第2話 ポンコツ令嬢の尻拭いは私の役目らしい
現在私たちは、一条邸の豪華すぎる客間を世界一くだらないことに使っていた。
「飛鳥様、引く足が逆です」
「えっ」
「あと背筋。ふらふらしないでくださいませ。鳩みたいです。」
「鳩……!?」
まさに鳩が豆鉄砲をくらったように口をパクパクさせる飛鳥様。
このポンコツ鳩が、1000年以上の歴史を誇る名門・一条家のご令嬢だなんて誰が信じられるだろうか。
あと半年後には2人とも初等部に入学する予定なのに……今のところ院瀬見家もろとも没落一直線なんだけど、大丈夫?
とりあえず、飛鳥様のポンコツ具合を入学式までに隠せるようにするのが直近の目標です!
飛鳥様、マナーは大丈夫ですか?
スカートにシワが寄っていますよ。
あ、転んじゃった。
……泣かないでください。
そんなこんなで翌年、私たちは国内屈指の名門校『黎明学園』の初等部に入学した。
入学式当日、あまりの緊張に目が逝ってるポンコツ……もとい、飛鳥様の小さな手を引きながら学園の講堂へ向かう。
「飛鳥様、つきましたよ。しっかりしてくださいませ。」
「……ハッ!失礼いたしましたわ。ありがとう、舞衣ちゃん。もう少しで宇宙の外側までトリップするところで……」
「なにを訳の分からないこと言ってるんですか。それと、ここでは舞衣ちゃんとお呼びするのはお控えください。」
飛鳥様は一瞬、瞳を揺らして伏し目がちに頷いた。
「わかりましたわ、舞衣さん……」
いよいよ黎明学園の門を通る。
門前には桜並木が広がっており、正面玄関は煉瓦造りの厳かな雰囲気が漂っている。
うわ〜〜実際に見るとやっぱりめちゃくちゃ豪華だなあ
なんとなく情報は知ってたけど、これ敷地どこまであるの!?
黎明の桜並木を優雅に歩く生徒たち、その手を引くお母様方は謎の皮(?)のバッグや真珠のアクセサリーを身に付けている。
……一体いくらするんですか、それ。
しかしその中でもやはり飛鳥様は別格だ。
流石あの一条家のご令嬢、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花ということわざを齢6歳で体現させる本物中の本物。
「まあ、あの方が一条家の飛鳥様?」
「なんて優雅なんでしょう、本当にうちの息子と同い年ですの?」
周りの飛鳥様に対する感嘆の声が聞こえる。
……やった、やったわ院瀬見舞衣!
ここ最近の私の苦労が実を結んだのよ!!
これまでの飛鳥様の教育は本当に、ほんとーーーに大変だった。
まず、院瀬見家の私が格上の一条家のお嬢様に教育を施しているなど周りに知られたら大問題になってしまう。
なので大人達には無邪気に遊んでいるとみせかけ、その実飛鳥様にスパルタ教育を施していたのだ。
「飛鳥様、立ってる時に揺れないでくださいませ!」
「うぅ……」
「座る時に音を鳴らしません!」
「は、はい……!」
「あと歩く時に腕を振りすぎです! 軍隊の行進ですか!」
「仮にも淑女に軍隊ですか!?厳しすぎますわー!!!」
そんな日々を乗り越えた結果。
飛鳥様は淑女の鏡のような完璧な女の子に成長し、私はツッコミ技術が進化した。
いや、いらないよこんな特技。
しかしまあ、飛鳥様もピーピー喚きながらもこのスパルタ教育をよく乗り越えてくれた。
腐っても名家の直系血筋、ポテンシャルは人並み以上に高いらしい。
まあある時、
「見ててね舞衣ちゃん、これなら無駄な音を鳴らさず静かに走れるわ!」
と、江戸走りを披露された時は流石に頭を抱えたが。
思わず引っぱたきそうになったのを堪えて、優しく注意したのだけれど飛鳥様はなにかとんでもなく恐ろしいものをみたような顔をしていた。
……そんな顔するほど怖くないでしょ、私。
ポンコツ嬢の尻拭いはまだまだ始まったばかりだ。




