黙認は逆賊、奮起は英姿。総理、ご決断を
絢爛な総理官邸の書斎は押し寄せた大臣達で息が詰まる。
ユリナ知事は政治家達の動向を見守ることしか出来ないことに、憤りを感じていた。
落ち着かない様子の総理は高価な革製の椅子から立ち上がり、演劇のセットのような窓へ寄って世話しなく指でヘリを叩く。
この街を含め国の大黒柱たる彼は、外務大臣へ圧をかけて聞いた。
「どう? ジャガン・エスニシティはこちらの呼び掛けに答えてくれるかな?」
「強引ですが相手方がこちらに行ったように、無線機の周波数を幾度と変えて通信に割り込む形で呼び掛けていますが、全く反応がありません」
「相手から呼び掛けといて、こちらの呼び掛けに無視ですか……困ったね」
立ち並ぶ大臣達の後ろに隠れたユリナ知事は、外交の有段者に対し、差し出がましいと思いつつ提案を述べる。
「外務大臣。人が住まう街獣には大使館が設けられています。大使館経由で呼び掛けることは出来ませんか?」
「えぇ、大使館は有りましたが、それは昔の話です。過去の戦争が激化し駐在する大使や外交官の身に危険が及ぶと判断し、引き上げさせました。更には我が街ユウガが永住するこの土地、資源である神酒を守る為、他の街獣への情報漏洩を危惧し、大使館制度を廃止したのです」
ユリナ知事は耳を疑った。
「そんな、まさか……我が街は自ら鎖国へ歩んだとおっしゃるのですか?」
「戦後はそれがこの街を死守する最善の策だと考えられたのです。でなけれぱとっくの昔にこの豊富な神酒が流出する場所は、他の街獣に略奪されていました」
総理は外務大臣を養護する。
「その通り。全ては街に生きるユウガ民族の為を思っての政策です」
ユリナ知事は己の憤怒に心をかき乱される。
大使館は和平を繋ぎ止める糸電話のような物だ。
細く途切れそうでも常に他の国家と繋がり、互いに誤解があれば大使館を通じて意思を明白にする。
和睦を効率良く進める際の緊急回線だ。
その和談に必要な糸を自ら断ち切るなんて、愚行。
いや、もはや蛮行だ。
ここに来て防衛大臣は非常時にも関わらず生き生きとし始めた。
一歩前へ出て総理のデスクに近寄り胸を張ると、軍服を彩る勲章が金属の心地よい音を鳴らす。
彼の勇ましい声が総理の背へ向けられた。
「進言いたします。これより先は最悪の事態からなる有事が想定されます。もはや一刻の有余もありませぬ。我が街は侵略者にどう態度を示すか。黙認は逆賊、奮起は英姿――――総理、ご決断を」
続きを執筆中の為、次回はお休みとなります




