幕間:おじいちゃんはどうしていたのか その二
「お、Ω!? ドローンを打ち落としたアイツか……!?」
「どうして実験体の元に!? 物凄い勢いで、一直線で……! もう既に視界に捉えても可笑しくない距離に……!」
モニターに映し出されたのは……彼らが確認していた四体の未確認生命体の中でも一際に巨大な個体、通称、Ωと呼称された個体。一機目のドローンがはるか上空から見ていたというのに、それを地上から発見し、唯の投擲で粉砕せしめた怪物である。
「彼奴も居るというのに、現状の戦力だけで向かうのは余りにも愚策か……!」
彼の能力は、ドローンから確認していた個体の中でも飛び抜けて強い。他の個体が拳銃の脅威を理解しているのか、回避行動を取るのに対し、怪物的な能力を持って拳銃の雨霰を真正面から力押しで押し破ったあの怪物は正に凶悪と言ってもいいだろう。
「はい、他の個体とは隔絶した身体能力を持つ個体……お願いします! 追加部隊の投入を許可を! 確保に失敗する可能性を考えれば……」
それを知っている車内から悲鳴が聞こえるのも当然と言えば当然。しかし……ただ一人優雅に腰かけた男、彼らを統括するリーダーだけは、冷静に画面を見つめていた。
「――いや、部隊の投入はせん。寧ろ確保もいったん中止させろ」
「えっ?」
「な、何をおっしゃっているのですか?! あの実験体を諦めると!?」
「お前たちも何を言っている……寧ろこれはチャンスではないか? あのΩをも確保する為のな。幾らΩとはいえ、αと交戦して無事に済んだあの実験体を相手に……」
その言葉に、慌てていた車内の雰囲気が、ハッと静まり返る。
「無事で済むわけがない……!」
「一挙両得のチャンスという訳だ。最悪サメの実験体は死体でも構わんしなぁ。それよりもΩを生きた検体として入手できるなら!」
欲望に塗れた頂点の男は、その強欲にて、更なる先を見越していた。
「そちらの方が……! 何て事だ! 我々は最高のチャンスをフイにする所でしたね!」
「君達も広い広い視界を持ちたまえよ。そうでなくては上には立てないよ?」
男が豪快に笑う。それに釣られるように、社内に朗らかな笑いが満ちる。車内は正に欲望のるつぼだった。皆が笑っていた。邪悪な雰囲気が満ち満ちていた。
「では……寧ろ兵士たちには観戦させた方が良いのでしょうか」
「ふ。そろそろ兵士達にも色々と上級国民の楽しみを教えてくださった方が良いのではないか、とは思うがね? 出世を考えれば、ね?」
「なるほど、そう考えれば外の奴らは可哀そうですな。せっかくのチャンスを逃す事になろうとは! ははは!」
いま目の前の脅威を皮算用で測り、呵々大笑と笑う彼ら……その姿を、神はが存在していたとすれば……見ていたのかもしれない。欲望に溺れる愚かな人類の罪を。
「……あれ、待ってください……? リーダー、オメガの様子が……!」
「何?」
一人のオペレーターがその異変を察知した。
「……どういう事だ? アレだけ接近したというのに……戦っていない?」
映し出されたのは、異様な光景だった。Ω……巨大なミノタウロスが、鮫型の実験体の前に立って、その肩をポンポンと叩いている。まるで親しい仲であるかのように。
「どういうことですかね……?」
「先ほどのα相手に鮫型実験体は速攻で飛び掛かっていったというのに……? 何故、どうして戦わない……?」
全員が疑問符を浮かべている間にも、オメガはその巨体を揺らし、豪快に笑った……様に見える。そして、それに応えるかのように鮫型実験体も頷きを返している。
「――リーダー、まさか、まさかとは思いますが」
「いや、流石にあり得んよ……落ち着け……確かに、協力的な態度を取っている様に見えなくもないが……そんな、そこまでする訳がない! そこまでの知能を持っている訳がないだろうよ……!」
それが……まるで何かを打ち合わせているかのようにも見えてしまうのは、優秀である彼らの想像力をもってすれば、恐ろしい想像が出来てしまうのである。もはやあまりにも恐ろしい想像に、リーダーは頭を抱えてしまう――そして……
「――リーダー、リーダー……」
「なんだ……」
「オメガが……こっちを……ドローンを……!」
「え?」
呆然とした声が響く。ドローンの方にΩが視線を向けていた。サメも無機質なその視線でドローンを捉えていた。瞬間、その姿が自分達を射竦めたように……
「――退かせろ」
「えっ?」
「回収部隊を退かせろ! ドローンもだ! 万が一の可能性がある! 急げ、急いで撤退させろ! 我々がここに居る事を悟られるような証拠は……!」
そこまで言った所で……画面のΩが爆発したかのように走り出した。その先には……近辺にまで到着していた回収部隊が居た。
「ひっ!?」
「馬鹿な……木々に遮られて視界は最悪、匂いを嗅ぐにもあれだけ距離が離れていては不可能だ……それとも、まさか動物的な勘か何かだというのか!?」
それを一概にくだらない発想だと言えない程に、あまりにも直線的に、Ωは迷う事無く真っ直ぐに回収部隊へ向けて突き進んでいく。一切の迷いなく、余裕も見せず。
「っ! て、てった――」
しかしその指示はあと一歩間に合わず……回収部隊の目の前に巨牛は姿を現した。振り回した片腕が、全身装備に身を固め、火器で武装した兵士たちを……まるでおもちゃかのように弾き飛ばした。
「あっ……!」
「そ、そんな! そこらのチンピラとは物が違う……筈なのに……?!」
リーダーの手から、ガラスのコップが零れ落ちる。アレを止めるにはどうすればいいのか。その豊かな想像力でどう必死に考えても、方法が思いつかなかった。
でーでん。でーでん。
この後、もう一本投降する予定です。良ければお楽しみいただければ幸いです。




