第六話 着せ替え人形
ルミナスとミラベルがダンジョンを攻略してから五日経ったある日、宿のドアをノックする音が響く。
「誰だろう?」とミラベルがドアに向かい返事をする。ルミナスはベッドの上で遠い声を聞いていた。少しのやり取りの後、来訪者が部屋に入ってきた。ルミナスは訝しげに
「ミラベル、この人は?」と聞いた。ミラベルの方を見ると高齢の執事が立っていた。
「お忙しい中失礼いたします。私はこの町の町長を努めておられる、クロス ヘレナ様の執事をしている者でございます。この度はお二人の功績をお聞きになったヘレナ様が実際にお会いしてお話をお聞きしたいと申し出になられたので参上した次第でございます。」と言うと深々とお辞儀した。
「へぇ、町長直々に会いたいだなんてよっぽど暇なんだな」と言うルミナスにミラベルは
「こら!失礼な言い方しないの。すみません、性格ががさつなもので」と謝る。ルミナスは不服そうだったが、ミラベルは続ける
「町長さんにお会いするのは良いのですが、一体何を聞きたいのですか?ダンジョンの事でしたらギルドの報告書を見た方が早いと思うのですが」と言うミラベルに執事は
「もちろんダンジョンの事もですが、これまでのお二人の活躍を直に聞いてみたいという事でして」と言うと懐から一封の手紙を取り出した。
「こちら、正式な招待状となっておりますので何とど宜しくお願い致します」それをミラベルに渡すと、再び深々とお辞儀して執事は去っていった。
「さて、どうするかな。正直私は面倒臭いので辞退したい所だけど・・・」とルミナスは呟く。
「良いじゃない、町長さん直々のお誘いなんだし美味しもの食べれるかも知れないわよ」とミラベルは逆にウキウキしているようだった。仕方ないなぁっとミラベルから招待状を受け取る。
「じゃあ、ここは甘んじてお誘いに乗って差し上げますかね」と言うルミナスに
「なにその言い方。変よ」とミラベルはクスクスと笑いながら言うのだった。そして、その日は町長に会いに行くための少し上等な服を買いに行く事にした。
町に出ると二人共いつもは魔法具店や鍛冶屋やギルドに行く事が殆どなので、上等な服を買いに行くのは初めてだった。
「こういうのも良いじゃない?」とミラベルが言う。家族連れがにこやかに通りを歩き、冒険者が酒場でドンチャン騒ぎをしている。猫が道を横切りながら、眠たそうな欠伸をする。だがルミナス達は知っていた。これが仮初の平和なのだと。今もどこかで誰かが魔物に襲われ、どこかで戦争が起き、何人もの人達が死んでいっている事を。空を仰ぎ飛び去ってゆく鳥たちを眺めながら、どこか憂鬱になりそうな時ミラベルが
「楽しめる時に楽しむのは悪い事じゃないわ。次いつどこで戦いになるかなんて分からないのだから。」と微笑みながら言う
「そうだね。今日はミラベルで着せ替えごっこで遊ぶとしましょうか」と意気揚々と言うルミナスに
「残念。今日の着せ替え対象はあなたの方よ」と返すのだった。
しばらく大通りを歩いていると一軒の服屋を見つけた。ここにしましょうと入る二人。
「いらっしゃいませ」と店員が出迎える。二人は店員に町長と会う事を伝え、相応しい服を見繕ってもらう。数着用意された服をミラベルはあれでもないこれでもないと悩んでいる。そして
「ルミナス、ちょっとこれ着てみて。」と薄いピンクのワンピースを渡す
「いや、こんなひらひらした服着られないよ。」と言うルミナスを言いくるめて試着室へと押し込む。
数分後、すすっとカーテンが開きピンクのワンピース姿のルミナスが姿を現す。目を輝かせたミラベルは徐に品評会を始めるのだった。そんな事を数回繰り返し、結局ルミナスはミラベルの着せ替え人形と化していた。最終的に、ルミナスは無難な紺のワンピースに決めミラベルは薄いオレンジのワンピースにしたのだった。るんるん気分のミラベルを見て苦笑するルミナスはミラベルが楽しかったのなら良いかと思う事にした。そして日は過ぎ、町長と会う日が来た。
町長の屋敷に行くと件の執事が出迎えてくれ、客間へと通された。温かい紅茶とクッキーが用意され、しばらく待つように言われる。そして数分後、扉が開き執事と若い女性が入ってくる
二人は立ち上がりお辞儀をする。そしてその女性が口を開く
「今日はわざわざご苦労である。私が町長のクロス ヘレナである。楽にしてもらって良い」と言う
「本日はお招きありがとうございます。ミラベルと申します」
「ルミナスです」と簡単に挨拶をする。三人が座ると、ヘレナは
「あー、疲れた!堅苦しいのは抜きじゃ!今日は大いに二人の冒険譚を聞かせて貰うぞ」といきなり態度が一変した。呆気に取られる二人にヘレナが
「まぁ、まず茶でも飲め!ダンジョンの件は報告書も読ませて貰ったが、あれが全てではなかろう?」と問う
「全てではないとは?」とルミナスが聞くとヘレナは
「アンデッドエンペラーをS級とは言えたった二人で討伐したのじゃ。報告書の内容では納得できぬ」
そういうヘレナの目は輝いていた。意外と食えぬ相手だとルミナスは警戒したがミラベルは
「エンペラーを討伐できたのはルミナスの力なんですよ」とあっさりと答えるのだった。ポカーンとするルミナスだったがミラベルは構わず続ける
「ルミナスは速度特化の騎士なので、私の魔法で少しダメージの入った所を集中攻撃したんですよ」と、嘘でも本当でも無い話をしらっとするのだった。
「ほう、速度特化とは珍しい。騎士といえばバランスか腕力のどちらかと思っておったが。速度特化とはどのくらい速いのじゃ?」と聞くヘレナにルミナスは
「では見て頂いた方がよろしいと思うので失礼して」と言うと座っているルミナスのワンピースの裾が一瞬靡く。何が起きたのか分からないヘレナは
「何か起きたのか?何も変わっていないと思うのじゃが」と言うとルミナスはテーブルの上にそっと片眼鏡を置く。それは扉の側に立つ執事の物だった。驚く執事とヘレナ
「いつの間に!速度特化とは言え速すぎはしないか・・・」とヘレナが驚嘆するとミラベルが自分の事のように得意げに
「これがルミナスの力です。その辺のS級なんかと一緒にされたら困りますわ」えっへんと聞こえてきそうな程誇らしげに言うのだった。
「素晴らしい!これは二人の冒険譚を聞くのが余計に楽しみになってきたわ。セバス!」と執事を呼ぶ。
二人はセバスというのか。とあまりの執事っぷりに吹き出しそうになるが必死に我慢した。
「はい、セレナ様」とセバスが返事をする。セレナはご機嫌で
「今夜は宴じゃ!今すぐ用意せよ。酒をあるだけ用意するのじゃ!」とノリノリで宣言するのだった。
これは今夜は帰れないなと内心やれやれと思うルミナスと、ご馳走と酒にありつける事にご機嫌なミラベルだった。
「申し訳ないのですが」と、セバスが口にする
「なんじゃ?無理だとでも申す気か?」と言うセレナのアツに少々申し訳なさそうにセバスは
「眼鏡、返していただけますか?」と言うのだった。




