずつ匂いを嗅ぐと、水を混ぜて練ってみた。 さっき風呂に入ったばかりだから汚れ落ちの程度がわからなかったので、油汚れの皿を持って来て貰って、一つづつ洗ってみた。今使っている皿は、木の皿なので油まみれだとツルツルしていて、自然な艶が出ているし、水に触れると大層滑りやすいものだ。
一つづつ布に石鹸をつけて洗ってみたが、うん、いい感じで油が抜けている。さっきまでツルツルしていたが、洗うと手に吸い付くように油が取れているようだ。どれも良い感じだが、一番固めのものを第一候補としようと思って、ふと横を見ると女の子たちも同じ様に洗って試している。
「おにぃ様、これ凄いですわ」
「うん、おにぃちゃん、油が落ちてる」
「ほう、どれどれ」
ペンネも参加した様だが、実験は成功の様だ。 しかし、まだこれだけでは足りない。 油汚れは落ちたとしても、洗濯に使うにはそれなりの漂白作用が認められなければ、実用化はできないのだ。
「ペンネコック長、この固めの2種類を四角い枠に流しておいてくれ」
「はい、畏まりました。 してこの後は乾燥させるのですよね?」
「ああ、長持ちさせるための手段だ。 それに持ち運びにも便利だからな」
「カヅキ、これ、セッケンだっけ? いいわね。 かすが出ないし、お洗濯が楽になりそう」
「ああ、ジュリナ。 サボンの木だっけ? むくろじの実とかも使ってたよな」
「ええ、水で濡らしたサボンの木の実を棒で叩いて、その汁を使ってたわ」
「そうか、 じゃ、後の石鹸で同じ汚れの布で洗ってみてくれ」
「ああ、カズキ様、厨房では汚れたふきんが大量に出ますから、お任せください」
「ああ、そうだな。 じゃ汚れ落ちを試して見てくれ」
「はい、後程ご報告致します」
「それから、南の工房にはまだ空き家があるよな。 そこに石鹸工房を作っておいてくれ」
「はい、畏まりました」
俺達はその場を片付けると、ペンネに後の事を頼み食堂へ向かったのだった。 ビュッフェ形式はやはり良い。これだけの人数が食事をするのだから、健啖家のものもいるし、ただの大食いの者もいる。 しかも種族で食べられないものがあったりするので、こうした形式の食堂は皆満足してくれているようだった。
中には、酒が好きなだけ飲みたいという奴も居るようだが、ここは職場の食堂として運営されているので、一人エール3杯までと決められている。 そのうち不満も増えるだろうから、別棟で飲み屋でも作らなければならないだろう。 それに女も必要だ。 今は新たな仕事で夢中にやってはいるが、これが安定すると遊べる場所は、息抜きの場所としても必要不可欠なのである。
俺は食事の傍ら、メモを取りながらあれこれ思いついたことをメモしていく。 いつの間にか俺の両脇には、モモとミクのコンビが居付いているが、ジュリナとミシェータは文句はない様だ。 各自食事も終わり、デザートのシャーベットを食べ始めている。 この食堂のシャーベットは、男女に限らず大人気の様で、俺が教えた梨のシャーベットの他にも、色々なシャーベットを作っている。 そのうちアイスクリームも教えてやろうと思った。
「あー、食った食った。 じゃ後は帰って残りの作業でもするかな」
「そうね、私とミクは今大詰めだから、がんばるわ」
「わたしはジュリナデリカお嬢様と、明日の用意をしておきます。おにぃちゃん」
えらく聞き分けの良いお嬢さん方だったが、帰る場所は同じミシェータの工房である。 俺はベアリングの型を作るつもりなので、その段取りを見据えて考え始めたのだった。 俺は部屋で精神を統一すると、早速水球を小さく作って、それを凍らせてみた。 うん、良い感じだ。 元々の形を知っているので、こんな単純な形であれば問題なく作れる。
俺は粘土を木枠に伸ばすと、細い木の棒を一つづつ差し込んでいき、10種類に分けて小さな玉を作って、はめ込む作業に没頭したのだった。 木の棒を差し込んでいるのは、そこから鉄を流し込む為である。 注入口は勿論、漏斗の様に広く作ってある。 型は氷なので、溶けたら穴からこぼすだけなので簡単にでき上った。
この時間なら、まだガスドが居るかもしれないので、出来た型を収納するとガスドの工房へ行く事にした。結果・・・居なかった。 もう夕食時なので、今日はもう終了なのかもしれない。 そう思いながら歩いていると、バーグハムの工房も同じ鍛冶屋である事を思い出した。 バーグハムの工房へ行くと、良かった、まだ居たのである。 彼は鍛冶屋でもあるが、鋳型作りの職人でもあるのだ。
「やぁ、バーグハム、まだやってたか」
「ああ、こりゃクロサワ様じゃねぇか」
「飯は食ったのか?」
「ああ、くったさ。 ちっと急ぎの仕事でな」
聞いてみると馬車で使う金具と、蹄鉄を総出で作っている様だった。 しかし、親方は別なものを作っている様だ。 細い鉄の棒を手でもって、あれこれ考え込んでいる。
「どうしたんだ? バーグハム」
「おっ、 そういやぁクロサワ様が居たっけな。 実はこの間の話のつながりで、ネジを作る事になってな。 あと六角のナットちゅう奴だ。 今やってる金具が落ち着いたら、それを作ろうと思ってるんじゃがな・・・」
「ああ、そういう事か」
あの時は、簡単な説明ばかりだったので、深くは説明してこなかった。 性格によってはこのバーグハムのように、一人で抱え込む者がいるかもしれないから、気を付けなければならない。 かづきは紙に簡単な図形を描くと、バーグハム親方に説明を始めた。
「まずは、タップ作りから始めるといいぞ」
「タップ?」
「ああ、このタップを使って、ボルト作りのダイスを作るんだ」
「ボルト? ダイス?」
おれは絵を見せながら、詳しく説明していった。 タップは棒状のもので、ネジの様に斜めに歯が付いている。 これを回す事でナットのネジ穴を作る事が出来る。 また、ダイスも作れるが、このダイスは基本の工具で刃が付けられていて、棒状の金属棒をこのダイスで回して行く事でボルトが作れるわけだ。
「成程、固い金属でタップとダイスを作るんじゃな。 これが基本の型になる訳なんじゃ」
「ああ、 ガスドの所で鋼鉄を作ってるから、それを分けて貰うといい」
「おう、助かるぜ」
「先に注意しとくが、最初の大事な工具作りはタップだが、これは手作りになるから刃のように切れるヤスリが必要だぞ。 それも鋼鉄製で作るといい」
「へっ、そっからかい。 まぁいいさ、目星が付いたならするが早いぜ」
「それから、タップが完成してから火入れをしないと、柔らかいままだと刃が潰れるぞ。 その後ヤスリで微調整するといい」
バーグハムは、言われたことをメモ書きして、早速試作をするようだった。 職人だから明日やれといっても聞く耳は持つまい。 しかし、俺も用事を済ませないと居られないのは同じだった。
「悪いがバーグハム、先にこいつの型を作りたいんだが、やってくれるか?」
俺は、例のベアリングの型をいくつか取り出すと、バーグハムに説明を始めた。 このベアリングさえ出来てしまえば、ドリルや旋盤とかの工具も出来るから、仕事が早くなると伝えると、親方の目の色が変わったのだった。
「おし、貸せ」
親方は、溶けた鉛を型に流し込むと、次々と型を完成させていった。 ついでに型はいくつの必要だからと言って、その出来たばかりの型を外すと油の中で冷やし、新たに年度予用意すると次々と量産を始めてしまった。 俺は呆気に取られてみていたが、気がかりな事を思い出して、後はバーグハム親方に任せてお暇する事にした。 出来たベアリングの型は、後で届けておいてくれるそうなので、肩の荷が少し下りた気がしたのだった。
――――
「おーい、生きてるか」
今日の今日で、死んでいるはずもないのだが、結界に入れっぱなしで閉じ込めているので、なんだか申し訳ない気分になっていた。 俺はどちらかというか猫派なのだ、ネコは犬と違って言う事を聞かないだとか、芸が出来ないというが、そうでは無い。 ちゃんと言う事も判るし、犬ほどではないにしても、芸も出来るのだ。
「おーい、ネコ居るんだろ。 ここには俺しか居ないから出て来ても大丈夫だぞ」
俺は穴の中を覗き込んだが、確かに気配はある。 こちらの様子を伺っている様に見える。 威嚇の声は聞かれないが、警戒の手は緩めていない。 勿論野生のヤマネコと同じなのだから、当然といえば当然である。
俺は手をかじられないかと一声かけながら、おどおどしながら手を中に入れると、餌がと水が入っていた木の器を引っ張り出した。 水は残っている様だが、肉は綺麗に食べている。 おなかがかなり空いていたのだろう。 あれから時間もかなり経っているので、餌を追加で入れる事にした。
「おい、ネコ、 今餌をやるからな。 噛むんじゃないぞ」
俺は極力刺激を与えないように、ゆっくりと水と餌の容器に中身を入れると、穴の中へ放り込んでおいた。
「また明日来るからな、大人しくしていろよ」
後は、誰も来ないように結界も張り直すと、この場を後にしたのだった。
俺は頼んでおいたお弁当を取りに、食堂へと足を向けた。 朝早くの出発なので、特別に早起きして作って貰う訳にはいかないし、俺には特製の収納袋もある。いつでも出来たてなのだから、早めにキープしておこうと思ったのだ。
「やぁ、皆さんお疲れさま」
「ああ、これはクロサワ様、お弁当ですね。 サンドイッチですが、多めに作っておきました」
「凄い量だな」
「はい、 サンドイッチ20人前に、パンと、シチューも用意しておりますが、本当に鍋ごとで宜しいんですか?」
「ああ、構わないぞ」
俺は手早く収納袋に詰め込むと、食堂のコックたちはニコニコ笑っていた。 またいい獲物が取れたら持って帰るから宜しくな。
「はい」「お気をつけて」「頑張ってくださいね「いってらっしゃいませ」「武運長久を」
「ハハハ誰だ、おおげさな。 じゃ行ってくる」
俺は頂きものに心から手を合わせると、厨房を後にしたのだった。
次回はズナン山です。




