転生先は“取り巻き役その1”でした
長編予定ですがある程度結末まで考えた状態で執筆しているので、ストーリー展開難航による更新停止はない……はずです。ぜひ彼女たちの物語を一緒に見守ってください。
広いお庭でお友達と遊んでいた日、私は前世の記憶を思い出した。
前を走るあの子が転びそうになって、思わず手を伸ばした勢いで頭を強く打ってしまったのだ。
──────その刹那、知らない記憶が流れ込んできた。
web小説『僕らのwinter story』
私が前世で読んでいた、名前の通りクソつまらない小説。
なのになんだかんだ最新話まで読んじゃうような、いわゆるスルメ作品だ。
まさにこの広い庭はその小説に出てくる旧名家・一条財閥のご令嬢、『一条飛鳥』様の邸宅じゃん!
そして私はその一条飛鳥──────ではなく、一条飛鳥の取巻き役その1だった。
えー!?取り巻きその1って、要するにモブ役!?
転生モノといったらヒロインとか、悪役令嬢とか、ラスボスとかそういうのじゃないの?
せめてもっとなにかあるでしょうよ、普通!
なんて馬鹿なことを広大な空を眺めながらつらつら考えていると、先程私が庇ったあの子がものすごい勢いで駆け寄ってくる。
風に靡く絹のような黒髪、小学生にして毅然とした佇まい。
そうかこの子こそが、この物語のヒロイン・一条飛鳥ちゃんだ。
─────空と庭が逆になっていく、意識がもう遠ざかっていきそうだ。
最後に一言だけ、
「飛鳥ちゃん、怪我は無い?」
目の前の少女の瞳が揺れ、私の意識は途切れた。
目が覚めると、私はありえないくらい豪華なお屋敷の一室に寝かされていた。
……うん、やっぱりここは『僕らのwinter story』の世界で間違いないね。
そして私の名前は『院瀬見舞衣』、現在五歳。
だんだん思い出してきた。
あの小説、最後はどうなって終わったんだっけ?
細かくは覚えてないけど、確か最終的に一条財閥は倒産、その傘下グループも軒並み没落、みたいな感じだったはず。
よくある転生モノなら婚約破棄からの断罪、とかなのかなあ。
正直お嬢様方のイザコザなど知ったこっちゃないけど自分の家が潰れるなら話は別だ。
私は一条財閥が潰れるのをなにがなんでも防がなくちゃいけない。
「舞衣ちゃん、大丈夫!?」
うつらうつら状況を整理していたら、黒髪の少女が揺れる瞳で覗き込んできた。
うわ、リアル一条飛鳥様だ!
改めて未就学児なのに恐ろしいほどの美人、さすが主役級……
「聞こえてる!?……大変、お母様を呼んでこなくちゃ!」
ビックリしすぎて返事を忘れてしまっていた。
慌てて大丈夫、と返そうとしたその時
どべしゃ。
という謎の擬音語が飛んできた。
何が起こったかと言うと、段差も何も無いところで飛鳥サマが躓き、私の為に持ってきてくれたであろう薬やらタオルやらを頭から被っていた。
「だ、大丈夫……?」
状況がよく理解できなかったが、とりあえず安否確認してみる。
「だ、だだ大丈夫ですわ!失礼いたしましとぅわあー!!」
飛鳥ちゃんが立ち上がろうとして掴んだ棚に置いてあった花瓶が倒れた。
「あ、飛鳥ちゃん!?」
飛鳥ちゃんは反射で避けようとし、思いっきり襖にぶつかり、物凄い音を立てて襖ごと倒れた。
おお、見事なピタゴラスイッチ。
「きゃー!!お嬢様!?」
「大変!人を、人を呼んできて!!」
騒ぎを聞きつけた使用人が駆けつけ、たちまち大騒ぎになっていく。
─────あぁ、思い出した、一条財閥が没落した訳を。
この、ポンコツお嬢様がやらかしにやらかしまくったせいだった、そういえば。
再度飛びそうになる意識を堪えて、痛みが響く頭を抑える。
ついさきほど、自分が生き抜くために一条家を破滅から守り抜くと心に決めたけれど、どうしよう。
もう既に投げ出したくなってきちゃった。
絶望的な未来を無理やり振り払い、床で濡れながらもぞもぞしている芋虫みたいなお嬢様に、私はこう言った。
「飛鳥様、その転び方は財閥が潰れます」
「────え??ど、どういうこと?」
「いえ、ただのタイトル回収です。それより怪我はありませんか?」
「け、怪我なんて、そもそも転んでなんかいませんわ!舞衣ちゃんの方こそ、とても心配したのですよ!」
襖に引っかかりながらモゾモゾ必死に主張してくる。
私はそんなポンコツ高飛車お嬢様に呆れつつも手を貸し、頭に被っていたタオルやら薬やらの処理するなど、看病される側だったはずなのにいつの間にか介護する側に回っていた。
幸先の悪さに思わずため息をつく。
これは財閥令嬢、もといポンコツ令嬢の尻拭いのモブキャラに転生してしまった、わたくし院瀬見舞衣の不憫な物語である。
神様仏様、どうか院瀬見家も一条家も没落しませんように!!!
この先もどうぞよろしくお願いします!




