プロローグ
「何度言わせたらわかるんだ!」
眉間に皺を寄せ、いつもの様に顔を真っ赤にし声を荒げている。
そう、この人が僕の会社の経営者兼社長。
山本直樹だ。
「山本さん、私の教えが悪いために・・・すみませんでした・・・。」
目が泳ぎながら謝っている彼もきっと裏では山本直樹の事をブラック・ナオキと呼んでいるのだろう。
自分の気に入らないことは徹底的に潰す。
そんな傲慢で我儘なブラック・ナオキの事を尊敬する人なんているのだろうか。
それでも、自分一人で社員数約四百人の中堅企業まで育て上げたのだから秘める力があるのだろうと僕は考えていた。
「キミだよ!キミに言ってるんだ!聞いているか?」
ブラック・ナオキは腕を伸ばし僕を指していた。
「はい!聞いています!どうか撃たないでください…。」
「撃つ?撃つって何を撃つんだ⁉︎」
そう怒鳴りながら、怒り狂った闘牛のように僕の方へと向かってくる。
直樹の指先は、今にも凍てつく閃光を放つかの様に、真っ直ぐ僕の事をロックオンしている。
僕の頭は混乱し、言葉がすぐに出てこない。額からは冷や汗が流れ落ちる。
そのとき、スマートウォッチが軽く振動した。
ちらりと見ると、画面にEMMAからのメッセージが表示されている。
「結人さん、落ち着いてください。『ご指摘を整理し、さらに改善できる方法を提案させていただきたい』と伝えてみてください。山本さんの信頼が得られるはずです」
冷静なエマのメッセージを読み、僕の心は少し落ち着きを取り戻した。
「あ…えっと…ご指摘を整理し、さらに改善できる方法を提案させていただきたいのですが…」
山本直樹が腕を組み直し、疑いの目で僕を見据えていたが、少しだけ満足した顔で頷いた。
「まぁ、いいだろう。考える時間はやる。その代わり俺の期待に応えれない時は覚悟しておくんだぞ」
そう言い残し重い空気に包まれた会議室を去っていった。
僕は椅子にもたれ掛かりながら胸に手を当て、心の中でエマに感謝した。
この緊迫した場を乗り越えれたのは、間違いなくエマのおかげだ。
今の僕にとって、エマはただのAIじゃなくパートナーだった。
どんな困難にも冷静に対応し、助けをくれるパートナー。
だけど、まだ結人は知らなかった。
この先、待ち受ける数々の試練と、僕とエマが共に歩むことになる永遠の隙間を。




