幕間:おじいちゃんはどうしていたのか その弐
『ほーれこっちじゃ、向こうにおるぞ、あ奴らがのう……』
『えっ?』
指さす方向に誰が居るのか。一瞬確認しようと思って……しかし一歩間に合わず既に巨牛は走り出した。呆然としている暇も無い事を悟り、仕方ない、ここで何もせずに行かせるのも出来ず、仕方なしと鮫も走り出した。
『ど、どうなさってんですか!? 何があったんですか?!』
『匂いじゃよ……後はまぁ、長年の勘じゃな。勘』
『勘ですか? じゃなくて、一体何を追いかけてらっしゃるんですか貴方は……』
その直後だった。飛び出した先に見えたのはずらりと並んだ武装兵。全員アサルトライフルを構えた武装兵ばかり。思わずその光景にゾッとする。
『えぇっ!? 嘘ぉ!?』
『おったおった! よぉし狩りの支度と行こうではないか! 暴れるつもりは無かったというのに……一度暴れ出してしもうたら、もう止まらぬわ!』
まるで脇目も振らず、一気に巨牛は走り出す。スピードを自らと比較し、これは付いていくのは不可能、そもそも完全に足手まといになると判断し、鮫はその場にとどまった。
『というか……明らかに牛頭さんよりも身体能力が高いですよね。あの方』
単純な足の速さでも、恐らくは当社比1,5倍近い差がある。というか、今の一振りで人が簡単にふっ飛ぶのである。もうあの老牛が若干何かしらのアトラクションに見えてきても、仕方ない。
『って……あれ? ちょ、何処へ行くんですか!?』
しかし、その彼らを標的にしていた……と思われた老牛は、彼らをボウリングのピンの如くなぎ倒したそのままに、更に走り出して行ってしまう。標的は、彼らではなかったのだろうか。
『ヌハハハハ! こやつ等の視線でおおよその場所は掴んだ! 一気呵成に本丸を叩く! さぁ、狩りの始まりじゃあ!』
『本丸って! ちょ、ちょっと! 待ってください!』
しかし聞こうにももう老牛は木々の間に消えそうな勢いだ。仕方なしに、鮫もその屈強な足をフル活用し、彼を追いかける決断をせざるを得なかった。鮫にも、場の空気を読むという知識は残っていた。
『(それに、牛頭さんと引き合わせてくれるかもしれないからな)』
正直、山の中で彷徨うだけで牛頭と再開できるかは微妙だというのは分かっていた事である。彼ともう一度合流する為にも、ここで乗らない選択肢はない。
『――ちょっと、待ってください!』
『どうした! 鈍いぞ!』
『いいえ、貴方が可笑しいんですよ! どうして山の急斜面をそんな速度で走れるんですか! というか手伝えと言っておいて置いてきぼりにする勢いで走らないで!』
『はっ! この後ハチの所までとんぼ返りするんだぞ! そんなんでどうする!』
話をする前に合流できそうだった。余りにもとんとん拍子だった。お孫さんとの事情等一切話さず、流されるままに進んだというのに、ここまで都合が良いとなんだか申し訳ないくらいに思えてしまったが……
『(……まぁ、都合がいいし、このまま行こうか)』
存外、この鮫は強かだった。罪悪感こそあれど、このままこの老牛に付き従って動けば上手く行くものとキッチリ判断が出来ていた。奇跡的に、自分が無事に生き残る流れが出来たのである。そりゃあ乗らない選択肢はない。
『――しかし、このままじゃいかんのう』
『何がですか?』
『逃しちまう。こういう時、遠くから見ている奴らは自分達が見つかったと分かれば、直ぐに逃げるからなぁ……よし、ちょいと強引だが、やってみるか』
先ほどの兵隊たちから何を察したのだろうか。そう考えていた一瞬の間に、老牛はその手にしっかりと……子供の頭蓋骨ほどある、結構しっかりとした石を握りこんでいた。
『えっ』
『……まぁ、凡そ視線の先あたり、適当な所を……っと! アレか』
直後である。その石が物凄い勢いで宙を舞った。走りながらのそれとは思えない程に。多分、直撃したら人間の頭がトマト染みた状態になるのではないか、と。
『ちょっと!? 何急に物ぶん投げてるんですか!? あんなもの人にぶつかったら危ないですよ!?』
鮫は激怒してしまった。先ほどから事なかれ、流され主義だったこの鮫にも、常識という者はあった。銃火器を持っていた輩を吹っ飛ばすのは、まぁ百歩譲ってもありでも、あんなしっかりとした凶器を唐突に射出するカタパルト行為は犯罪である。
『大丈夫じゃ! それを気を付けて、軽く山なりに投げておる! 滅多に人には当たらんじゃろうよ! 凡そ距離もあってるじゃろうから……』
――……ゴォン!
『っしゃぁ! ジャストミート、という奴かのう!』
『いや何かに当たった!? というか本当に何を狙ってたんですか!?』
そしてそのカタパルト行為が何かしらの成果を上げていたのに悲鳴を上げた。全ての道理を蹴飛ばしたような暴挙が成果を上げるのを流す程、鮫とて常識を捨ててはいない。
『なぁに向こうの方に、車が一台程な……ほれもう一発行くぞォ!』
『向こうってどの辺りに、って駄目ですってあぁああああまた……飛んでいく……』
流石に二発目は留めようと口を挟んだのだが、どうやっても届かない。寧ろ届く気がしない程に力強いスイングに、思わずその表情の浮かばぬ瞳からハイライトが消える。
『――よし、着弾!』
『あぁもう……ひっちゃかめっちゃかだ』
牛頭さんとの再会の起点になると思ってついてきたが、コレは駄目だ……等と考えながらしかし、もう引き返せぬ所まで来てしまった事を、同時に悟ってしまった。
『行く所まで行くしか……ないのか』
『さぁ、いよいよ本丸に殴り込みじゃあ。後に続けぇ!』
『ああもう分かりましたよやりますよ……』
牛頭は、この祖父に大変苦労させられているのではないか。自分の状況を鑑みるにあり得る可能性に、彼はそっと空を仰いでしまった。
なんで? 何を狙っているか? そんなんどうでもいいんだ。重要な事じゃない。悪党狩りだ!




