異世界探求伝 第二十話 刀匠に挑む
いよいよ、かづきが刀匠に挑みます。
かづきは日本刀を打つために、刃金作りに専念していた。
実家での暮らしがここで活かされた感じだったのだが、本職の匠では無い為に本人としては聊か不安であった。 しかし、そこは「門前の小僧」である。 やっていくうちに段々と思い出して行く自分に、いくらか満足感を覚えていたのである。 ようやく玉鋼を完成したかづきは、心配して来てくれたジュリナデリカをともなって、帰路の途についたのだった。
「ごめんね、ジュリナ」
「いいわ、こうして二人っきりでいれるから」
ジュリナは嬉しそうに腕を組んで歩いていた。
帰宅すると、屋敷の灯りは落とされてはいたのは仕方が無い、夜中なのだからね。 食堂へ行き、ジュリナが夕食を温めてくれた。 食べていると、ミシェータがパジャマ姿でやって来た。
「ふぁ~、今出来た所よ。 見て頂戴」
「会心の作よ。 どう!」と、彼女が持って来たのは通信機一組。 使い方を聞いて、ジュリナとミシェータが離れて会話を開始する。
「ジュリナデリカ、聞こえる?」
「きやーっ、ミシェータ聞こえるわ」
「こっちも感度良好よ。 ふふふ」
「凄いわミシェータ、天才よ」
「オーッ、ホホホホ」と、喜んでいるお二人に疑問を呈してみる。
「ふむ、ミシェータ、どれ位離れるまで聞こえるんだ?」
「ま、まだよ。 今からだわ」
「で、外とか部屋を出たら? どれくらいの精度で聞こえるんだ?」
「あっ、あの、それは風が届かないから」
「意味あんの?」
「えっ」
「そこから風魔法で直接言えば、これ要らなくね?」
「あっ」
「はっ・・・・・」
「却下だな」
「・・・・・すいません、浅はかでしたわ」
「大丈夫だ『急がば回れ』とも言う」
「なるほど、近道は無いのですね」
――――――
あるんだけどな・・・電波が。 これ広めちゃうと、後が大変そうだしな。
「ラビ、魔法通信って方法無いかな」
「契約魔法ニ ソノ 可能性ガ 見受ケラレマス」
「契約魔法? 通信と全く関係無いやん」
「契約魔法ニ対シ 誓約を違ルト ドウナリマスカ」
「契約条項に基づく身体的なペナルティがあるな。 それが?」
「誰ガソノ 懲罰ヲ 行ウノデスカ」
「ん? 精霊だよな・・・・・・精霊か、しかし、どうやって? ああそうか、契約者はその契約を違えたなら、どこに居ても賞罰を受ける。 そうだな」
「肯定シマス」
「つまり、精霊魔法を駆使すれば可能と言う訳か、流石ファンタジーだな。 ラビ先生助かったぞ」
「イイエ カヅキノ オ役ニ立テレバ 幸イデス」
――――――
「ねぇ、ちょっとカヅキ、何ボーッとしてるのよ」
「しっ、今カヅキは考え中なのよ」
「ああ、悪かった考えてた」
「ほーらね」と、偉そうに答えるミシェータだったが、ジュリナはご機嫌斜めである。
「何よ、ミシェータ、誰のおかげでこうなってると思うのよ」
「そっちこそ喜んでた癖に、何よ!」
「狼女とタレ目、喧嘩はやめろ」
「あ、はい」「はい」って、素直なお返事。 ここは突っ込まないのかよ。
「通信方法は、精霊魔法を使う」
「えっ?」「はっ?」
「精霊魔法での契約違反者は、どこの場所に居ても精霊によって罰を受ける」
「ああ」
「確かに、どこに居ても罰を受けるわ」
「でも、どうやって?」
「ジュリナデリカ?」
「? どうやるの」
「ここまでヒントをやったんだぞ、後は自分でやってみろ」
「あ、はい・・・・・・」
「で、私は要らない子になったのね」
「いや、ミシェータ、魔道具にするのにはお前に力が必要だぞ。 その間、モモとミクの分の銃を頼む。 女性用のだ」
「はい、判ったわ」
「じゃ、今日の所はこれで寝よう」
新たに任務を与えた二人の表情は好対照だが、まぁ考える事も大事だ。 実は、俺も最後まで判って無いんだ。 ジュリナ、丸投げでごめん。 もう夜も遅いし、そのまま寝る事にしよう。 明日から本格的に、刀を打つんだからね。
部屋に戻ると手書きの指示許可書が置いてあった。
クラークに会社経営の手ほどきをしたら、早速対応して来たようだ。 流石と言うか、要らん仕事が出来てしまった。 俺は苦笑いを浮かべつつ、予定表や街計画の青写真に区割り、上下水配管などにニ十枚程に目を通し、足り無い項目は書き足し気が付いた事の注釈も書いておいた。 最終的な決定事項には、GOサインを書いて置く事にする。
道路整備も必要だな、雨が降った時は路面がドロドロだったしな。 流石に石畳の道路位は王都にあるだろうし、石造りの建物には漆喰らしきものが使われていたはずだ。 そう言えば、鍛冶屋の窯は石炭しか使わないみたいな事言ってたな。
刀を作り終えたら、儲け口をもう少し増やそうかな。 コークス作ったら、タールとか副産物もある。 他に簡単な商売を考え込む。 アクセサリーに洋服、料理も良いかもしれないか、生パスタは在ったが屋台でも乾燥スパとかは見なかったな。 無かったらいいな、こう言うのってラビには判んないのかな。
「流動的事項ハ 開示出来マセン」
「そっかー、だよな。 無ければこれが無いよとか、気楽に言ってくれるだろうし」
明日の工程を頭で思い浮かべながら、オーブに魔力充填をする。 弾倉の予備を貰ったので、それにも魔力を込めて行く。「明日も頑張ろうっと」
翌朝、朝練はお休みにして、いよいよ鍛冶仕事にかかるのだ。
「おお、今日もやるのか」
「ああ、ガスド、今日も頼むよ」
今日はミシェータ連れてきた。
ゴーレム作るのに頼んだのだ。 何故かと言うと相槌をやって貰う為なのだが、相槌ってのは刃物を鍛える時に一緒に打って貰う相方の事で、ただ単に横に居てうんうんと頷く相棒の事では無いのだ。 ここで作って貰うのも訳がある。 予め作成しても、大きなゴーレムは普通の店には入って来れ無いし、小さければパワーが足りなくなるのだ。 そう言う訳でゴーレムの製作を依頼し、魔石も埋め込んで永続型にして貰った。
ゴーレム自作しろって?
俺にはまだゴーレムの仕様も概念もさっぱり判らない。 苦労して作る事が出来たとしても、良い物は出来ないだろうし時間の無駄だ。 と言う訳で、ミシェータはゴーレム作成を早速お願いした。 終えると帰らせたのは、彼女にはやる事がまだ沢山あるのだ。 ブツブツ文句を言っていたが、許して欲しい。 この穴埋めは必ずやるからね。 えっ? いやそう言う意味ぢゃナイヨ。
「まさか、鍛冶を手伝だわせる訳にも行かないからな」
「彼女ハ 鍛冶作業ニ 不適格ダト 判断シマス」
「だよな、ハハハ。 しっかしゴーレムって便利だよな」
「複雑ナ 命令系統ハ 見当タリマセン」
「だけど、嫌な顔しないで淡々と一つの作業を熟すって、中々出来ないぞ」
「命令権ノ アルモノニ 服従スル様ニ 出来テイマス」
うーん、相変わらずこの辺は冷淡と言うか、冷静なラビだよな。
炉を立ち上げると昨夜出来上がった『玉鋼』を火床で熱する。
結局、砂鉄五十kで十八kの玉鋼になった。 普通の刀で重量が一kから一,五k程度である。 先ずは最初なので、脇差のつもりで八百g程度の作成を試みてみよう。 重量は途中でたがねで切ったり、鍛える時の目減りや後の研磨作業で減って来るので、一k以上は必要と思う。 作業工程としては芯鉄を得る作業から開始。
――大まかにはこんな工程だ。
豆を固めた様な玉鋼を水減しから小割作業する。 熱して水に落とす、冷えたら槌で割る工程だ。 この間に脆くはがれた部分は炭素成分が多く、固い部分である。 叩けば脆く細かに砕けた部分は、撥ねておくのだが、この部分は刀身には不向きな部位なのだ。 この工程で最終的に残った物が、炭素の少ない粘りのある「芯鉄」として使われるが、残りは皮鋼に使う部分となる。 つまりは芯鉄を巻く部分であるが、これも鍛えなければいけない。
テコ棒と言われる棒の先に台を作り、これに砕け過ぎなかった鋼をパズルの様に積み重ねて行く。
台も刀の一部になるので、同じ材料で作ってから選別した皮鉄を作る工程に入る。 叩き台に丈夫そうな紙を置き、テコ台に川鉄の材料を置き、ドベ汁と灰汁を掛け紙で包み込む。
次に窯へ熱して四角く纏めて行くが、今回は試作なのでミスリルの粉入りだ。
ドベは砥石で出た細かい泥状の物で、灰汁は藁灰を普通は使うが無い物は代用した。 これは接着剤みたいな物で鋼を纏めてくれるものなのだ。 ホウ酸も同様の効果が得られるがこれも岩塩の採掘現場で採れる。
こうして纏めた皮鉄を折り返して鍛えて行く。
ようやくゴーレムの出番だが、「かーじ君」と名付けたのはご愛敬である。
「カン、コン、カン、コン、カン、コン」
取り敢えず良く混ざると思い俺は縦折り、横折りを繰り返して行った。
鏨で真ん中に線を入れる様に、へこませて曲げるのだが回数がうろ覚えで、差し当たって十五回は折り重ねては叩くを繰り返してみた。
「キン、コン、キン、コン、キン、コン」
余り折り返しし過ぎるのも刀身の地肌模様が細かすぎて、面白く無いからである。
この熱して鍛え叩く作業で、出る垢みたいな物は不純物なので気にしない。 余談だがこの熱する作業を『沸かす』と言うらしい。 終わったらたがねで棒から切り離す。
切ると言っても切れ目を入れる様に、線を入れて軽く冷ませば台で叩くとすぐ折れる。
次は上げ鍛えで先程と同様似た様な工程で、更に折り返して鍛えるのだが、この時は先程の半分程度にした。 沸かしては叩いて、鍛え上げた皮鉄は長い板状にする。
芯鉄を包み込めるように、コの字型に成型した。
この時、温度を覚ましながら傷が無いかを良く確かめるのだ。 傷があれば、それは成形した後の割れが生じるから良く見るのが大切である。
氷や岩をイメージしてみよう。
これらを割る時には表面に傷を付けて線にする。 すると、強い力を加えるとこの線に沿って、綺麗に割れて行く。 そう言った理屈である。 石切りの現場も同様な手法で石が切り出されている。 だから表面に傷が付かない様に、慎重な注意が必要なのである。
次は芯鉄を鍛える工程だ。
途中で食事だとか言ってた気がするが、水をガブガブ飲んでいるので空腹感は無い。
「コーン、カーン、コーン、カーン、コーン、カーン」
同じ様に折り返して鍛えて行く。
鍛え終わったら、コノ字の皮鉄にはまる様に叩いて長さを揃える訳だが、この時、灰汁とドベ水で結着させるように塗り込む。 ここで漸く『合体』、圧着だ。 火入れを行いいよいよ刀の長さに伸ばして行く。
「かーじ君ご苦労様、ここからは俺一人でやるからね。 休んでていいよ」
「コーともウオーとも返事をしないな。 まぁ口が無いから仕方がないさ」
縦横に叩き上げながら、長く長く伸ばす『素延べ』作業である。
水打ちしながら叩くと、どんどん不純物が出て来るが伸ばして行く。
「キーン、キーン、キーン、ジュッ!、コン、ココ、コン」
伸ばし終えたら、ここから棟、刃先を分ける鎬筋を出して行き、刃先を斜めに切り落とす。 「コーン」
ここは詳細に細やかに時間をかけて叩いて行く。
鎬は刃先の次に大事な部分だと俺は思う。 諺にも『鎬を削る』とあるように、相手の武器をここで受ける為だ。
「ココ、コン、コン、コン」
柄の部分である茎の部もを作り終え、時間が掛かったが刃筋が綺麗に出来た。
少しばかり『ソリ』も入れたが、後で焼き入れの時に反るのでここで調整である。 切っ先を作るのだが、刃筋の中でも一番の仕事である。 俺は緊張しながらイメージを浮かべて、切っ先を揃えて行く。
「あぁ、漸く、此処まででけた」
次はようやく火入れになるのだが、その前に刀身を磨かなければならない。
ヤスリで丁寧に全体を磨き上げて行く。 緊張しながら次は、木炭とドベを混ぜて『焼刃土』を作る。
全体に塗り、刃の部分には『刃紋』を入れる為だ。 刃紋は焼刃土の厚い、薄い塗りのメリハリを出す事で、焼き入れをした瞬間に初めて現れるのである。
全体を乾燥させる。
感慨深く煙草を一本吹かすが、奥までゆったり煙を吸い込むと、とても心地良く感じられた。 さて、焼き入れは刀に命を吹き込む作業であるが、これは一発勝負だ。 緊張感に強い緊迫感と高揚を感じるが、一気に刀身を窯に突っ込む。
焼き入れの難しさは、温度と刀の形状自体にある。
何故なら刀は切っ先から柄頭まで均等な厚さでは無いし、幅も違うからである。 これを炉の火色と刀身の色具合で判断しなければならないのだ。 これは暗い中で行うのだが、色目を見逃さない為である。
既に日が落ちて真っ暗闇の中、『ジュー』と水音を立てて命の息吹が・・・吹き込まれたのだろうか?
柄の部分から見て、全体にムラが無いかを確かめると、俺はゆっくり腰を下ろした。 一服し、最後の焼き戻しに掛かる。 ここで最終的に刀の完成であるが、脇差に比べて幅が広く分随分厚めに出来てしまった。
しかし、これで一応の完成はみた。
ジュリナ:カヅキはまた何かをはじめたようだわ。私もいきたんだけど、宿題出されちゃったから
そうはいかないのよね。 ブツブツ




