雨宿りと三本の傘 (3)
アルバイトくらいは出来るようになった私は、駅に向かっていた。
降りた先でいきなりの雨に困っていると、1人の男性が傘を差し出してきた。
「これ、使ってください。じゃ」
大量の雨が降っているというのに、彼は私に傘を手渡すと行ってしまった。
「………………折りたたみ傘」
真っ黒い折りたたみ傘を広げる。
折りたたみ傘を使ったのは、いつぶりのことだろう。とか、考えながらバイト先へ向かった。
バイト先の先輩に聞くことにしてみた。
「ビニール傘と普通の傘だったら、どちらを大切にしますか?」
「そりゃー普通の傘じゃない?ビニール傘すぐ壊れるし」
返答としては、やっぱりそうなるよね。みたいな感じがしていた。
「じゃー普通の傘と折りたたみ傘だったら?」
「……折りたたみ傘を使う人は、心配性なだけじゃない?」
バイト先の先輩は、私の質問をどうやら性格診断だと思っているみたいだ。
私の中では、普通の傘を持っている人は、今日雨が降ることを知っていた人のことをさす。
けれど、折りたたみ傘というのは、いつなんどき自分に雨が降ったとしてもいいように携帯している物だ。
だとするなら、私の中での優先順位は折りたたみ傘の方が上なのかな?という気持ちがしたんだ。
そう、つまりは傘の最高峰は折りたたみ傘だという結論だ。あくまでも個人の見解である。
そんなものを借りてしまっていいのだろうか?と思ったわけだ。
「先輩は、他人に折りたたみ傘を貸したら返して欲しいですか?」
「折りたたみ傘は、人にあまり貸さなくない??」
「ですよね?!」
そう!つまり、人にあまり貸したくないようなものを、わざわざ借りてしまった私は、どうにかしてコレを返さなくては!という気持ちにかられたわけなのだ。
それからというもの、傘を借りた時間の電車に乗って、バイトに遅れない程度の時間を使って駅で傘の男性を探すことにした。
「………いないなぁ」
2週間くらい経過するも、相手を探すことができないでいた。
そんなある日、バイト先の帰りに電車に乗るために駅に向かっていた。
すると改札のあたりで傘を貸してくれた人に出会うことが出来た。
「あ!あの、そこの人…ちょ、ちょっと待ってー!」
私は、人混みをかき分けて男性を追いかけた。
やっとホームまでやってきて、相手が立ち止まった。
「あの、すいません。……傘」
振り返った男性に見えるように傘を差し出した。
「え?こないだの?」
「はい。コレ、あなたからお借りした物です」
相手はびっくりしながら、折りたたみ傘を受け取った。
「返さなくても大丈夫だったのに」
「いいえ、そういうわけには!あなたにとって、とても大切な物のはずです」
私の小学生の時の卒業記念品が、自分の名前が入った傘だったんだけど、いつしか失くしてしまった事がとても悲しかったことを思い出す。
男性の傘は、ただの折りたたみ傘で、どこにでも売っているものなんだろうけれども、それでもきっと傘だって持ち主の元に帰りたかったはずだ。
「探してくれて、ありがとう」
男性が私に頭を下げるけれど、私もペコリと頭を下げた。
男性は電車に乗っていった。いまさらながらに思ったのだけど、そんな番人に優しくできる人と付き合えたなら、きっと自分は幸せになれるんだろうな。と思わずにはいられなかった。
相手にとって、私なんか記憶の端にも残らないような存在なんだろうけれど。




