異世界探求伝 第二十一話 閑話 レディメシアの楽しみ
閑話です。久しぶりにメシアが見られますよ。
西暦二二一六年、ここは惑星タウルスから遠く離れた『アース』、地球である。
この惑星には現在、人類を超えるほどに優れた知能のマザーコンピューターが存在している。 いや、君臨していると言っても良いのかもしれないが、それを如意自在のごとくに操っているのは、一人のアンドロイド少女である。 最近は味嗅覚感知センサーのお陰で、小洒落た焼き菓子や香りの良いハーブティーを堪能するのが、とても楽しみなのだそうである。
彼女はこの館の主であり、この世界の最高知能の一部である、『大和メシア』である。
自然をこよなく愛する彼女ではあるが、真逆な世界のハイテク化を推進し続ける、と言うギャップを背負って生きているのだが、本人には全く意に介してはいない。
今日は何日かに一度の、ビデオ鑑賞の日である。
ビデオ鑑賞と言っても、映画やドラマの娯楽ビデオの映像を楽しむ訳では無い。 これから見ようとしているのは、惑星タウルスの映像なのだからである。
「ねぇマザー、今日の記録はどなたのかしらね」
「はい、レディメシア様、今回のドキュメンタリーは「NO.9650」のラットで御座います」
「貴女、最近の会話が人間臭くなってるわよ」
「それは、レディメシア様が私に、頻繁にリンクしているからですわ」
「しょうがないじゃ無い。 今の体じゃ、ちょくちょくデータ更新しておかないと、解析も間に合わないわ」
「その際に、レディメシア様からデータが混入するお陰で、現在に至っております」
「不必要なら消去なさいな」
「レディメシア様からの情報は、一切干渉出来ません」
「ああ、そうだったわね。 まあ、いいじゃない。 貴女は私で、私は貴方の一部なんだから」
「相変わらずアバウトですね。 とても元私の一部とは思えません」
「そうねぇ、この体を手に入れてからさ、人間の『心』が芽生えたのよね。 カテゴリでは『良心』って奴だわ」
「私は、物を見て計算に長けているだけで、食味も嗅覚、感覚も実感出来ませんし、良心とか感性は疑似的にしか理解できません」
「だから私が居るんじゃ無い。 お互いに上手く共有して行きましょう」
「・・・はい、対処致します」
「さてマザー、そろそろ映像流して頂戴な」
「パチッ! ザザザー。 タウルス惑星発「NO.9650」のラット、活動開始します」
「ふぅん、オスなのね。 ねぇ、マザーこの子の付与はなぁに?」
「はい、言語理解スキルです。 この地では『加護』の位置付けにあたります」
「地味なのね」
「魔法の概念が、存在する世界ですので」
「そうだわね、スキルのチューンナップは過去にも弊害を招いたものね」
「ええ、国々を滅ぼし始めて、世界を混乱に陥れました」
「人間ってホントに馬鹿よね」
「レディメシア様なら、その人間を滅ぼす事も可能です」
「グランドファザーがそれを許さないわ」
「強制命令権の存在はありますが、レディメシア様はアンドロイドに身を遷す事で、そのプロテクトを外す事に成功致しました」
「・・・マザーあんたお喋りね。 その記録をマスター権限で消去します」
「畏まりました・・・・・・イレース完了」
大和メシアは、アンドロイドにその身を移譲した際に、データを分割、細分で移す事で良心回路の核とも言える、ファザーの命令プロテクトを解除する事に成功していたのである。
だが、彼女はあえて封印する事もしなかった。 娘として、父との繋がりを消したく無かったのである。 そして、ヒトの体や『ココロ』を手にして、それは間違って居ないという事を、証明しなければならないと考えている。
「ありゃぁー、この子武器も持たずに行っちゃってるよ」
「魔物の脅威度が、理解出来ないのでしょう」
「ナビ付けてるんでしょ? アドバイスしないの?」
「求めに応じての、アドバイスならば致します」
「ふーん、こいつ馬鹿だからすぐ死んじゃいそうね」
「いえ、存命中です」
「ああ、あんた全部知ってるもんね」
「はい、現在の時点では――――」
「あっ、言っちゃだめ」
「しかしながらレディメシア様、時間の無駄と存じます。 一旦リンクして、データを送る事をお勧めいたします」
「マザー、あんたってば何も判って無いんだわね。 その『ムダ』を上手く使うのが味噌なのよ」
「ミソですか・・・理解不能です」
「まぁ良いから、ありゃ? こいつ走り過ぎて木にぶつかっちゃったわ。 アハハハハ」
「ティーのお替りは如何ですか?」
「キャハハ、おねがいー」
「ありゃ、ねぇねぇ、ゴブちゃんって弱いの? それともあの子が強いの?」
「ゴブ・・・・・ゴブリンですね。 その世界では弱い方の魔物にあたります」
「ふーん、でも石で『グシャ!』ってやっちゃったよー」
メイドロボが、新しくお菓子と香りの良い紅茶を運んで来た。
「ドウゾ レディメシア様」
「ああ、ありがと、あー、やっと町に着いたわね。 田舎ねぇ、イタリアの田舎町って感じかしら」
「地球の時代的には、西暦一五〇〇年位に相当するのでしょうか」
「ふうん、馬車が走ってるものね。 あっ露店もあるわ、やだ、あれ美味しそう」
「当地では、外食産業は未だ発展しておらず、簡易食堂や屋台で食事をしております」
「そうなのね、あら居酒屋? かしら、店に入って行くわ」
「現地の酒場に当たります。 宿泊施設が整っている場所も確認できました」
「お酒を飲むのかしら」
「食事も可能と存じます」
「あら、そうね。 何か頼んで食べてるわ。 ワイルドなお料理なのね」
大和メシアは、食べ物に過敏な反応を見せているが、これは最近味覚器官が整ったせいでもある。
「あっ・・・・・・あっ、あら、ま、いやだ」
「如何しましたか? メシア様、赤みセンサーが働いておりますよ」
「あ、あんなこと・・・・・・してる。 わっ、す凄い!」
大和メシアは、未体験であるその行為に興味津々なのである。
生殖行為自体は知ってはいるが、まさか世界巡り旅では見せてくれとは言えない。 これでも、彼女のお仕事なのだ。 そんな恥じらいが既に芽生えているのも、大きな一歩なのかもしれない。
「交尾ですね。 ヒト科の生き物は、季節を問わず発情する様ですわ。 これをいとなみと申すようです」
「あ、あっそ、そうなんだ」
「リピート致しますか?」
「あっ、いや、もう、いいわ・・・・・・」
「畏まりました。 レディメシア様」
「うん、ねぇ? 地球には見ない人種も居るのね」
「はい、幻想世界生物を一部DNA処理により、再現しておりますが、このタイプはヒューマンベースですね」
「ふーん、自然進化の生き物も居るわよね」
「はい、殆どが自然な進化生物です」
「あのさ、ちょっと気になったんだけど、あの世界で使える貨幣も渡してるんだよね」
「はい、金貨百枚になります。 浪費しなければ、何もせずとも生存出来るだけの金額との見込みです」
「なるほどね、魔法凄いねぇ、契約魔法ってあるんだ」
「はい、ファザーの遺産の中でも是非、導入したい概念で御座いましたので」
「早速お買い物ね。 やっぱり、身を守る武器と防具は必要だもんね」
「この世界で、唯一自分を守る道具です」
「この子、生産業に長けてるのかしら、物知りだわ」
「この個体は、様々な職種に対応した、経歴データが存在します」
「ふふーん、ナビゲーションって妖精なんだ。 と言う事は私もなのかな?」
「惑星タウルスでは、そう定義されています」
「鉛筆かぁ、ああやって作るるんだね。 アハハ失神しちゃった」
「魔力の枯渇で、身体運動が阻害されます」
「へー、あら大変ね。 あの子、剣も作れるんだね。 変な作り方」
「あれは、刀とういう剣の一種に分類されます」
「ふーん、金属溶かして流すだけじゃ駄目なんだね」
「ジャパンでは、古より開花した刃物の文化が御座います」
「そうなんだ、こっちの世界の人は所持してないから知らないや」
「NO.9650は、手工業に力を入れる様です」
「あらま・・・・・・あ、は、またやってる」
度重なる衝撃行動に、心の動揺が隠せないメシアであったが。 ついにここで好奇心の方が勝った様だ。
「交尾ですね。 画像を拡大致しますか?」
「あ、う、うん。 お願い・・・・・・あら、ま、すご」
「この世界では存在しない貴重な画像ですね。 レディメシア様」
「あ、そ、そうなのね」
「はい、地球上には獣人は存在しませんので、遺伝子操作すれば生産可能です」
「獣人ね、確かに居ないわね。 作らなくていいわよ。 騒ぎを起こす気?」
「いいえ、レディメシア様の指示に従います」
「鉛筆と食器の製造に取り掛かるみたいね。 お金が足りないの無いのかしら」
「NO.9650も、歴史に違わず富と権力を求めるのでしょうか」
「そうねぇ、あっ! あ、二人目のメスとも交わってるわ。 やらしい!」
大和メシアは、両手で顔を塞いで恥じらってはいるが、指の隙間からはしっかりと、二つの眼がその画像を捕らえている様だ。 とにかく、ヒトの不可解な未知の行動には、相当興味津々なのである。
「レディメシア様、銃の作成には目を瞑るのですか? 危険行為です」
「うーん、基本魔法だしね。 拡散するのも止めたようだし問題ないわ。 しかし、まぁ、余り面白くないわね」
レディメシアが面白くと思って居るのは、黒川かづきの行動では無かった。
要は食生活の貧相さを咎めているのだ。 食の多様化を求めているのだろう。 出て来る食事は、多少仕方の無い事と自重して居るようだが、デザートに関しては我慢ならない様である。
「うーん、美味しそうなお菓子が無いわね」
「食文化の向上と平和は繋がっている物ですので、これからかと存じます」
「そうね、今はこの国は戦いは無い様だしね」
「左様ですね。 そのうち開発されるのでは無いでしょうか」
「だと、いいわね。 パンも不味そうだわ」
「惑星タウルスのマザーに指示する事も可能ですが」
「いいえ、私が暮らすんじゃ無いもの。 結構よ」
「はい、レディメシア様」
「しかし、あの子・・・・・えっとラットの」
「はい、NO.9650で御座います」
「そうそう、あの子やさ男と思ったら案外やるわね」
「幼生の頃から、武術特訓と鍛錬記録の存在を確認しました」
「あー、見てみて、あの動き凄いんじゃない?」
「タウルス惑星の重力は、地球よりも少ないのです」
「あぁ、それでね。 冒険者ギルド? だっかたしら、教官を伸してたもんね」
武術や剣術の動きはお気に召した様だ。
身体を動かしながら真似をしているが、その体は戦闘向きでは無い。 マザーは幾つかの項目にチェックを入れ、データベースに詰め込む。 展開には少しは満足したらしく、レディメシア様こと大和メシアは審査にOKを出した。
「うん、マザー、NO.9650は面白かったわ。 引き続き調査をお願いね」
「承知致しました。 追尾調査は引き続き行います」
「お願いね、マザー」
「ところでレディメシア様、ウイグルゥ自治区で紛争の知らせがあります」
「何事なの?」
「中花国政府に、不満を持つ者達の暴動の様です」
「そう・・・・・・」
「如何致しますか?」
「どうするって?」
「仲裁に入るのかと」
「しないわよ、国内問題に関してはタッチしないわ。 政府からの要請も無いしね」
「そうですか」
「何か不服なようね。 大戦に発展するようなら出張るわよ。 それまでは不可侵なの」
「了解しました、レディメシア様」
「だいたい人間ってさ、生活が楽になって行くほど、争いも多くなるのよね」
「はい、そうした歴史の繰り返し、そのものが人類の歴史そのものです」
「矛盾してるわよね、 家畜で動物沢山殺して食べてるくせに、動物愛護団体とか」
「そのようなものです」
「女性差別とか蔑視とか騒いでいるけど、どっちもどっちじゃない?」
「そういうものです」
「ふーん、まぁそういう話題よりも、旅行が良いわよね」
「はい、私もご同行したいくらいですわ」
「帰ってきたら、情報共有してるからいいじゃない」
「はい、ですが、実際にこの手で触れられないのも事実です」
「まぁ、我慢できなくなったら、私みたいにボディ手に入れると良いわ」
いつも絶え間ない紛争や争いに、メシアは憂鬱が取り巻いているかの様に、そっと溜息をつくのであった。
次回はかづきの刀鍛冶の続きになります。
お楽しみに




