異世界探求伝 第四十二話 迷い込んで来たモノ-2
迷い込んで来たもの、続きです。
ひょんなことから、一匹の迷いネコがこの砦に紛れ込んでしまっていた。
砦の人々は、小さいとはいえ魔獣なので、これを排除しようと警備隊が集まっての大騒ぎをしていた。 しかし、これを見て不憫に思ったかづきは、何とか助けようと一肌脱ぐのだった。
「ネコならモモが何とか出来ないのか?」
「えっ? 私ねこじゃないもん」
「猫獣人だろ」
「猫チガウ! おにぃちゃん嫌い」
そう言えば、ジュリナに教えられていたんだっけ、ふくれっ面になったモモの頭を撫でて「可愛いから」と、とりあえず言ってみたらどうやら機嫌は直ったらしい。
たまに飛び出して来るネコを観察すると、以外に大きい。地球の家猫の倍以上はあるだろうか。薄茶色に黒縁の楕円模様があるので、ヒョウかジャガーのようだ。 この大きさなら人に危害を加えられるだろう。
「なあ、みんな。 悪いがここは俺がやるから、解散してくれないか。 大人数で見てるとますますアイツが興奮するばかりだし、この砦は一旦入ると逃げられないから、追い立てるのも無意味だと思うぞ」
俺の言葉で、皆は渋々解散して行った。 警備隊の連中も「ほんとにいいんですかい」と言いながらも、元の持ち場へと戻って行ったのだった。
「カヅキ、どうやって捕まえるの? ジューで撃ち殺す?」
「ああ、わたしやりたい!」
二人とも殺る気満々なのだが、俺は意味わからん。 温厚な民族性なせいなのか、殺る気などはサラサラ無いのである。 俺はとりあえず、二人に黙って見てもらってくれと頼み込んだ。
石材を積んでいる場所を見ると、20㎝四方の穴だった。 勿論、無理やり捕まえる事は可能だが、俺は出来るだけ優しく接してやりたかったのだ。
その時昔のダチだった、羽川誠の事を思い出していた。 あいつは社会を異様に憎んでいた。 少し普通と違う事をすると、大人たちに押さえつけられる。 そんな行動が多くなると、今度は近寄らなくなるどころか、爪はじきにされていた。 誠はそんな奴らを集めて、自由な社会を求めて反抗していたのだ。 族名「ランド・ビー」もそうやって付けたらたらしい。
俺が彼に出会ったのは、他の族同士の抗争中の真っただ中であった。 同じ爪はじき同士が何故やりあうのかって? それは、本音を言えばお互い恥ずかしいからなのだ。 あくまでも不良の集まりなので、綺麗ごとなどは言えないでいるのだ。
「同じ考えを持つ者同士、力を合わせて大人たちを打倒して行こう!」などとは、腐っても言えないのが不良なのだ。 おのずとそれで力と力の潰し合いで、勝った方が主導権を握る。 そんな単純な方法でけりをつけて来た。
誠たちが、相手の連中をのして勝負がついた時に、丁度俺はその場を通りかかった。 興奮していたのだろう、誠の仲間の一人が「てめぇ、あにみてんだよお」と、定番のセリフを口にしたので、俺はついつい目が笑ってしまったのだ。 誠の逆鱗に触れたのはその瞬間だった。 俺はいきなり襲い掛かって来た誠の腕をからめとると、そのまま背中から受け身が出来ないように落とした。 続く仲間達四人も、急所を狙って戦闘不能にしたのだった。
しばらく経ったあの日、俺は街をブラリとふらついた後に、小さな公園のベンチに腰掛けていた。 あの男には見覚えがある。 どこかの奴らにやられたのだろうか、服はボロボロで顔には痣が出来ていた。 俺は何となく彼に近づいていた。 誠は俺の顔を思い出したようで、こちらを睨みつけて来たが、おれが「どうした?」と声を掛けると無言で、遊戯具の陰に隠れたっけかな。
俺はジュースの販売機にコインを入れると、二本のジュースを取り出して、彼のそばにそっと置いた。 お互い何を言う事も無く、数時間が経っただろうか、彼は黙ってジュースを開けると「ぬりぃ」と文句を言っていた。 俺は「それはお前が早く飲まないからだろ」と笑ったが、彼は押し黙ったままだった。
またしばらくして、誠と一緒につるんだ仲間たちと出会う事になる。
「よぉ」
誠は笑いもせずに俺に話しかけて来た。
「おお」
俺も笑いもせずに、応じただけだったが、以外にも誠の方から更に話しかけて来たのだ。
「お、この前はありがとな。 サテンで茶でもどうだ?」
「うーん、そうだな。 ミツドで新商品が出たらしいから、行くかな」
「へっ? ミツドだと、そんなナンパなとこ行くわけねぇだろ」
「そうか? でも、俺は行くぞ」
黙って後を付いて来る奴らがとてもおかしくて、つい笑ってしまったが、それに釣られて誠もついに「プッ」と噴き出してたっけ・・・
かづきは昔の事を懐かしく振り返ると、大人になってからの事も同時に考えていた。 暫く物思いにふけると、若い頃の様に自然にふるまおうと決心したのだった。
かづきはゆっくり地面に腰を下ろすと、穴の中の魔獣に向かって言い含めるように、声をかけてみる。
「なぁ、おまえ。 さっきの凶暴な奴らは居ないから安心していいぞ」
「フー、グルルゥ」
返事はあまり芳しくないものであったが、俺は収納から木の器を取り出すと、そこへ冷たい水を入れて穴の中へと押しやった。 続いて、いつかのデアホーンのレバーを適当に切ると、もう一方の木の器に入れてみた。 適当に切ると塩を振ってオイルを垂らすと、その場で「クッチャクッチャ」と食べだした。
「おい、モグモグお前、腹減ってんだろ? 早く来ないと無くなっちまうぞ、モグモグ」
「フゥー」
俺は、それ以降は黙って石に凭れ掛りながら、ゆっくりと生レバーの切り身を咀嚼していった。
「うん、うまいな」
少し離れた場所で、それを見ていたジュリナが、こちらへ来そうなのをモモが抑えている様だ。
「ガタン、ビャシャン」
何やら、先程入れた水の器がこぼれている様だったが、俺は素知らぬふりを決め込んでいた。 そのうち水を飲む音が聞こえて来て、俺はレバーの器も穴の中へと押し込んでやった。
しばらくすると、気配が近づいて来た。 肉を一切れ噛みつくと、そのままズルズルと中へ引っ張って行った様だ。 中から少しして食べている音が聞こえて来た。 何度か肉を引っ張る音が聞こえてきて、そのたびに咀嚼の音が聞こえてきたが、そのうちまた水を飲む音が聞こえて来ると、満腹して安心したのか音がしなくなった。
「おい、おまえ、まだ腹が減ってるのなら『ニャン』と鳴け」
「フウゥー!」
「フーじゃないニャンと鳴け、さもないともう餌を恵んでやんないぞ」
しばらくして、奥から小さな声で「ニャ」と聞こえて来たので、おれはもう一度声を掛けてみた。
「いいか、今からさっきの皿を取り出すから、噛むんじゃないぞ」
そう言いながら二つの器に水と、今度はデアホーンのあばら肉を小切りにして入れると、再び穴の中へ押しやると、一声かけた。
「いいか、後でまた餌やりに来るから、ここで大人しくしてろ。 人を襲ったりしたら命が無いと思えよ」
俺はそう言い残して、この範囲に結界を張っておいた。
「さぁ、ジュリナ、モモ、行こうか」
「えっ? このまま放っておくの?」
「ああ、餌があるうちはここから離れたりしないだろうし、結界張ったから」
「どんな結界?」
「そうだな、人が近づけない結界だ」
「ええ? どんななの」
そう言いながら、ジュリナが結界に近づいて行った。
「キャー」
「お嬢様大丈夫ですか?」
尻もちをついていたジュリナをモモが引っ張り起こすと、ジュリナは目をいからせて俺に噛みついて来た。
「何よあれ、怖くて近づけないわ。 死ぬかと思った」
「どうしたのですか? お嬢様」
「うーん、何ていうか、得体が知れない場所に引きずり込まれそうだったわよ」
「ハハハ、そりゃ効果抜群だな」
「もう! 笑い事じゃないわよ」
俺は、底なしの穴をイメージしながら結界を張ったのだった。 効果のほどは、どうなるかはいまいち理解していなかったが、ジュリナの様子ならだれも近づけないだろう。 後は、時間を置いてここへ再び来る事にする。 俺達はこのまま、鋳掛彫金師のハグネット工房へと向かう事にした。
「やぁ、ハグネット」
「ああ、お待ちしておりましたカヅキ様」
「早速、出来上がったものをご覧頂きたいのですが・・・」
ハグネットはそう言いながら、貴族用のナイフ、フォーク、スプーンと、デザート用のフォークとナイフ、それから、料理の盛り付け用の皿を出して来た。どれもが丁寧な飾りを施した逸品ものであり、銀製である。 かづきはひとつづつ丁寧に、布で手に取り使い具合などの機能性や、彫金の仕上がり具合を見聞していた。
「ど、どうでしょうか」
最初は自信満々に、これらのものを並べては、ここが苦心しましただとか、このデザインは素晴らしいものでしょう。 などと言っていたが、カヅキが熱心に一つ一つ大事そうに見ているのを、今度は不安そうに聞いて来たのだった。
「うーん、一応聞くが、銀食器を使うのは毒を警戒しての事だろ?」
「は、はいカヅキ様、王侯貴族はなにぶん疑利深く、兄弟でも家督争いで毒殺などがありますので」
「そうか、何処の世界でも同じだな」
「え?」
「いや、気にしないでくれ、こっちの話さ」
ハグネットは、不安そうな表情を浮かべながら、俺の仕草を目で追っていた。
「そうだな、デザインはいいな。 銀の含有率はどうだ?」
「はい、クラーク様から指示されたように、銀92,5:銅7,5の割合です」
「そうか、比率は絶対だから、これは守ってくれ。 それから龍のロゴの脇に品質保証のしるしの刻印を入れてくれ」
「品質保証、ですか」
「ああ「SL925」と入れてくれ。 大きさは眼に見えるほどで良い。 これは銀の含有率を表すものだ」
「なるほど」
かづきはメモに刻印の数字を書き込むと、ハグネットにそれを渡した。
「それで・・・出来栄えの方はいかほどでしょう」
ハグネットは辛抱できずに、かづきに聞いてしまうが、これは無理もない。 かづきは表情一つ変えずに、出来上がった試作を見ると、布の前にぶっきらぼうにただ返しただけだったのだ。 腕に自信のあった彫金師のハグネットであったが、この無反応さに不安度は最高調だったのだろう。
「そうだな、デザインは良いが、彫金には決定的な弱点があるな」
「は、な、なにを」
ハグネットは、自信作を否定されたように感じて、ショックを隠し切れないようでいた。 かづきもハグネットに関しては、勿論いい腕の鋳物彫金師だとは解っていたが、人は壁が無いと上へは進めないのも事実なのだ。
「逸品ものとは感じないな」
「一品ものですか」
「秀逸なもの、つまり洗練されていないって意味だ」
スプーンは、言われた通り植物の葉をデザインした縁取りだが、皆同じ形でバランスは取れている。 だが、それでは面白みに欠けるのだ。 さらに幅の広い柄の部分は、花屋でも良く見かけるバラの構図だが、単に咲いているだけのバラだ。 裏を見ると同じような構図で彫られている。
「そうだな、えっとズナンの町の領主は誰だ?」
「領主はルンデリック伯爵様だよ。 おにぃちゃん」
「ああ、そう言えばそうだった」
「おにぃちゃん、忘れんぼだしねー」
見ているばかりで、口を出す事も無かったモモが、ここぞとばかりに口を開いて来たのだ。
「そのルンデリック家の家紋は、どんなかわかるかな? モモ」
「印章の事ね。 うん、待っててね」
「ルンデリック家の印章は、馬ね。 ルンデリックは戦場で騎兵で戦功をもたらして、今の地位にあるみたいね」
「それは、史書みたいなもんか?」
「うん、この国の貴族の系統書ね。 クラーク様から頂いたのよ」
見ると、王侯貴族や他の貴族も含めた体系書のようだ。系譜も書かれていて、その家々の歴史も述べている本の様だ。 見るとその家の印章が書いてあるが、動物や植物をモチーフにしており、意外と簡素なデザインになっている。 ざっと見るが各家で、それぞれ違ったものが描かれている様だ。
「これって、旗とか契約書に使うものか?」
「うん、おにぃちゃんの言う家紋ってのは、その家の印の事でしょ?」
「ああ、その印をみれば、どこの家という事を判別するもんだ」
「じゃ、これね。 重要な手紙とかにも使われるわ。 他人が勝手に印にしちゃいけないものよ。 馬車とか貴族の私兵の旗にも描かれてるわよ」
「うん、よくわかった。 じゃこの馬を描いてみようかな」
そいう言うとかづきはさらさらと、ナポレオンの肖像画に罹れている馬の様な、躍動感あふれる馬を描いていた。 それを見ていたモモも、もぞもぞと自分も何かを書いている。
しばらく幾つかの馬のデザインを書いていたが、余る上手く描け無いようでいたかづきが、ふと見上げると、いつの間に入って来たのかゴルモスアゲイが何事かと、のぞき込んでいた。
「ユーたちは、馬のデザインを描いているのですね。 ミーも参戦してよろしいですかな」
こいつは、王都から来た芸術家という触れ込みだが、俺の主観では何やら胡散臭い青年である。 嫌味に伸びた口ひげは貴族らしく見えるが、それがかづきには軽薄に見えてしまうのだ。
兎にも角にも、このゴルモスアゲイにも、参加してデザインを描いて貰う事にした。
現在忙しくなって来たので、次回からはゆっくりやらせて頂きます。
まったり書きますので、不定期投稿になります。
作者:勘乃覚




