1章 1.憂鬱な朝
朝食が美味しいと感じなくなったのは、いつからだろうか。
目の前のトーストにバターを塗る手が止まる。
食べ物を前にしても、食欲が湧かない。
喉に滑り込ませるだけで、味など何も感じない。
体に力が入らないまま、食卓に座り、ただ朝食を口に運ぶのが日課となっていた。
あの日、静まり返った会議室に響き渡った、自分のお腹の音。
『グルグルグウウゥー』
お腹の中で魔物が暴れ回っているかのように、大きく鳴り響く音がした。
その瞬間、思わずこのまま魔物と共に切腹したいとさえ思ってしまうほど、恥ずかしさで顔が熱くなった。
それ以来、朝食を取る理由が変わった。
空腹を満たしたいからではなく、恥ずかしい思いをしないため。
会議中に魔物を起こさないためだ。
毎朝、無機質な朝食の時間が終わると、冷たい会社の空気が待っている。
机に向かえばただやらなければならない仕事が積み重なっているだけだ。
数え来れないファイルと報告書に囲まれ、頭を働かせるのは義務感からだけ。
いつの間にか結人にっとっての、やりがいも色を失っていた。
満たされることのない空腹と、満たされることのない心。
それが結人のいつもの朝だ。
そして、またいつもの憂鬱な気分で会社に向かう。
街の景色はいつもと変わらず、灰色のビルが並ぶだけの殺風景。
家から会社までの道のりには、何の彩りもない。
いつからだろうか、この道がこんなにも味気なく感じられるようになったのは。
大学を卒業して大手企業ではなく、この中堅の会社を選んだのは、少しでも早く会社の力になりたかったからだ。
入社当初は、無機質な景色にもわずかな光が見えていた。
オフィスビルの並ぶこの街が、自分の未来へ続く道に見えた日もあった。
けれど今、その風景はただの背景でしかない。
慣れてしまった景色が、日に日に重くのしかかっている様だった。




