1.海辺の酒場にて
それはまさしく唐突と言う言葉がふさわしく、ここ渚の海猿酒場でオレが一人エールをあおりながら時間をつぶしているときに起こった出来事だ。
「オジサン、ウチのこと買ってよ。悪いようにはしないからさ」
そう言って声をかけてきた少女はあどけない笑顔を見せる。周囲を見回してもほかに該当しそうなやつはいない。
どうやら少女は、まだお兄さんだと思っているオレに話しかけているということで間違いないだろう。
「オレはまだオジサンじゃないんだが…… それに子供のくせにそんな笑えない冗談で大人をからかうなんて悪趣味だぜ?」
「でも期待してるからこんなところにいるわけでしょ? しかも一人でさ。目的はなに? 名声? お宝? まさか出会いを求めてるなんて言わないよね?」
「そうだな、そのすべてが当てはまっていると言えるし、全てが的外れとも言えるかもしれない」
「つまりそれってただ暇してるってことじゃないの。だったら少しくらい話を聞いてくれてもいいんじゃない? ちょっと今手持ちが少なくて欲しいものが買えないんだよね。だからお願いっ!」
こんなところを誰かに見られたらなんと思われるだろう。もしかしてたまに耳にする美人局紛いな悪さじゃないだろうな。
オレはそんなことを考えながらあたりを見回した。
だけどこんな真昼間の公園には子連れのママさんたちか、犬を散歩させているじいさんばあさんくらいしかいない。
つまりはオレもこの子も場違いであるのは間違いなかった。
「なあ、オレが金を持ってるように見えるのかどうかは知らないが、明らかに年上なことくらいはわかるだろ? そんな男に話しかけていいと思ってんのか? 下手すりゃ事件だぞ」
「でもそれってオジサン、違った、お兄さんにとって事件にされちゃうってことでしょ? つまりウチにはあんま関係ないし? それより急がないと間に合わなくなっちゃうじゃないのさっ!」
「そんな若いうちから金金言ってたらロクな大人になれないぞ? それでいくら足りないんだ? 何に使いたいのかは知らないけど、少しなら援助してやってもいい」
「ホントに!? とりあえず最低でも200万かな。できれば320万くらいあれば大丈夫だと思うんだけど…… 出してくれたらオジサ、お兄さんの言うことなんでも聞くからさ、お願いっ!」
「随分と吹っかけてきたもんだな。ってことは自分にそんな価値があるって考えてるわけか。自信過剰なのか世間知らずなのか、まったくあきれるよ」
「でもこんなところで出会ったのも何かの縁じゃん? もう頼れる人がいなくて困ってんのっ! お兄さんの希望通りのことなんでもするから、ねっ?」
そう言ってウインクをしながら舌をペロッと出してくるところを見てしまうと、どうにも甘え上手だと感じ財布のひもが緩みそうになってくる。
今なら誰にも見られていないし問題になることもないだろう。
ちょうど一人ではつまらないと感じていたところだ。渡りに船だと誘いに乗ってしまうのも悪くない。
そう考えたオレは、呆れたようなそぶりを見せながら少女へ向かってスマホを差し出した。




