異世界探求伝第二十二話 銘刀の完成
かづきの刀作りは成功するのでしょうか?
「長巻の刀身みたいだな」
これは、かづきがここで初めて打ち終わった刀の感想である。 必死で製作中だった為に、出来上がりの想像があまり出来ていなかったせいであろう、出来上がった刀は薙刀か長巻で使う事に、長けた形状だったのである。
常温になるまで待つと、綺麗に油をぬぐって研ぎを行う。
身体強化を掛けて優しめに、そして素早く研いで時間を短縮した。 最後に目打ち穴とたがねで銘を刻む。
「コッ、コッコッ。 『龍』っと、出来た」
仕上げ砥石で、刃先を綺麗に磨き上げて行く。
磨く工程も多岐に渡るのであるが、ここは割愛しておく。 刃の部分以外は、あえて磨く事はし無かった。 地金は全体的には黒刀であるが、刃先は濡れる様に光っている。 最終的な刃付けを行い これで全ての作業が完成だ。 後はこいつに『はばき』と『柄』、刀身を入れる『鞘』、つばも作ろうか。 「はばき」とは刀身の手元の部分に嵌める金具なのだが、これが無いと鞘にきっちり納める事が出来ない。
「ふぅ、完成したな」
「あんちゃん、いやカヅキ、良くやったな」
紫煙を燻らせていると、親方のガスドと息子のデスパイヨが背後に立っていた。
「見せて貰ってもいいか?」
「ああ、刃を付けてあるから気を付けてな」
親方は全体を隅から隅まで、目を凝らしていたが、やがて随分興味深げな顔へと変化して行った。
「なぁ、少し試し切りさせて貰えるかな?」
「ああ、あまり固い物は切るなよ」
親方はデスパイヨに言いつけて、肉の塊を木に吊るしていた。
「魔力を刀身に込めてみてくれ」
「んあ? こ、こうか」
すると、刃先が揺らめくように輝きだし、蒼白い光がぬらりと刃先に宿る。
「ほぅ、ふむ。 えい!」
「バサッ!」、刀身は肉塊をスルリと切り裂いた。
「カヅキ、この剣は何だ?」
「ああ、刀と言う」
「カタナぁ?」
「まぁ、長巻に予定変更になりそうだが」
「ナガマキ?」
「ああ、刀の種類さ」
俺は親方から刀を返して貰い「八双」に構えると、斜めに軽く肉片を切り付けた。
「バサッ!」、おっ! これは・・・・・・何て切れ味だ。 四つ胴は遥かに凌駕するな。
四つ胴とは、古い時代の刀の副銘に掘られている事がある『切れ味』の事である。
つまり、この場合の四つ胴とは死体を四体重ねたままで、それを切り落とすだけの切れ味があると言う事だ。 ちなみに三銅以上は優れた刀とされていたらしい。
魔力を軽く通すだけで、魔物の肉がするりと切れたのだ。俺は刀身をぬぐい取ると、銘に名前を『圧切り』と追加した。
「これは『ヘシキリ』と名付けたぞ、触れるだけで切れると言う意味だ」
「ふ、ふおー、スゲェなカヅキ。 なぁ、この製法をどこで覚えた?」
「うん? おっちゃんは興味の無さそうな顔をしていたが?」
「い、いや、そんな事はねぇぞ。 ち、ちゃんと見てたさ」
「そうかい?」
「そんな事より、製法を教えてくれ」
「嫌だ」
「へっ」
「嫌だっつったんだ」
「か、金なら・・・・・いや、何でもする。 いや、させて頂く」
「ふーん、でもなおっさん、余り広めたくないんだ」
「お、おう! 判るぜ、こんなすげぇもん見ちまったんだ。 魔剣だろ」
「魔剣? うーん、おっさんもミスリルの魔剣打ってたんじや無いのか?」
「へっ? あんなもん。 これに比べりゃタダの剣さな。 ガッハハハ」
「そうか、褒めてくれたのは嬉しいな。 まぁ、教える事は今の所難しいが、まだ打つから自分で見て研究しな」
「いいのか」
「見る分には構わないが、この製法は『一子相伝』だから他言無用で頼むぞ」
「いっしそうでん?」
「ああ、自分の子一人にしか伝授しないって事だ」
「お、おぉ、やっぱりそんな秘伝なんだな! おう、言わねぇさ」
「あ、あのぉ にぃちゃん俺も・・・」
「デスパイヨは手先が器用だったな。 小道具を作るのに手伝ってくれるか?」
「あ、ああ、あにぃ。 いや、師匠、任せてくれ」
「いや、あにぃじゃ無いし。 師匠も止めてくれ。 ハハハ」
俺はデスパイヨに銀貨を渡して、デザインと共に鞘を頼んだ。
作業後を片付けながら、こっそり収納袋に玉鋼と出来た刀を収納した。 この特別な収納袋も他人に見られては不味いのだ。 俺は次にミシェータの店で彼女と落ち合う事にした。
ミシェータに聞くと収納の魔法袋はあるそうだが、それ程多くの物は入らないらしい。
イメージの問題なのか、家の押し入れ程度の感覚らしい。 それならば、沢山入れる所を見られなければ、さほど問題視する事では無いのかもしれない。
ミシェータに刀とデザインを渡して柄を作って貰う事にした。
ミシェータは魔道具に関して明るく、あざとい部分も多いので相談したかったのだ。 要点は一つだ。 柄から刀身に流れる魔力のスムーズな流れが必要だった。 結果、柄は魔物素材で作る事になったが、魔石入りの樹脂、握り、目打ち、柄巻にそれぞれの素材を利用して、作成する事になった。
この間俺は、鍔の作成をするが、鍔は刀の大事な要素である。 相手の剣を受け止め、刃が自分の手に当たらない受け口であると思われがちだが、実は、大事なのは刺した時に、滑らせて刃で手指を切らない為の安全措置の金具なのである。 それから刀全体のバランサーとしても重要な部位であるのだ。 それに鯉口を切るのに便利な側面もある。
俺は固定した丸鍔に図柄を書き込み、それを彫り込んで行く。 糸鋸でオーソドックスな「なまこ型」にしてみたが、以外に早く出来たので予備に複数作ってみる。 こうして「龍の象嵌」と「螺旋象嵌」の透かし彫りも完成する。 こうして鍔とはばき、柄は出来上がった。
それから三日間刀鍛冶に勤しんだ。
始めに作成した刀は結局「長巻」として、ジュリナに譲り渡す事にした。 刀身が厚く幅広なので柄を長くし薙刀の様に薙ぐ事も出来る。 色調も紅を基調に鞘は赤皮の革製に変更した。 ジュリナの愛剣はレイピアとか言ってはいたが、確かに彼女の素早さは特筆すべきものはある。 だが本来の持ち味は、あのバカ、いやっ、剛力なのだ。 それを踏まえると、槍より薙ぐ事に特化した長巻は、彼女にとって最適であると俺は判断したのだ。
魔剣の威力も判ったので、次の刀はミスリルの板を作りそれを皮鋼と折り返す事によって、美しい縞模様を作り出す事に成功した。 |縞《》しまと言っても真っ直ぐな線では無い。 川面の様な複雑模様である。 俺をこいつを『せせらぎ』と命名した。 この刀には、象嵌と透かし彫りで龍を施した鍔を付ける事にした。
せせらぎは、一,三mと大振りだが全体を鏡面に仕上げてとても姿見が良い。
仕上げが良かったせいか、魔力の通りも頗る良く青を通り越して蒼白く輝いている。 親方に見せたら、涎を流さんばかりに見入っていたが、諦めて工房へと入って行った。
他には短刀を三振り、雨粒様な模様を付けた『サザレイシ』、水玉模様の『ジャボン』、斜めに縞筋を入れた『ライキり』である。 前者二本はモモとミクへ、『ライキリ』はミシェータのそれぞれ守り刀とする予定だ。 『ライキリ』に関しては芯にミスリル板を仕込んである。 これはミシェータの魔力をより多く通せるようにしたためである。 柄には魔法媒体である杖の素材を使用、魔力を通して見ると赤く輝いていたが、これについては俺は良く判らない。
取り敢えず特性だよ、とミシェータには嘯いておいた。
玉鋼が刀一本分余っていて、もう一振り作ろうかなと思ったが、考え直して槍を作る事にした。 チーム龍の面子で、クラークだけ作ってやらないのも依怙贔屓だもんな。 槍ならクラークにばっちりお似合いだろう。
素直に直槍が出来たがクラークをイメージすると、どうもいまいち心もとない。
大男のマッチョにこれは地味すぐる。 俺は直槍の根元に付ける斧を作ってみた。 斧の形は相手の武器を受け止めたり、ねじって払う事が出来るように受けを作る。 このままではバランスが悪いので、反対側にも鎌刃を付けてみた。 石付きも作り、柄は六角としそれぞれの角には、残りの鋼を炭抜きし粘りを付けた板でカバーした。 和風なら斧槍だが、洋風でハルバートになる。 俺はこいつを、漆黒の斧槍『クビカリ』と命名した。
その日の夕暮れ、ミシェータと武器屋の息子、デスパイヨに手伝いって貰い漸く完成に漕ぎ着けたが、槍に関していえば少しやり過ぎた感がある。 全体の重さは十kを超え、普通の人間では振る事さえ叶わないであろう。 恐らくこの界隈では破壊不能の最強武器なのかもしれない。
「ねぇ、その槍で龍退治でもするの?」とミシェータに言われてしまい、「ハッ」と我に返った時には遅かった。 そこで初めて俺はやり過ぎたのだと実感したのであった。 俺は力なく只、「ハハハ」と肩を落として笑った次第である。
屋敷へ帰ると、ジュリナが急いでやって来た。
夕食が終わったら報告があるとの事、食事が終わったら三日間やれなかった会議を行うとしようか。 夕食はブイヤーベースだろうか、魚介類の沢山入っ鍋だった。 聞いたらオイルで煮込んだ魚介類の鍋だった。
皿に盛られたエビや貝、魚のブツ切りをピリ辛ソースを掛けて食べる。 海が近いのかを聞いたら近くには無いとの事だが、商人が氷付けで運んで来るのだそうだ。 肉はいつも夕食に出て来る。 肉比率が高いのは魔物が豊富に取れる事が大きいのだそうだ。 野菜は豆類や根菜類がそこそこ取れるらしいが、魔物が多いと言う事はそれほど農業が盛んに出来ないのかもしれない。
聞くとやはり危険が多いので、平野で大麦と小麦を二期作で作るらしい。
葉物も食卓に上がるが、茹でたりオイルで炒めたりで、基本は塩味で出て来る。 食生活が単調な気がする。 デザーとにリンゴパイが出てきたが、折り込みパイでは無く、ただ薄いパン生地で焼いているみたいだ。 しかし、古今東西 甘い物には女性は目が無いみたいだ、 女性陣は一心不乱に食べている。
今日も美味しい晩餐を有難う。 終えると一服して会議開始だ。 驚いた事にジュリナが、通信魔法を開発したとの重大発表がなされた。 聞けばやはり精霊魔法を使うらしい。
「色々調べてみたの、恩師にも伺って精霊契約って言う、直接精霊に契約する方法があったの」
「精霊契約って広まって無いのか?」
「う-ん、直接的な攻撃的には使えないらしいから、廃れたのかしらね」
「契約方法は、どうするのでございますか?」と、クラークが興味深げに口を挟んで来た。
「精霊を呼んで契約するんだけど、お使いを頼むって感じかな」
「ほう」
「契約精霊は契約者の魔力を糧に、つまり食事みたいな物かしら それをこうして与えるの」
ジュリナの手に一瞬魔力の気配がするが、それは直ぐに無くなった。
「風精霊よ、あの窓を開け放て」
すると引き出し窓が『スッ』と開いて風が流れて行く。
「今のは、部屋の換気をお願いしたのよ」
「へー、成程」
「次は、カヅキと契約を結ぶわ」
「えっ、俺とか?」
そう言うと、彼女は文字を書いた本とインクを取り出し、針で小皿にそのインクと血を混ぜた。
「ここに、フルネームを書いてね」と、俺は言われるまま、そこに名前を書くと彼女はすぐに、契約呪文を唱えて下準備を終えた様だ。
「じゃ行くわ、『精霊よ、この声をカヅキに伝えて』・・・・・・『聞こえるかしら』」
『聞こえるかしら』 おお、ジュリナ、耳元でちゃんと聞こえたぞ。
「で、ここからだけど、カヅキも魔力を手に出してみて」
「う、うん、こうかな・・・・・・」
「そして、私に伝えてって願ってから、喋って見て」
「うん、ジュリナに返信を頼むぞ精霊。 『ジュリナでかした』・・・・・・! あっ、魔力を食われた」
「『ジュリナでかした』、聞こえたわ、成功よ」
「うおーーっ!」「やったね」「凄いわ」「うわーい」「お嬢様」
周りの皆もその成功に歓喜の声と、ジュリナを労う言葉で包まれた。
部屋を出て試してみたが、『成功』である。 この『言葉』を送る精霊魔法は、個人を特定して行うものなので他人には聞こえない様だ。 鼓膜に直接送っているのだろう。 俺はジュリナに要望を伝えて見る。
「いちいち魔力を放出するのが面倒だな。勝手に持って行ってくれれば楽だぞ」
「あぁ、精霊は生命に対して攻撃出来ないのよ」
「うん、知ってるぞ、関係あるのか?」
「魔力を体内から勝手に取る行為は、奪うと言う事になるわ。 そしてこれは攻撃と見なされるのよ」
「成程な、しかし、良くやったなジュリナ。 つまり、契約者のお前のその契約書に血のインクで名前を書けば、いつでも通信可能って訳だな」
「ツウシン?」
「ああ、クラーク。 言葉を情報として他者に伝える方法を、『通信』って言うんだ」
「ほう、言伝や手紙がこれに当たりますな」
「そうだ、狼煙とか、光による通信もあるな」
「光で御座いますか」
「ああ、今度教えてやるよ。 それでジュリナ、こっちから送りたい時はどうすんだ?」
「そっちも、精霊契約すれば良いじゃない」
「なぁ、聞くが、精霊契約って誰でも出来るものなのか?」
「いいえ、精霊と契約出来る者は限られておりますわよ」と、ミシェータが否定する。
「精霊魔法は精霊に愛されて居なければ、出来ないと先生が仰っていたわ。おにぃちゃん」
「精霊魔法が、他に使える奴は居るか?」
「・・・・・・」「・・・」「・・・・・・」「・・・」
「そっ、そうか・・・」
気まずい雰囲気になってしまったが、打開策はあるはずだ。 かづきは先生に頼る事にした。
ガスド:カヅキってただの金持ちの道楽息子と思ってたんだが、違ったみえぇだな。
はぁ、こんな事なら最初っから様子を見てやるんだったな。
まぁ、隙を見て技術をうばっちまうがな。ガッハハハ




