第59話 番外編 面倒だから、ダンジョンは日帰りにした
番外編です。
国になっても、ノアは変わりません。
面倒を溜めないための、いつものダンジョン行き。
朝。
ノアは、
珍しく予定がなかった。
「……今日は」
天井を見て、
少し考える。
「面倒を、溜めない日にする」
完璧な計画だ。
---
と、扉が鳴った。
リリアが、
帳面を抱えて入ってくる。
「ノアさん、
いい予定ができました」
「予定があるなら、
いい朝じゃないな」
「近場のダンジョン、
魔物が増えてます」
ノアは、
天井から目を戻した。
増えると、どうなるか。
もう知っている。
冒険者が潜る。
怪我をする。
ギルドに陳情が来る。
街の見回りが増える。
――全部、面倒だ。
「……先に潰すか」
「そう言うと思って」
リリアが、
帳面を一枚めくる。
「バルドには、
もう伝えてあります」
段取りが良すぎる。
それも少し、面倒だ。
---
昼前。
ダンジョンの入り口。
バルドが、
帳面を開いて待っていた。
「浅い階層で、
数が増えているそうです」
「じゃあ、
浅いとこだけ」
「深くは、
行かないんですか」
「行くと、
帰るのが面倒だろ」
バルドは、
何か書き込んだ。
たぶん「日帰り」と書いた。
---
中。
通路は、
思ったより長かった。
「……歩くの、
面倒だな」
そう思った瞬間、
足の裏が、少し軽くなった。
一歩が、
やたら進む。
「ノアさん、
速いです」
「なんか、
生えたっぽい」
「またですか」
リリアは、
もう驚かない。
バルドが、
帳面に一行足した。
たぶん「短縮」と書いた。
---
魔物は、
確かに増えていた。
だが、
弱い。
「数だけだな」
「はい。
質は、いつも通りです」
ノアは、
面倒そうに手を振る。
振っただけで、
前の一群が転がった。
「……これ、
何のスキルだ」
「聞かないほうが、
早いです」
リリアが、
帳面の余白に丸を書いた。
処理済み、
という意味らしい。
---
奥。
小さな部屋。
石の台に、
古そうな道具が一つ置いてあった。
「宝箱、
ないんですか」
「開けるの、
面倒だと思ったら」
台の道具が、
勝手にノアの鞄へ収まった。
「……収納が、
仕事した」
「便利ですね」
「便利すぎて、
こわい」
バルドが、
帳面を閉じた。
もう、
書くことがないらしい。
---
夕方。
ノアたちは、
街に戻っていた。
歩いて、ではない。
「戻るの、
面倒だな」
そう思ったら、
もう門の前だった。
「……日帰り、
達成」
「お疲れさまでした」
リリアが、
帳面を閉じる。
今日の面倒は、
これで片付いた。
---
通りの角。
子供たちが、
地面に線を引いている。
「それ、
何?」
「ダンジョンごっこ!」
「ここが、
入り口!」
「ここが、
ノアんとこ!」
ノアは、
少し固まった。
(……ダンジョンまで、
ごっこになったのか)
浸透が、
相変わらず早い。
---
夜。
宿のテラス。
コーヒーが、
ぬるくなっていた。
「今日も、
国は平和でしたね」
リリアが言う。
「国、
って言うのやめない?」
「もう、
そう呼ばれてます」
ノアは、
息を吐いた。
点だった街が、
線になって、
面になって、
いつの間にか、
そう呼ばれるようになった。
だが、
やっていることは変わらない。
面倒を、
少し減らしただけだ。
---
「……また、
増えるんだろうな」
「魔物ですか」
「面倒が」
リリアは、
小さく笑った。
「そのときは、
また日帰りで」
「……だな」
それだけだった。
世界は、
救われていない。
英雄も、
生まれていない。
ただ、
今日も面倒が、
少し減っただけだ。
それで、
十分だった。
番外編を読んでいただき、ありがとうございます。
国になっても、ノアの一日は「面倒を溜めないこと」で回っています。
派手な戦いも、演説もありません。
ただ、遠回りを減らしに行くだけです。
またどこかで、彼らの日常を書くかもしれません。
その時は、またよろしくお願いします。




