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雨宿りと三本の傘 (1)

※自殺など、センシティブな内容を含みます。

あまり精神の強くない方は読み進めないようお願いいたします。

 ここは、行き場を失くした人達で溢れたプレハブ小屋だった。

 毎日笑い声が聞こえていて、夜遅くまで電気がついていて、オトナの人たちがお菓子をくれたりした。

 家にいることを嫌った私が唯一生きていられる場所だった。ここにたどり着くことが出来なければ、今の自分はいなかったと断言できる。

 ここには、自分と同じような高校生もたくさんいた。みんなが何を思ってここに来ているのかなんて、そんなことは何1つとして知らないのだけれど。

 みんなは、ここにさえくれば笑っていた。きっと何かから解放されて嬉しかったんだと思う。

 でも、私はここにきてもなお笑うことなんて出来なかった。ずっとここで暮らせるわけではないからだ。

 家に帰れば、あの怒号のような叱咤が飛んできては部屋にこもり、籠もったところで牢獄のような穴から常に監視されている。…目線が気持ち悪い。私は、人の目線があまり好きではなかった。

 学校に行っても一人だけ浮いている私に陰でコソコソ何かを言ってる人達が毎日いて、息苦しかった。

 学校へは、親がお金を払っているという後ろめたさから行かないという選択肢は出来なかった。

 このプレハブ小屋にも、たくさんの子がいるけれど、もしかしたら結局私は浮いているのではないだろうか?

 そんな不安がプレハブ小屋の前まで来たのに、扉を開けることすら出来ずにいた。

 迷っている間に雨が降り出してしまった。

「入らないの?」

「…………!」

 気配もないその人は、私の後ろからやってくると同じ傘に私も入れてくれた。

「ココにくるの好きじゃない?」

「……………」

 私は何を言っていいのか分からなかった。ここに来るのが嫌なわけではないんだけど。

「何かを伝えるのに、そんなに決意の色ださなくてもいいよ」

「………?!」

 プレハブ小屋の主は、私には理解できないことを口にした。後々わかった事ではあるが、主にはオーラが視えるらしかった。だから、こんなにいろんな人の気持ちが理解できるのかしら。

 そもそも、私はいま何も口にしていなかったのに。

 私の気持ちを考えてくれる人なんていなくて、私は主のことをすぐに好きになった。

 そんな人達は少なくない。家族以外の頼れる人がいない高校生達が主を好きにならないわけもないんだ。

 けれど、みんなどんどんこの場所から旅立っていく。新しい物を見つけられるんだと思う。

 一過性の通る道とでもいうのか、普通の人の悩みは、ある程度の時間があれば解決するものらしい。

 私の悩みは一生解決しそうになどないが…。

 4月の新学期が始まり、2ヶ月が経つ頃には誰もいなくなってしまった。

 私は主と二人きりになった。

 ご飯も食べれない私に主はせっせと小鳥にエサをやるように食べ物を口に運んでいた。

 それは…私が少しだけ笑顔を取り戻した頃にやってきた。

「……………!」

 私と主しかいなかった空間に彼女は突然舞い降りるように来た。扉は開かれていなかったのに、彼女はこのプレハブ小屋の中に立っていたのだ。

「おはよう。マスター」

 私は、目をぱちくりとさせた。

「可愛いお嬢さんと一緒なのね」

 私よりも年上の彼女は、私よりも低い目線から大人ぶってきた。

 私は、開きかけていた心の扉が一気に閉まる音が自分の耳にもはっきりと聞こえたような気がした。

 ここから、ずっと耳鳴りのような音が聞こえていた。

 プレハブ小屋の中をカーテンで仕切った向こう側で、二人が何かの行為をしているのを私はカーテンのコチラ側で静かに聞いていた。

 この場所も家の騒音とあまり変わらない場所になってしまった。

 それでも私は、このプレハブ小屋を去るのに6年もかかってしまった。


 あの雨の日に濡れながら差し出された傘に救いを求めてしまったからかもしれない。

 自分が子供だったからいけなかったのか、オトナの世界には子供が入れない事を知った。

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