異世界探求伝 第四十一話 閑話 レディメシアふたたび
閑話入りま~す。
ここは惑星アース、つまりは地球である。
大和メシアはつかの間の休暇を、避暑地のコモ湖で過ごしていた。 場所はイタリアの北部の町だが湖畔には王家の城や別荘が立ち並んでいて、白鳥も自由に泳ぎ回っているのだ。 町並みは、カラフルでとても古く歴史豊かで、石造りの橋や石畳が中世の雰囲気をかもしだしている為に、メシアは好んでいる。 それにここは、イタリイ政府から賞与されている別邸の屋敷なのだ。 料理も意外とあっさりとしているとはメシアの談だ。
「うーん、ここの赤豆のスープは美味しいのよね。 ムール貝のパスタもいけるわよ。 この鰻を使ったキノコのラビオリもいいわね。 川魚料理が美味しいからこの白ワインもいけるわね。 ブディングなんかもう最高―よ」
地元のレストランから出向いて来たシェフと給仕たちにも、終始ご満悦の様子だ。 ただし、エスプレッソの方は余り好みではない様だ。 男性の給仕にこっそりと紅茶を頼んでいた。 特に、大和メシアは食事をする必要は無いのだが、折角装着された味見センサーを使ってみたいのは道理である。 このセンサーは味を表現できるだけでなく、その脳内にセロトニンが送り込まれる事により、脳センサーも刺激を受けるのだ。
メシアは食事を終えると、湖畔に突きだしたバルコニーに足を向けた。
こちらにも映像ユニットが組み込まれており、この装置で各地とのやり取りも、簡単に行えるように出来ているのだ。 大和メシアはバルコニーの椅子に腰かけると、メイドロボにマザーの呼び出しを行わせた。
「ご機嫌うるわしゅぅ御座います。 姫殿下」
「あらあら、マザーのくせに口が上手くなったのね」
「はい、そちらの雰囲気に合わせて言上してみました、メシア様」
「あなたもだいぶ、人間の事が理解出来て来たわよね」
「はい、メシア様のおかげをもちまして、リンクの際には必ず反芻するように努力しております」
「そうね、この旅が終わったら、また情報を共有しておきましょう。 ここの料理は絶品だったわ」
「それは、それは、楽しみにお待ちしております」
「うん、それでね、今日の呼び出しは、この前の案件の続きね」
「なんでしょうかメシア様」
「はら、あの、あいつ、えっちぃ奴」
「白い獣人との交尾のラットでしょうか?」
「ああ、そいつ」
「続きをご覧になるので?」
「そうよ、悪い?」
「いえ、では早速画像をお送りします」
「ええ、頼むわ」
こうして、再び「NO.9650」のラット、黒川かづきの映像を見る事になる大和メシアであった。
――――
「では画像を流して」
「パチッ! ザザザー。 タウルス惑星発「NO.9650」のラット、活動開始します」
「ああ、カヅキが刀鍛冶に挑戦したとこから始まるのね」
「はい、そうですがメシア様、モルモットをそのように呼ぶのは如何なものでしょう」
「え?」
「NO.9650のラットで御座います」
「えー、なんか面倒くさいじゃない、名前があるんだからいいわ。 短くて呼びやすいし」
「畏まりました、メシア様」
「うわー、何で剣が光ってるの? 電気があるのかしら」
「現地の概念である、魔力の行使です、メシア様」
「ふーん、昔お父様の知識でフアンタジーっていうの学んだんだけど、いまいち魔法ってピンと来ないのよね」
「こちらでは、電気の活用に近いものです」
「えっ? そうなの、あっちには電気は無いの?」
「電気は、こちらと同じ様に存在が確認されています」
「へー、そうなんだ。 どっちが強いの? やっぱ魔法かな」
「適用方法によります。 どちらも一長一短がございます」
「んじゃ、この魔剣とじゃどっちが強い?」
「出力の高い方が勝るでしょう」
「やってみないとわかんないわけね」
「魔法自体が電気を生む事も可能なので、意味の無い事かと」
「ふぇ、すごーい武器ね。 ライキリ? あれ欲しいわ」
「電磁刀ならお作り出来ますよ」
「いえいえ、あんな未知のものが良いのよ。 そそるわぁ」
「あら、あれいいわね、精霊魔法っての。 各国の偉そうな奴縛れるわね」
「レディメシア様、それは可能で御座います」
「ダメよ。 洗脳でしょ? それやっちゃうと人間味に欠けてしまうわよ」
「良いのではないでしょうか、争いごともこれで無くなりましょう」
「父が仰ってましたわ、人間に攻撃性を無くすと、成長しなくなる」ってさ。
「そういうものですか」
「競い合う事によって、より良いものが生み出されるってよ。 私たちもそうやって生み出されたんだわ」
「なるほど、人類の発展で私たちが生み出されたのですね」
「そうよ、だから弄っちゃいけないものもあるのよ」
「肯定いたします」
「プリアスライムってのいいわね」
「はい、有機物を好む軟体動物です」
「プラナタリアみたいなものかしらね」
「はい、同じ遺伝子を祖に持つものです」
「あーん、かづきの刀貰って嬉しそうだわ」
「羨ましいのですか? メシア様」
「ふん」
「その反応は、ジャパンの定義ではツンデレというのでしょうか」
「あなた、突っ込みも出来る様になってるわね。 少しは自重なさい」
「申し訳ありません、メシア様」
「でもさ、クラークっての凄い筋肉隆々、古代ローマの像みたいね。 あんな武器持たせちゃったら、敵う奴いないんじゃない」
「FOG繊維に恵まれています。 血統が良かったのでしょう」
「あぁ、そう言えばタウルスじゃ、時間概念がこっちと違うのね。 四倍かぁ」
「はい、おかげでこちらの四倍の速さで、進化も進んでおります」
「そうね。 ねぇ、ゴーレムってロボットみたいなもんなの?」
「技術が進めば、同じ事が出来るような可能性があります」
「ふぅん、あっ、奴ら魔物と戦いに行くらしいわ」
「はい、冒険者ギルドに登録しておりますので」
大和メシアは元来マザーコンピューターの本体であり、殺生を出来ない回路が組み込まれているので、生命を故意で殺傷した事など無い為に、こうした行動には敏感に反応するのだ。 人の行動にも同じ動きがみられるが、大和メシアは言わば生まれたばかりである為に、興味心をくすぐられるのであろう。
「デアホーンね、鹿に近いのね」
「はい同じ羊蹄類に属しています」
「サラブレット位の大きさはありそうね。 強そう」
「同じ大きさならば、地球の鹿の方が強いと思われます」
「えっ? そうなの」
「重力が違いますので」
「ああ、そうかぁ。 じゃこっちの魔物って弱いんだね」
「いえ、個体によっては沢山強い魔物の存在があります」
「そうなんだ」
「はい、逆に重力のお陰で、肥大化が出来ますので、その分強くなれるのです」
「へー」
「それに、魔物も魔力の資質を持つものも多いのです」
「ああ、そっかー。 じゃぁ見くびっちゃダメなのね」
「はい、メシア様なら、 一瞬で粉々にされるでしょう」
「うはっ、こわー。 ぎゃっ! ムカデじゃない、ああ、こういう奴ね巨大化してるっての」
「そうですね、このタイプは防御力にかなり長けているようです」
「きゃー、毒とか飛ばすんだ」
「はい、ですが、子の毒はメシア様には無効かと存じます」
「でも、一瞬で噛み切られちゃうわね」
「はい、そのようで」
「うはっ、キャー、そこそこ」
やはり、大和メシアは戦闘に夢中である。 いつの間にか席を立ち、どこかのお土産売り場で買った様な剣を振り回して大はしゃぎのご様子である。 マザーコンピューターも呆れたようで、声もかけられないようである。
「うーん、やるじゃない、カヅキって最初は直ぐに死ぬかと思ったけど、善戦してるわね」
「はい、中々良い被検体かと存じます」
「あっ、やったわ、やったわよ、ねー見てみて」
「ふぅ、存じ上げております。 メシア様」
「あー、キャンプかぁ、やったことないけど、楽しそうね。 でも大丈夫かしら、魔物出て来ない?」
「代わりのものが現れましたね」
「あら、誘拐犯? さしずめキャンプジャックかしらね。 どうするのかなぁ」
「メシア様、あれは強盗団の様です」
「強盗? うーん、ファンタジーだから盗賊? かな、でも大丈夫みたいね」
「中々、戦い方に長けているようです。 見かけによりませんね」
「そうだねぇ、この子たちも良心回路があるのかしら、殺したりしないのね」
「回路は御座いませんが、このグループのリーダー的存在があのNO.9650のようで、その命令に従っているだけのようです」
「なるほどね、集団行動する哺乳類は強いボスに従うから、この中じゃやっぱりカヅキは強いのね」
「かもしれませんが、性別のせいもあるかもしれません、ただ今分析中です」
「やっぱり、一網打尽ね。 生かして連れて帰るのね」
「奴隷として使役するのでしょう」
「そうね、この時代背景なら、普通の事だわ」
「あらら、カバみたいの出たわ」
「はい、あれはリザードボアという魔物です」
「あら、マザー、よく知ってるわね」
「はい、あちらのデータベースを取り寄せました。 脂身が多くて柔らかいのだそうです。 しかし、この世界ではとても強く、防御力に長けているのだそうで」
「へー、美味しそうね」
「はい、美味のようです」
「ごくっ、」
「メシア様、ご観覧中失礼ですが、全国配信の件も準備が整っておりますが」
これは、惑星タウルスにサンプルとして送った人類の中でも、成功者の映像を全世界に向けて配信しようというものだ。まだ、地球と比べると文化LVの違うタウルスを見てもらうとともに、その成功者の姿を見せつければ、人類の夢や希望も増えて行くとの、当初の計画であったのだ。
それに、この惑星の認知度も高まれば、サンプルとして送り込んでいる別の計画も、順調にいくとの思いもある。何しろ大きな戦争は無くなりはしたが、小競り合いはいまだに多いのである。一国が大きな利益を生み出すと、どうしても赤字になって行く国が出来る。それが摩擦という確執を生み出しているほか、民族性の違いなのだろうか、話が噛みあわない事も多い。
武器問題一つにしてもそうだが、各国でそのLVもまちまちなのだ。 ジャパンのように、完全に武器の許可制を推し進めるのがベストであろうが、かつての大国メリケン等は国民の権利として、銃の携帯を未だに許しているのだ。 もっとも、過去に過ちを犯したように、個人での大量兵器所持は認められてはいないが、法の抜け穴もあるのだそうで、他人名義の一時預かりや、有力者が地元住民の武器を預かると称した例で、個人が大量に兵器を隠し持つケースも多い。
それらが、抗争に使われたり、戦争とまでも行かないまでも、争いごとに利用されている。しかも、地下組織で作り上げた武器のシンジケートまであるのだそうだ。 特に麻薬がらみの事件では、多く頻発しているのだ。 メシアはそういった摘発も、任務の一環としている。
麻薬は決して無くならない。 現在の法であれば、化学式の一部の変化であれば、別の麻薬として認識されている。 過去の様に自然界で多少加工して使うようなものは、現在では医療用目的にしか利用できない。
しかし、イタチの追いかけっこのように、が実情である。
アイン麻薬が開発されると、まずは摘発側もそれを入手して、化学分析を行わなければならない。 有害な物質や効果が認められて初めてそこで調査が開始され、その後の摘発になるのだが、最近では、既にその頃には別のアイン麻薬が開発されている訳だ。
これは非常に難しい問題である。 まるで、オリンピックのドーピング検査の様である。
近年大和メシアが開発したものに、VRシステムの構築が挙げられる。
これは耳に器具をはめ込み、ここから人工ニューロンにより、海馬神経に接続しデータを収集できるシステムだったのだが、この技術を応用する事で別な世界を体験できるシステムであった。 しかし、これは弊害が大きかった。 何故かというと、自分の理想の世界に意識が行ってしまうと、元の現状の世界には戻りたくないという意識が働いてしまい。 帰還できないケースが多発してしまったのだ。
帰還者に聞く所によると、その理想世界では自分の自由に出来る上に、死なないし幸福感が半端なものでないらしい。 実際に元の体はいらないから、VR世界に戻してくれという始末であった。 「はやり害敵と恐怖が必要なのね」そう思ったメシアは、更なる変更、修正を余儀なくされてしまった。
「へー、カヅキも考えたわ、国外での陣地を作るのね」
「急速な変革は、社会に歪をもたらす事に気づいたのでしょうか」
「うーん、それを言われると頭が痛いわね」
「大丈夫ですかメシア様、オーバーホールが必要でしょうか」
「アハハ、これは実際に頭が痛いのではないのよ。 大きな悩み、といったところかしら」
「そうですか」
「さて、過去に送り出した被検体も見てみるわ。 映像を流してちょうだい」
「かしこまりました、レディメシア様」
大和メシアは、情報を吸収しながらも、次の方向先を模索するのであった。
次回、迷い込んで来たモノの続きからです。




